オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー12

 輝希へと近づいた彼女はそう言い頭を下げる。無表情で愛想がないのはいつもと変わらない、でもその言葉には彼女の気持ちが詰まっている気がした。

「きっとお前の事だ。あの事故の日、自分を犠牲にして蛍を助けようとしたんだろう。お前にとって彼女はとても大切な人なのだから、多分、自分の命よりも……」

 大切な人、おそらくそんな一言で片付けれない程に蛍は彼にとって特別な存在だったのだろう。でも彼女なりに輝希の気持ちを理解しようとしているのだろう。そんなレミの気持ちのおかげで輝希は少し落ち着きを取り戻した。

「レミ……君が謝る事じゃないよ……自分を犠牲にして僕を生返らせる事は蛍が望んだ事なんだ……それに、僕が、」

 そう、これは決してレミのせいなんかではない。確かにきっかけを与えたのはレミの元部下であるイワンという男だ。だが蛍は自ら望んだのだ、自分の命と引き換えに輝希を蘇らす事を。彼女は願ったのだ、輝希もそうだったように、

 自分自身よりも、大切な人がこれからも生き続ける事を。だから蛍はあの悪魔へと従ったのだ。だが、

「僕が蛍からしっかりと事情を聞いていれば……こんな死に方なんてしなかったはずだ」

 先程の光景が頭の中から焼き付いて離れない。切断された彼女の頭部。ズルリ、とそれが落ちるスローモーションになったかのような光景。首から離れたそれが地面へ落ちる鈍い音。  なぜ彼女があんな酷い目に遭わなければいけなかったのか、どのみち魂を失った彼女は死を待つ定めだったかもしれない。でももっと違う別れもあったんじゃないのだろうか。すぐに彼女の様子がいつもと違う事に気付いていれば、後ろで糸を引くあのイワンという男に気付いていれば、あんな残酷な最後は免れたかもしれない。

「……そうだな、お前が彼女の異変に早く気付いていればこんな別れ方は避けれたかもしれない」

「レミちゃん、そんな言い方をしなくても」

 レミの責めるような言葉に反論したのはミカ。これがイタズラならば彼女はおそらく便乗してきただろう。だがミカは決して輝希が本当に嫌がるような事はしない、彼が傷付く事をミカは決して望まない、レミに不機嫌そうな顔を向けるその姿からは彼女の優しさが垣間見えた。

「いいんだミカ、レミの言う通りだよ」

 でもそう言われても当然かもしれない。レミとミカには分からなかったかも知れないが、輝希なら気付けたはずだ。ずっと彼女だけを見てきたのだから。彼女が例え隠そうとしていても分かったはずだ。

 いや、本当は疑問に感じていた。彼女の時折見せる表情、ふらつく足取りを。だが聞くのが怖かった。蛍がその事に触れられたくない素振りをしていたし、何より、それを知ったら彼女との関係が今までと変わってしまう気がして……。だがそんな風に戸惑っていたばかりに、彼女は死を遂げてしまった。

「だが、それを言うならば私も蛍の中にイワンの気配を感じた時点ですぐに行動に出るべきだった。済まなかった……しかし、こんな話をいくらしたところで虚しい気持ちになるだけだ」

 そう、こんな後悔をいくらしても、もう彼女は戻ってこない。

 そして、イワンを倒したところでもう、彼女は戻ってこないのだ。

「増田よ、ならお互いに前を向こう。私はこれからイワンを討ちに行く」

 一度目を閉じて彼女は呼吸を一つした。再び開いた瞳には確かな覚悟と、少しの怯えが見えた気がした。

「お前はイワン、いや私達のせいで大切な人を失った。言葉ではいくら述べても足りないかも知れないが……この件が終わったらしっかりと詫びさせてもらいたい」

 それは初めてみるレミの表情だった。いつも凛としている態度、その中に何かを恐れているかのような色。きっと彼女は輝希の言葉が不安だったのだ。短い間とはいえ蛍が輝希にとってとても大切な人だという事を知っていたから。そしてレミ自身、蛍は嫌いではなかった、本当に短い間だったが好印象を持てたし、何より輝希にお似合いの人だな、とレミには思えたのだ。だから彼女は怖かった。蛍を失った気持ちの欠片ぐらいは分かるつもりだったから。彼がどんな言葉をレミに浴びせてきてもおかしくはなかったから。だが、同時にレミは知っている。輝希は蛍の死をレミのせいにするような人間では決してない事を。

ABOUT ME
マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 他に会社に再就職して、 親の老後資金と自分の為に 働きながら漫画を描いております。 どうかお力添えをよろしくお願いします。 拡散などをしていただけると非常にありがたいです。
マーティー木下

この度はこのようなクソ底辺web漫画家のサイトにお越しいただきありがとうございました。
日常のつぶやきみたいな記事が多いので気軽に読んでください。

オリジナル漫画は下記リンクから飛べますので是非ごらんください。

マーティー木下の代表作 自称いけづらの浅間君が主人公の漫画です。
いけづらってなんだろ、いけづらってなに。 自称いけづらの浅間愁と周りが繰り広げるぐだぐたコメディ漫画です。 短いページ数ですので、是非気軽にお読みください。

池面ーいけづらーhttps://mkinoshita-home.com/?p=908


小説家になろうにも掲載されている、私が昔書いたライトノベルの紹介です。
オリジナル小説エンジェルゲートあらすじ

少年、増田 輝希(ますだ てるき)は天使に取り憑かれていた。
「ご主人〜」
そう可愛らしい声で彼を呼ぶのは天使のミカ。
薄桃色のショートボブの少女だった。
「増田のマスター」
その隣で不機嫌そうに呟くもうひとりの天使レミ。
小麦色の褐色肌、さらっした黒の長髪を風になびかせていた。
この二人はタイプは違えど共に整った容姿をしており、何も知らない人がみれば羨むような状況だろう。だが、当の本人輝希の顔は浮かない。彼は二人の天使を交互に見て思うのだ。
一体、なんでこんな事になってしまったのかと。

*少年と天使が織りなすラブコメディです。

2011年頃に書いた作品になります。拙い作品ですがよろしくお願い致します。


小説家になろうにも掲載されている、私が昔書いたライトノベルの紹介です。

オリジナル小説ボラ魂あらすじ

私、真木真子は努力が嫌いだ。
禄那(よしな)市立美咲(みさき)高等学校に通う一年生・真木真子(まきまこ)。
毎日をぼんやりと過ごしていた彼女の前に、
ある日突然現れた先輩・椎野実(しいのみのる)。そして彼は戸惑う真子にこう言い放つ。
「ボランティア部に入ってくれ!!」

*ボランティア部を舞台にしたラブコメ作品です。2010年頃に書いた作品になります。
データが残っていたので、せっかくなのでサイトに順次掲載していきたいと思います。
めちゃくちゃ拙いですがよろしくお願いします。

こちらもよろしくお願いします
オリジナル小説

無料オリジナル小説 ボラ魂2ー10

2023年5月17日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「まあね〜。ちなみに楢汐ならしお高校からきたんだけどさ」 「なっ、超名門スポーツ校じゃないですか!?」  楢汐市立楢汐高等学校。他県にある高等学校。スポーツに力を入れ …
オリジナル小説

オリジナル無料小説 エンジェルゲート あらすじ

2023年1月21日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
少年、増田 輝希(ますだ てるき)は天使に取り憑かれていた。「ご主人〜」そう可愛らしい声で彼を呼ぶのは天使のミカ。薄桃色のショートボブの少 …
no image 伝説の詩人・雪平重然の自由詩集

歴史の闇 平安詩人バトルロワイヤルで命を落とした伝説の詩人・雪平重然の自由詩集5

2024年4月8日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
※この記事はフィクションです。 平安詩人バトルロワイヤルとは 平安詩人バトルロワイヤルとは 和歌全盛期に行われた最強の …
オリジナル小説

無料オリジナル小説 ボラ魂2ー3

2023年4月30日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
昼休み。一年二組の教室。授業から解放されて騒ぐ生徒達。購買に行く学生。談笑する女子。エロ本を見始める岡崎達。等、やることは様々だった。 「真子〜、そろそろ行く〜?」  …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

無料オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー23

2023年4月3日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「少し、黙って、くれ、遠藤、とやらの記憶よ」  頭を押さえてイワンは遠藤の記憶を隅へと追いやる。なるほど、一度理解してしまえば容易い …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー5

2023年2月14日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「うん、僕もだよ」  本当に不思議な感覚だった。いつもは彼女が隣にいる事に落ち着きさえ覚えるのに。今はこんなにもドキドキしている。でもそれは悪い意味なんかじゃない。心が熱く …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー11

2023年1月25日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「というかさ、仮に死んでたらその状態でもこうやって身体が普通に動いてるなんて事があるの?」 「ふむ、まあ割と簡単に可能な事だぞ。例えば死んだ肉体に一度離れた魂をいれたとする …

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です