そこそこの顔立ちに人当たりの良い性格である輝希。友達も多い方だし先生の評判も良く学校でもそれなりに顔は知られている方ではあった。そんな彼が二人の美少女と一緒にいた、そんな事を噂されたら学校全体で話題に、という事はないだろうが少なくとも一人や二人はからかう奴が出て来るだろう。別に輝希は茶化されても気にするタイプでもないがその際に一つだけ気がかりな事があった。それは幼なじみの赤土蛍せきどほたるにその事が知れてしまうこと。輝希と蛍は家も近く物心つく前からの仲でいつも一緒だった。だから特に彼女に対して恋のような感情があるわけでもないがなんとなく他の女性といる事を知られるのは嫌だった。自意識過剰な事を言えば、それは彼女に対する裏切りのように感じられたからだ。まあこれは輝希がそう考えているだけであって当の本人は全然そんな事は思わないかもしれないのだが。
と、ここで輝希の左隣からミカに向かいグイッと顔を近づける者がいた。彼女の名前はレミ(こちらもあだ名)だ。そしてこちらの彼女も輝希に取り憑いた天使だった。まあ容姿についてもこちらも同じくというべきか間違いなく美少女だった。腰まで長く伸びた黒髪にキリっとしたつり目、たるみのないすらっとした顔のライン、そして褐色の肌に青い瞳をした小柄な少女。どちらかといえば天使というより小悪魔、そちらの方がしっくりとくるような外見をレミをしていた。彼女は輝希を挟みそのほとんどない胸が彼に当たりそうなぐらい身体を寄せミカに耳打ちするように小声で、
「ミカ。下界状態になれ。私はこの一ヶ月でおぼえたぞ。これは増田のフリだ。やれという合図なんだよ。テレビでよくやっていた。ちなみにリュウヘイなる者がこれの達人らしいぞ」
「さっすが一流企業から左遷してきたレミちゃん! 勉強家だ! 私それが誰かわからないけど」
「そんな無駄な知恵ばっかり覚えないでもっと常識を覚えてくれないかな。あとミカそれ褒めてんの?」
よく分からぬ賞賛を浴びせるミカにボソッとツッコむ輝希。するとレミは自慢気な態度を一変。ツンとした目を細めて不機嫌に輝希を睨むように、
「ふん。増田のマスターはもっと笑いを研究したほうがいいな。この一ヶ月君をみていたが何もおもしろい事がない。おでんも普通に食べるし風呂も中途半端な温度に浸かるし女みたいに長いしな」
「あの人だって普段からそんな事してないよ。あとゴロがいいからって僕を変な名前で呼ばないで。僕は君達のマスターでもご主人でもないんだから」
「そんな〜。このつまらない人との反強制生活を少しでも楽しくしようとして考えたのに〜」
「ミカも僕の事つまらないっておもってたの!?」
「ふん。そう言う事だ。君もいまのお笑いレベルでは天国に行ってからやってけんぞ。今からでももっとボケやノリを研究しろ。ツッコミは及第点だ」
「いいよ別にっ。僕は別にあっちでコメディアンになりたいわけじゃない」
「ふん。情けない。君はあの世で第二のリュウヘイ、いや天国の上島と呼ばれたくはないのかね? 一躍大スターだぞ」
「それじゃ上島さん死んだみたいだろっ。やめろよ怒られるぞ」
ゴチャゴチャといつものように口論になってしまう三人。輝希もつい声を荒げて反論してしまう。するとさすがに声に気付いたのか不審な目で一番後ろの輝希の席を見始める乗客達。特に一番近い女子高生の視線が痛い。ケータイを弄る手を止めて何事かとこちらをチラチラと見ている。するとそこで下車のアナウンスが流れた。普段降りるバス停ではないがチャンス到来だ。輝希は先程よりも小声で、
「レミ。ミカ。降りるよ」