「……なんかスゴいバンド名ですね。聞いた事ないですよ……」
「そう? まあ確かにコアな人達ではあるわね」
「ま〜さしとかは聞かないんですか?」
「いいえ、聞いているわよ。ソロになる前からのファンだわ」
「ほんとですかっ!? いいですよねっ。あのダークでカッコいい感じがっ」
「確かにクールで素敵よね。このVーLIFEの読者質問のコーナーも面白いし」
「おおっ、“問われたら全て答えようぞ”ですね。おもしろいですよねっ」
「ええ。そういえば今月はおもしろい質問があってね」
ペラペラと雑誌を捲る柚菜。その顔はどこか嬉しそうだ。真子は身を乗り出し雑誌を覗き見ながら、
「へえ〜。どれですか? 見せてくださいよ」
「いいわよ。この“ま〜さしの導師M・M”さんて人からの質問なんだけど」
「ぶっ!!!」
「ふふ、どうしたの?」
「い、いえ。何でもありません」
嘘。明らかに問題があった。だが真子は出来るだけ表情に出さないようにする。すると柚菜は微笑みながら、
「そう? ならいいけど」
「え、ええ。で、その人がどうしたんですか……」
「うん。そのM・Mって人なんだけどね、質問がすごく個性的で面白いのよ」
「へ、へぇ〜。ちょっと、その人は解らないですね〜……」
「あらそう? あのね、これなんだけど」
そう言い柚菜は雑誌の一面を真子に見せる。そこには、
導師M・Mより。
Q:漆黒ヲ纏イシ彼ハ過ギシ日々ニ何ヲ想ウテカ?
:ごめん、何を言っているのかよく解らない。だが多分ミカンだと思う。
「客観的に見るとすごい恥ずかしい!!」
「ぷっ、急に大声を出してどうしたの?」
耐えきれずに吹き出した柚菜。それに対して真子は拗ねたように、
「むー……酷いですよ。私が書いたって解ってたくせに……」
「ふふ。いいえ、知らなかったわよ」
「とか言って、顔がさっきより笑顔だったじゃないですか」
「あら? そうだったかしら?」
「そうですよー。全く、ホントにイジワルなんですから」
「ふふ。そう。ところで、何でこんな怪文章を書いたのかしら?」
「怪文章じゃありません! これはま〜さしの初期設定『異次元から来た、よくわからない野菜をバラまく人』だった頃の喋り方を真似たものなんです! 最近懐かしいと思う事はありますか? って聞いたつもりなんですよっ!」
「わあ。サラリと気持ち悪い発言が出て来たわね。まあ、肝心のま〜さるには伝わってないけどね」
「それは放っといて下さい! ってか柚菜先輩もファンならそれぐらい解らないですかっ?」
「ああ。それ嘘。あなたに話を合わせただけだから」
「嘘!? じゃあ、私の同士をみつけたと思ったワクワクはどうしてくれるんですか!?」
「ごめん、何を言っているのかよく解らない。だが多分ミカンだと思う(笑)」
「だからそれはもういいですって!」
全力のツッコみをする真子。顔からして相当に恥ずかしいようだ。一方、柚菜は口に手を当てて嗜虐的に笑いながら、
「ふふっ。やっぱり、あなたはこうやってイジるのが一番面白いわね」
「むー……私はイジられるために入部したわけじゃありませんよ……」
「あら? もしかして拗ねた?」
「別に拗ねてません……は〜あ。まあ、今のでなんとなく、柚菜先輩との話し方がわかった気がしますけどね……」
「そう。ならよかったじゃない」
「……なんだか素直に喜べませんけど」
「ふふ。そう」
そう言い再び会話終了。教室に少しの沈黙が訪れる。だがそこに最初のような気まずさはない。むしろ心地よい静寂だ。真子はふと思う。案外、この調子ならやっていけるかも知れない、と。そして、そこに鞄を片手に元気よくドアを開けて、
「いや〜、お待たせ〜」
「あっ、先輩」
「おっ、真子。来てくれたんだなっ」
「当たり前ですよ。だって私も部員なんですから」
「そっか。じゃあよろしく頼むぜっ」
「はい。ところで何をしてたんですか?」
「ん? ああ、ちょっと校長室に用があってな」
「まさか何かやらかしたんですか?」
「違うって。部員(?)が増えたから申請しに行ってたんだよ」
「え? 報告も何も、ここって非公式じゃないんですか?」
「そんなわけないだろ〜。ちゃんと許可は取ってるって。そのつもりでお前も入部届けを出したんだろ?」
「いや、あれは先生に嘘ついて入部届けを貰っただけです。あまりにも様にならなかったんで」
「なんじゃそら……ったく、ウチはこれでもちゃんとした学校承認の集まりなんだぜ。な、柚菜?」
「ええ、まあね……ところで、あの人は何か言ってた?」
「え? ううん何も。普段通り陽気だったぞ」
「そう。ならいいわ」
「あの人?」
「ううん。何でもないわ……じゃあ、そろそろ始めましょうか」
「おうっ、そうだな。真子、柚菜。前に来いよ」
「えっ、あ、はい。わかりました」
荷物を持って立ち上がる真子と柚菜。あの人。真子はその言葉が気になったが、今は目の前の事に集中することにした。