「うん……お前、すごいよ」
真子は若干怯えながら、
「……今度はなんですか?」
「いやだって、いないぜ!? 一人であんなに騒げる奴! 俺いるのかと思ったもん! 見えない友達とかが! それか何か取り憑いてるのかとか!? いや、ホントそう錯覚するぐらい、スゴいすごい凄いスゴイすげぇよ!!」
「なんかスゴい笑顔で、すごい褒めてきた!」
そしてその全てが、真子の心に突き刺さる。軽いイジメだ。しかも極めつけは、
「いや、ホントすごい同情してるんだよ。まさかこんな奇麗に、こんな残念な写真が撮れるとは……」
実の右手には、ズボンから出したデジカメ。画面にはマイク片手の真子。
「なにこれ!? 私すごい笑ってる! 気持ち悪っ!!」
身を乗り上げ、デジカメを凝視する。それは、まぎれもなく真子だった。そして屈託のない、笑顔だった。
「いや〜〜ホント同情するよ?? ボランティア部に入らないと、これをバラまかれる定めなんて」
「いや、そう言うのいいですから、早く消して下さいよ」真子ムカつきゲージ(1)
「消すよ?? 入ってくれたら」
「じゃあ、カメラ貸して下さい」ゲージ(2)
「じゃあ、入ってよ(ニッコリ)」
「ほ・ん・と・コイツはぁあぁ〜〜」
ゲージ。ブチギレた。
「いいかげんして下さい!! 私帰ります!」
真子はチラリ壁掛け時計を見る。時刻は七時。今から帰れば、見たいTVに間に合う。余裕だ。
無駄な時間を過ごした。入る気なんてないのに。これっぽちも。
「ごめんごめんっ。ふざけすぎたっ。まってくれよ」
がしっ。腕を掴まれる。
「いやもういいですからっ」
強引に振り払う。だが解けない。相変わらずスゴい力だ。ちっさいのに。
「ってか大体なんで私にこだわるんですかっ!!」
まあ、誰でもいいから、部員が欲しいだけだろう。真子はそう思っていたが、
「頼む!! 中学でボランティア部だった、お前が必要なんだよ!!」
返って来たのは意外な言葉。動揺する。真子は思わず腕の力を落とす。するっ、と握られた腕が解ける。実と向き合い真子は、
「なんで、それを……」
「知り合いに聞いたんだよ。元部長の一年生がいるって」
動揺する真子とは対照的。笑いながら実は答える。
「な? お前なら経験者でしょ? だからお願い!!」
両手を合わせ頼み込む実。でも彼女は答えられない。
「……失礼します」
頭を下げ教室を出ようとする真子。元部長。それはいい。だが他には触れられたくなかった。もう思い出したくないのだ。
「まってくれよ!!」
再びせまる実の手。でも今度は躱した。掴まれる事なく、鞄を持ちそのままドアの方へ。
早く家に帰ろう。
「急にどうしたんだよっ!!」
珍しい実の焦り声。だが真子は止まらない。仕方なく再び腕を掴もうとする。その時ーー
「もういいよ。そんなムキにならなくても」
突然の声。声は教室の隅、窓際から。実、真子は視線を声の方へ。
そこには少女がいた。鋭い目。細い眼鏡。長い黒髪。スカーフからして二年。ひっそりと椅子に腰掛け、手には本。題名は“猫の生態”。
初めからか、それとも途中からか。よくわからない。だが、そこには“美咲高校ボランティア部(仮)部長”の姿があった。
「別にその子じゃなくても……そもそも部員自体、特にいらないし」
“柏木柚菜”は言葉を続ける。ボソッ、と独り言みたく呟く。視線は本に向けたまま。冷たい口調。柚菜の容姿のように。横目で真子をチラリ。そしてまた本へ。
「でも、柚菜〜〜 このままじゃ廃部だぜ〜〜 部長だろ〜〜」
まるで正反対な実の口調。でも柚菜は変わらす冷淡に、
「まあ、それならそれでも……。ていうかまず創部すらしてないし」
真子は呆れ気味に、ボソッと、
「……どっちが部長だか解らない台詞ですね……」
「関係ないでしょ、あなたには」
柚菜は言い放つ。まだいたの? そんな感情入りの視線で。突き刺すように。
「っ!!」
真子は思う。なんかこの人は好きになれない。帰ろう。でも、ここで帰るのはなんか負けた気がする、とも考える。
「そうですね、どうでもいいですよっ。もう帰りますよっ!! ってか、そっちが無理矢理連れて来たんでしょ!!」
教室中に響く真子の怒声。でも柚菜は眉ひとつ動かさず。冷たく鋭い柚菜の視線、怒りに震える真子の視線。互いににらみ合い。
「ちょっ、な? 落ち着こうぜ二人とも」
止めに入ったのは実。二人の視線を受ける。苦笑い。
「「そもそも先輩が……」」
そんな言葉と、鋭い怒りの視線×2。
「だって柚菜〜〜 元ボランティア部・部長だぜ? ぜひ入部を!! ってなるだろ?」
「はあ……」
柚菜は大きく溜め息。
「実、知らないの?」
柚菜は感情を、怒りから呆れへ。そして、決定的な事実を告げる。
『あそこの中学のは、活動なんかしてなかったわよ』
「っ!!」
ビクッ。真子は大きく身体を震わせる。
でも構わずに、柚菜は言葉を続ける。
「聞いた話によると、他の部からはみ出た人ばかりで、みんな内定目当てだったらしいし。だから、そんな子を入れたってーー」
真子は駆け出した。
最後まで聞きたくない。鞄を手に全速力。遠ざかる第四準備室。小さくなる、実の呼び止める声。全てに背を向ける。そのまま階段、下駄箱、校外へ。真子は嫌だったのだ。
“あの頃を思いだすのは。”