下手な事を言ったら俺もあの馬鹿みたいなる。そう考えて逃げに徹する奈川。真子を褒め讃えて機嫌をとろうとする。すると床の方からか細いで、
「な、奈川……」
「リーダー!」
慌てて声の方を見る奈川。そこには瀕死状態の岡崎。彼は声を振り絞りながら、
「いいか……よく聞けよ」
「ああ。言ってくれよ」
緊張した面持ちで頷く奈川。岡崎はすぅっと息を吸う。そして真剣な表情で、
「お前、卑怯だぞ……俺が殴られたらいつも逃げにまわりやがって……お前が先に言わないから、毎回俺が酷い目にあうんだよ。たまには、お前も漢おとこを……みせてみろよっ! ーーゴバァッ!!」
「リーダァー!!」
ついに最後の力を使い果たした岡崎。ヨダレをゴバッと吐いて完全に活動停止。奈川は岡崎の死を悼みながら、
「ありがとう……おかげで目が覚めたよ」
「いや感動的な空気になってるけど、そいつかなり理不尽なこと言ってるからね」
ジト目で突っ込む真子。だが奈川はせせら笑いながら、
「ふっ。何とでも言え。今の俺にお前の言葉は届かん」
「そう。じゃあ何も言わないから早くしなさい」
「ああ。言ってやるよっ! 俺等が好きなのは巨乳の娘だっ! てめぇみたいな貧乳はお呼びじゃねぇんだよっ!!」
「なんでアンタは私に喧嘩を売るのが目的になってんのよっー!!」
グッシャアァー!!
「ヘゲェブーーー!!」
断末魔の叫びを上げる奈川。岡崎と同じくアッパーで吹っ飛ばされる。そして鈍い音を立てて床へと倒れ伏した。真子は深い溜め息を吐いて、
「全くコイツ等は……」
「ふふ。周りがバカだとお互い苦労するな真木」
それまで腕組みをしながら状況を傍観していた松野。そこでやっとニヒルな笑顔を浮かべてその口を開く。真子は不機嫌な表情で、
「松野……とか言ってアンタも変なこと言ったら殺すわよ」
「ふふ。安心しろ」
そこで松野は気取った笑顔から一変。キリッと引き締まった顔で、
「俺は貧乳でも大好きだっ!! だから勘弁して下さいっ!!」
ドゥッシャアッーー!!
「オベェアァーー!!!」
強気で命乞い作戦に出た松野。だがあえなく撃沈。顔面をビンタされて椅子から転げ落ちる。そして床に横たわり戦闘不能。下衆3人組の哀れな最後だった。真子はムスッとしながら、
「アンタに好かれても安心出来ないわよ。ってか貧乳って言うな」
「ぶー! 真子っ! 話が進まないからイチイチ手を出すのは止めろよっ!」
いきなり声を荒げた実。頬を膨らませながら真子を叱る。確かに真子のツッコミやらのせいで話が進んでないのは事実だ。グダグダ感がハンパない状態になっている。だが真子は拗ねた子供のような調子で、
「え〜〜。だって岡崎達が変な事を言うんですもん……そもそもコイツ等って合コンがなんだか分かってるんですかね?」
根本的な所に疑問を持った真子。もしかしたら全く別のものを想像しているせいでこんなにも噛み合ないのではないか。そう心の中で思う。すると、
「ふふ……バカにするなよ。そんなの愚問だ」
意識を取り戻し床から立ち上がった奈川。不気味に笑いながら再び椅子へと腰掛ける。真子は不機嫌そうに、
「じゃあ何なのか言ってみなさいよ」
「ああ。お金を払って女の子と話す事だろ? よくスーツ着た人に誘われるぜ」
「それは合コンじゃないしキャッチに捕まっただけだろ! いくらフケ顔だからって高一で変な店に行くなよっ!」
奈川の勘違いに全力でツッコむ真子。コイツおっさん顔を活かして本気で行ってるんじゃないだろうな。そんな不安が頭を過る。奈川はキザな笑顔のまま、
「冗談だ。大体分かってるって。あれだろ? ご飯とか色々奢って上機嫌にさせて楽しくお喋りする事だろ?」
「うん。大体間違ってるね。っていうかそれじゃ変なお店と変わらないじゃん」
「バカヤロウ!! 俺はお金で買える愛もあると思っている!」
「アンタがバカヤロウだよっ!」
奈川の喝に対して喝で返す真子。そして今までで一番大きい溜め息を吐き、
「は〜あ……もういいわよ。確かに私がいると話が進みそうにないし降りるわ。こっからはアンタ達の好きにしなさい」
そう言い肩の力を抜く真子。奈川は口元に手を当てて、
「ふふ。こちらとしてもその方が好都合だ。去りたければ去るが良い」
「はいはい。言われなくてもそうするわよ……じゃあ二人ともごめんね。私はもう抜けるから」
左側を向き申し訳なさそうに二人を見る真子。美子と千佳子は笑顔で、
「あは〜。真子ツッコミお疲れ〜」
「私はまだ見てても飽きなかったけどね〜」
「いやさすがにこっちが疲れてきたよ……私は適当にダラダラしてるね」
そう言い右ポケットから携帯を取り出す真子。早速 “ま〜さし”のブログをチェックし始める。すると奈川はその様子を見てニヤリと笑い、
「ふふ。これで邪魔者はいなくなった。者共立ち上がってもよいぞ」