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無料オリジナル小説 ボラ魂2ー12

 禄那市民テニスコート。〜の全5フロア。1フロア3面仕様の全15面からなるテニス場。その他設備も充実しており、市外からの利用者も多い。人気のレジャースポットだ。

「お待たせしました……あれ? 先輩は?」

「……まだ来てないよ」

 フロア。フェンスに囲まれた屋外コート。そこの第二面。種類はハードコート。勝負の舞台となる場所。準備を終えた真子。ラケットを抱え、ウェアを着込んだ黒いジャージ姿で登場。だが実の姿はない。いるのは美子だけ。むすっ、とした表情で、ポールに寄りかかっていた。

「まあ、実さんならそのうち来るでしょ」

「……うん、そうだね」

 そう言って、美子の横に並ぶ真子。でも特に会話はない。喧嘩中。さらに先程いがみ合ったばかり。仲良く会話など出来ない。よって互い無言。少し気まずい空気が流れる。真子は気を紛らわすように、ぼんやりと他のコートでの試合を眺めていた。すると美子が微かな声で、

「……真子……あの、ごめん」

「え……何か言った?」

「だから、ごめん……アンタのラケット折っちゃって……」

「……あぁ、あの事か」

 言われて真子は記憶を遡る。あれは真子が退部を決意した日。美子と大喧嘩した時。場所は学校のテニスコート。時刻は夕方。激しく睨み合う二人。そして美子は言う。『そう……アンタ、テニス部やめるんなら、これはいらないよね』言葉と共に、地面へ叩き付けられたラケット。歪んでしまった真子の愛用。今でも鮮明に覚えている。忘れるはずがない。あんな悲しい顔をした美子は、初めてみたのだから。

「……仕方ないよ。あの時はお互い熱くなってたから」

「それでも私、いけない事した……だから、ごめん」

「美子……もしかしてずっと気にしてたの?」

「べっ、別に……ただ、謝っておかなきゃ気が済まなかっただけ。それだけよ……」

 顔を赤くしてそっぽを向く美子。きっと、自分を許せなかったのだろう。誰よりもテニスに対して真剣だから。だから許せない。感情に任せて、ラッケトを破壊した自分を。だから謝るのだ。たとえ喧嘩中でも。たとえ互いに非があったとしても。しっかりと謝るのだ。

「ふふっ、そう」

 そんな美子を見ていると、自然と笑みが溢れた。真子も好きなのだ。テニスに夢中な美子が。真面目な美子が。だから嘘をつき続けた。ラケットは自分で壊したと。そう、誰かに知られたくなかったのだ。美子がラケットを壊したことを。汚したくなかったのだ。美子のテニスへの想いを。

 急に笑い出した真子に、美子は赤い顔のままジト目で、

「何よその笑い……」

「別に〜、美子はやっぱ変わってないな、って思っただけ」

「あっそ……ねえ、もう一個質問していい?」

「うん」

「なんで賭け試合なんてしようと思ったの?」

「……それは、先輩があまりにもしつこかったから……つい勢いで……」

「ふぅん……」

「……うん……きっとそう……」

「そう……実さんもアンタも何考えてるんだか……」

「美子?……」

 不意に遠い目をする美子。真子は疑問に思う。だが、何を考えているのか窺い知れない。するとそこへ、

「いや〜ごめん。遅れちった〜」

「あ、先輩……」

「いや〜悪い悪い。ウェア選ぶのに時間かかっちまった」

「実さん……わざと遅れたでしょ」

 美子はずいっ、と前へ。現れた実を少し不機嫌な顔で見下ろす。対する実は満面の笑みで、自分の青いウェアを指差しながら、

「何の事だ? 俺は例え貸出の服にさえも気を遣うオシャレさんだからな。当然時間もかかるんだっ」

「ふん……まあ、いいですけどね〜」

「そっか。よし。じゃあ始めようぜ真子。とりあえず腕慣らしにラリーな」

「あ、はい……っていうか先輩。半袖半ズボンって寒くないですか?」

「うん……ぶっちゃけすごく寒い」

「はあ……ならなんでそんな格好してるんですか?」

「そりゃあお前、神聖なる勝負に長袖なんて言語道断だろ?  むしろ全裸でやりたいぐらいだ」

 いきなりの全裸発言。真子は顔を赤くして、

「なっ、急に変な事言わないで下さい!」

「変じゃないって。古代オリンピックみたいな感じで、きっとカッコいいから」

「知りません! ここは現代日本です!」

「大丈夫だって。試しに真子も一緒に脱ぐか? どうせ無いような胸なんだし」

「だとしても脱げるかっ!」

「いいかげんにしろ」

「いてっ」

 美子はぼすっ、と実の頭を小突く。その手にはテニスボール。どうやらポケットから取り出したらしい。

「全く……全裸でテニスするオシャレさんがどこの世界にいるってのよ……くだらない事言ってないで早く準備して下さい」

「なるほどっ。それもそうだなっ。じゃあ俺あっちのコートも〜らい。美子球くれ!」

「はいはい」

「よ〜し美子。じゃあ準備出来たら笛よろしく〜。寒っ〜」

 球を受け取った実。元気にコートへと駆けてく。

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マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 他に会社に再就職して、 親の老後資金と自分の為に 働きながら漫画を描いております。 どうかお力添えをよろしくお願いします。 拡散などをしていただけると非常にありがたいです。
マーティー木下

この度はこのようなクソ底辺web漫画家のサイトにお越しいただきありがとうございました。
日常のつぶやきみたいな記事が多いので気軽に読んでください。

オリジナル漫画は下記リンクから飛べますので是非ごらんください。

マーティー木下の代表作 自称いけづらの浅間君が主人公の漫画です。
いけづらってなんだろ、いけづらってなに。 自称いけづらの浅間愁と周りが繰り広げるぐだぐたコメディ漫画です。 短いページ数ですので、是非気軽にお読みください。

池面ーいけづらーhttps://mkinoshita-home.com/?p=908


小説家になろうにも掲載されている、私が昔書いたライトノベルの紹介です。
オリジナル小説エンジェルゲートあらすじ

少年、増田 輝希(ますだ てるき)は天使に取り憑かれていた。
「ご主人〜」
そう可愛らしい声で彼を呼ぶのは天使のミカ。
薄桃色のショートボブの少女だった。
「増田のマスター」
その隣で不機嫌そうに呟くもうひとりの天使レミ。
小麦色の褐色肌、さらっした黒の長髪を風になびかせていた。
この二人はタイプは違えど共に整った容姿をしており、何も知らない人がみれば羨むような状況だろう。だが、当の本人輝希の顔は浮かない。彼は二人の天使を交互に見て思うのだ。
一体、なんでこんな事になってしまったのかと。

*少年と天使が織りなすラブコメディです。

2011年頃に書いた作品になります。拙い作品ですがよろしくお願い致します。


小説家になろうにも掲載されている、私が昔書いたライトノベルの紹介です。

オリジナル小説ボラ魂あらすじ

私、真木真子は努力が嫌いだ。
禄那(よしな)市立美咲(みさき)高等学校に通う一年生・真木真子(まきまこ)。
毎日をぼんやりと過ごしていた彼女の前に、
ある日突然現れた先輩・椎野実(しいのみのる)。そして彼は戸惑う真子にこう言い放つ。
「ボランティア部に入ってくれ!!」

*ボランティア部を舞台にしたラブコメ作品です。2010年頃に書いた作品になります。
データが残っていたので、せっかくなのでサイトに順次掲載していきたいと思います。
めちゃくちゃ拙いですがよろしくお願いします。

こちらもよろしくお願いします
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