オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー8

 ギリッと変わり果てたイワンを睨みつける二人。敵意をむき出しにされている。しかし彼は余裕を崩さない。ニタニタとした笑い顔を浮かべたまま、

「僕は、僕は会いたかったよ、うん。オレ、僕が、またこの世界に戻るには、それには、」

 地獄の果実。それは天使達を惑わせて口にした者に力を与える。天使に歪な姿、悪魔という名称、そして果実に含まれた人間の記憶を与えるのだ。

「君達は邪魔なのさ」

 ニタッと卑下た笑みを浮かべるイワンを臆する事なく睨みつけるレミとミカ。これから彼女達が行うのは悪魔の処分。もう悪魔と化した天使達は元の姿に戻る事など出来ない、つまり堕落した仲間は消滅、殺してしまうしかないのだ。これは天使達の永遠の宿命だった。

「待てよ」

 そこで輝希は立ち上がった。その目には遅れてやってきた涙。正直、彼は状況を全く理解してはいない。目前の生物が何者なのか、何故レミとミカがここにいるのか。そして何故蛍を……。今ここで起こっている事は分からない事だらけだった。だが、そんな事は全てどうでもいいのだ。

 蛍の命をコイツは奪った。だからもうあれが何であれ、存在していいはずがないんだ。

 輝希は滲む視界でその黒い歪な者を睨みつけて、

「お前は誰だ! なぜ、なぜ蛍を殺した!?」

 彼の声はあたりに響き渡った。しかしイワンはその程度で竦みはしない。落ち着いた様子で、

「少年、これは約束さ」

「約束だと?」

 訳の分からない事を言い出すイワン。彼は続けて、

「ああ、そこの少女は言った。あの事故の日、自分の命はいらない。少年を助けて欲しいと」

 イワンでもあるそれはゆっくりと思い出すのだ、目のいくつかを閉じて静かにあの日の事を。 あの日、イワンは増田輝希の死亡報告を受けて下界に向かった。その時点で彼は地獄の果実に手を出してはいた、しかしその姿はまだ元の姿を意地していた。彼は迷っていたのだ。自分の在り方、溢れ出す力の使い道、この後何を成すべきかを。彼は戸惑っていた。自分の中に刻まれた人の記憶、それからなる今まではなかった欲望に。頭の中から語りかけてくる誰かの声に。そんな事を考えながらイワンは下界の現場に着いた。

 そこはイワンが魂を回収しに来た時によく見られる、ありふれた事故現場というものが広がっていた。横転した車、頭部に致命傷を受けて倒れ込む男ーーおそらくこれが増田輝希と呼ばれる少年だろう。そしてその横には、やはりいつもと変わらない。

 そこにはいつものように、大切な人の死を嘆く誰かがいるのだ。輝希、輝希、今回の娘はそう叫びながら倒れた死体へ必死に叫ぶのだ。しかしいくら叫ぼうとも、いくら願おうともその意識が戻る事はない。イワンにはわかる。だって、自分がここにいると言う事はそういう事なのだから。普段、いや以前までならこの光景に何の感情も感じなかった。ただ仕事をこなす。ただそれだけだった。

 しかし頭の中で彼の記憶が叫ぶのだ。地獄の果実を口にしてから頭の中に浮かぶ見知らぬ光景。自分が体感した事のない様々な記憶。それに遠藤来人という名前。

 そしてそれは徐々にイワンと溶け合っていくのだ。自分の中に、自分のものなのかさえ分からぬ感情が生まれた。

 目の前の少女は悲劇のヒロインなんだよ。愛する者を突然失った可哀想で愛しい素材なんだ。だが足りない。物語、愛はもっとインパクトのある終わりが欲しい。もっと、もっと痛みのある話が良いんだ。心にも、身体にでもいい。もっと痛みが僕は欲しいんだよ。

 イワンであり遠藤来人でもあるそれは静かに、久しぶりに胸を高鳴りを感じながら考えを巡らすのだ。

 彼は天界の状態をスウッと静かに解いた。そして彼は泣き叫ぶ赤土蛍の前に姿を現して、ニタッと下品な笑いを浮かべるのだった。

「イワン、まさか」

 そこまでの話を聞いていち早く真実に気付いたのはレミだった。先程よりも強い怒りを込めてイワンを睨みつける。しかしイワンはニヤニヤとした口元を崩さずに彼は話を続ける。そして、その口元をさらに嬉しそうに歪めて

「ああ。だからおれは、ぼくは、その少年に与えたんだ、」

 

「ーー彼女の命を」


ABOUT ME
マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 他に会社に再就職して、 親の老後資金と自分の為に 働きながら漫画を描いております。 どうかお力添えをよろしくお願いします。 拡散などをしていただけると非常にありがたいです。
マーティー木下

この度はこのようなクソ底辺web漫画家のサイトにお越しいただきありがとうございました。
日常のつぶやきみたいな記事が多いので気軽に読んでください。

オリジナル漫画は下記リンクから飛べますので是非ごらんください。

マーティー木下の代表作 自称いけづらの浅間君が主人公の漫画です。
いけづらってなんだろ、いけづらってなに。 自称いけづらの浅間愁と周りが繰り広げるぐだぐたコメディ漫画です。 短いページ数ですので、是非気軽にお読みください。

池面ーいけづらーhttps://mkinoshita-home.com/?p=908


小説家になろうにも掲載されている、私が昔書いたライトノベルの紹介です。
オリジナル小説エンジェルゲートあらすじ

少年、増田 輝希(ますだ てるき)は天使に取り憑かれていた。
「ご主人〜」
そう可愛らしい声で彼を呼ぶのは天使のミカ。
薄桃色のショートボブの少女だった。
「増田のマスター」
その隣で不機嫌そうに呟くもうひとりの天使レミ。
小麦色の褐色肌、さらっした黒の長髪を風になびかせていた。
この二人はタイプは違えど共に整った容姿をしており、何も知らない人がみれば羨むような状況だろう。だが、当の本人輝希の顔は浮かない。彼は二人の天使を交互に見て思うのだ。
一体、なんでこんな事になってしまったのかと。

*少年と天使が織りなすラブコメディです。

2011年頃に書いた作品になります。拙い作品ですがよろしくお願い致します。


小説家になろうにも掲載されている、私が昔書いたライトノベルの紹介です。

オリジナル小説ボラ魂あらすじ

私、真木真子は努力が嫌いだ。
禄那(よしな)市立美咲(みさき)高等学校に通う一年生・真木真子(まきまこ)。
毎日をぼんやりと過ごしていた彼女の前に、
ある日突然現れた先輩・椎野実(しいのみのる)。そして彼は戸惑う真子にこう言い放つ。
「ボランティア部に入ってくれ!!」

*ボランティア部を舞台にしたラブコメ作品です。2010年頃に書いた作品になります。
データが残っていたので、せっかくなのでサイトに順次掲載していきたいと思います。
めちゃくちゃ拙いですがよろしくお願いします。

こちらもよろしくお願いします
no image 伝説の詩人・雪平重然の自由詩集

歴史の闇 平安詩人バトルロワイヤルで命を落とした伝説の詩人・雪平重然の自由詩集7

2024年4月8日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
※この記事はフィクションです。 平安詩人バトルロワイヤルとは 平安詩人バトルロワイヤルとは 和歌全盛期に行われた最強の …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー19

2023年1月25日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
 それはそうだろう。僕に髪が薄桃色だったり、地肌が小麦色の褐色している親戚なんていない。あっさりバレると思ったがそうでもないのか。さすがにずっと一緒にいて何でも知っている蛍に親戚 …
オリジナル小説

無料オリジナル小説 ボラ魂 2ー23

2023年7月2日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
『何一人でブツクサ言ってんだ?』  気付くと横に和也が立っていた。真子は椅子から飛び上がり、 『なっ!? え!? い、いつからそこにっ?』 『今来たばっかだよ。 …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー21

2023年1月25日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「ぷ」  輝希がしばらく一人であれこれ考えていると、またもや彼女の口から、ぷ、と少しずつ空気が漏れ始めた。 「バーカ。冗談よ」  そう言って舌を出す彼女。その様 …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第2章ー20

2023年2月1日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「とっ」  椅子にでも躓いたのだろうか。ぐらっとゆっくり傾く彼女の身体、蛍はその場に倒れかけそうになる。 「あぶないっ」  輝希はすかさず声を上げたがテーブルの …
no image 伝説の詩人・雪平重然の自由詩集

歴史の闇 平安詩人バトルロワイヤルで命を落とした伝説の詩人・雪平重然の自由詩集21

2024年4月23日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
※この記事はフィクションです。 早見沙織さんええ声や好き 平安詩人バトルロワイヤルとは 平安詩人バトルロワイヤルとは 和 …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー20

2023年1月25日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「あ、待って私もそっち方面だから。バス停まで一緒に行こうよ」  と言ってバス停(小学校前)の方向を指差す彼女。普段あちらの方に行かないので詳しくは分からない。しかし山に囲ま …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー15

2023年3月21日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
当然だ。だってイワンは元の場所から一歩も動いてはいないのだから。ただその場で長い爪で自分を傷つけぬよう軽く拳を握っただけだ。ならばその痛みの正体は、 「ふん、私の怒りの感情 …

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です