自分とミカの言葉に引っかかりを感じたレミ。独り言のように小さく呟く。彼女は再び俯き一人確信した様子で、
「そうか、これなら納得出来るな……増田よ」
答えを導き出し輝希を真っ直ぐ見つめるレミ。そしてその結論は彼や彼女達にとっても意外なものだった。
「君は今、生きているんじゃないのか?」
「い、生きている、僕が?」
話の全てが覆す結論。驚く輝希やミカをよそに、レミはこれしかないといった態度で、
「ああ。私は自分でいうのもなんだがエリートだ」
「はあ……そうなんだ」
「うむ。任務は一度だって失敗したことはないし、これまでどんな強い魂だって持ち帰って来た」
と自信満々に言うレミだが、正直輝希にはそのすごさが伝わらない。だがミカは随分と彼女を慕っているようだし、レミには確かに知性や仕事の出来そうなオーラを感じた。逆にミカにはそんな雰囲気など皆無なのだが。
「しかしだ、そんな私にもどうして運べないものはある」
とそこで自信満々な態度を崩すレミ。真顔でビシッと輝希を指差して、
「それは、生きている人間の魂だ」
「……」
「ええ。私達はあくまで死者の魂を 仕事にしている。だから生きている人間の魂を無理矢理……なんてことは出来ないんですよ」
ここで初めてまともな補足をいれるミカ。増田輝希は生きている。確かにそう考える方が自然だった。現に彼の身体はこうして活動しているのだから。というか、生きているかどうかは彼女達専門家からみればすぐに分かった事じゃないのだろうか。輝希がそう疑問に思っていると、レミは低い声色で、
「そういう事だ……ふむ、確かめてみるか」
「た、確かめるって、どうやって?」
確かめる、そう言いグイッとベッドの上に身を乗り出すレミ。輝希は急に美少女の顔が近づいて来たので思わず退く。目を横に背ける輝希をよそにレミは彼をまっすぐ見つめて、
「脈を計るんだ」
普通すぎるだろ。ていうかそれなら自分で出来るわ。
「……ものすごく当たり前の方法なんだけど。それで本当に大丈夫なんだよね?」
「む、疑っているのか、大丈夫任せたまえ」
眉間に皺を寄せて低く呟くレミ。言いながら彼女は輝希の下腹部へと右手を持っていき、あれ? レミさん、そこ僕の股間なんですが、
「あれ、脈がない。やっぱ死んでるわ」
「いやそこで確かめるなんて聞いたことなからっ」
輝希の股間を右手で押さえつけてレミは死亡宣告を言い渡す。だが彼はすぐさまそれを否定。焦りながらバッと彼女から離れる。輝希は突然の事態に脳が追いつきボッと顔が赤くなるのを感じた。
「……普通手首とかでしょ、ほら」
といいそっぽを向きながら腕を差し出す輝希。恥ずかしさから彼女と目を合わせれない。だがレミは気にした様子もなく冷静なまま、
「失礼、私とした事が間違った知識を得ていたようだ。では改めて」
ぴとっ、と彼女の指先が輝希の腕をそっと掴む。その触れる指先には、やはり体温といったものは感じられない。だがそのヒヤッとした華奢な手はとても女の子らしくて、さらに顔が赤くなってしまった。
「動いているな」
「そうですか……じゃあやっぱり増田さんは生きているんですね」
と原始的な方法ながらも輝希はまだ生きている事が証明された。だが不思議とあまり喜ばしくもなかった。それは死んだという実感があまりにもなかったからか、それとも幼なじみの蛍が助かった事を既に知っていて気が抜けていたからだろうか。その答えは前者だろう。普通に考えたら嬉しいに決まっている。だって助かったんだぞ。奇跡的に二人ともだ。そして明日になればまたいつものように蛍と会える。いつものようにくだらない事で笑い合えるんだ。そう彼女といられる日々をこれから続けられる。これからも一緒にいられるのだ。それが嬉しくないはずがないだろうと彼は心の中で強く思う。と、そこで輝希は気になっていた疑問を口にする。