え? 私のやりたい事ですか?」
「ええ。まあ初めの内は私達の活動を見ていればいいんじゃない? 慣れてきたらその時にまた決めればいいわ」
「確かにそうですね。まだ解らないことだらけなのでそうしたいと思います」
「じゃあこれで活動についてはわかったな」
「はい。とりあえずは大丈夫です」
「よし。なら他に気になる事はあるか?」
「気になる事……あ、じゃあ質問なんですけど」
「何だ? 言ってみろよ」
「はい。えっと、ここの部長って柚菜先輩なんですよね?」
「そうよ。ちなみに作ったのも私だわ」
「あ、そうなんですか?」
「ええ。それがどうかしたの?」
「いや、どうして部長をやってるのかな〜って思って」
「それは……」
ほんの少し暗い面持ちを見せた柚菜。だが次の瞬間には いつもの表情になり、きりっとした顔で堂々と、
「一人になれる場所が欲しかったからよ」
よく解らない動機に呆気にとられる真子。気の抜けた声で、
「あれ……なんか意外と不純した理由ですね」
「ええ、そうよ。ちなみに一人になれるなら何でも良かったの。だから“珍棒ちょんぼ地蔵祭り研究会”とか“ゴアグラインド重音部”も申請したんだけど却下されてね。それでこうなったの」
何と無しに言った柚菜。だが入部前にやる気云々を言われた真子としては複雑な心境。拍子抜けした気分。なんかここだけ聞くと柚菜先輩って随分とダメ人間だよな、とも不安に思う。真子は若干呆れながら、
「へ、へぇ〜〜……ん? でも今って一人じゃないですよね?」
「そうなのよね……設立後すぐに実が来て、二人になってしまったわ」
「おっ、ついに俺のエピソードが語られる時がっ!」
「ええ。あなたが邪魔しなければ私は一人でいられたのに」
「ええっ! そんな!!」
「ふふっ。冗談よ……ほんの少しだけは感謝しているわよ」
「マジか!? ついに柚菜が俺の存在を認めてくれる時がっ! よーし! じゃあキスしようぜっ!!」
「ほ〜んと、そういうところがなければね〜」
笑顔の柚菜。キス顔でダイヴしてきた実の後頭部を華麗にキャッチ。そのまま床へズドン。椅子に座ったまま腕の力だけで実を屈服させる。そして再び万力のように徐々に力を込めていく。実は床にキスをしながらジタバタして、
「へぶっ! ひぃぃいー! 真子〜! ヘルプミ〜!!」
「なんか今のは明らかにセクハラだと思うんで、助けたくないです」
「そんなぁー!! うぉおぉお! 俺のジャ煮顔がぁあ! ゲシュタルトと一緒に崩壊するー!! ああぁあぁ!!」
そして実は死んだ。ぷしゅ〜、と音を立てて完全に床へ倒れ伏した。柚菜はすごく生き生きとした顔で、
「ふふ。あ〜。すごくスッキリしたわ」
「はい……確かにスゴい笑顔でしたもんね」
「ええ。こう言う意味では人が多いのも悪くないわね。あなたもイタズラのしがいがあるし」
「むう……私は別に柚菜先輩にイタズラされるために入部したんじゃありませんよ」
「ふふ、そう……なら、ここがあなたにとっても素敵な場所になるといいわね」
そう言いイタズラな普段よりも幼い笑みを浮かべる柚菜。もしかしたら、この人はふざけていてもしっかりと部活の事を考えているのかもしれない。彼女の笑顔を見ているとそんな風にも思えてしまう。だから真子も薄く微笑んで、
「ふふ。そうですね」
「ええ。じゃあ……そうね。次回の活動内容を決めて今日は解散しましょうか?」
「あ、はい。そうしますか」
「さて。ほら、起きなさい実」
身を屈めた柚菜。椅子の上から実の頭をツンツンと突つく。すると小さく消え入りそうな声で、
「……もうアカンて」
「アンダンテ?」
「いや何でそうなるんですか。多分アカンって言ったんですよ」
「あら、そうなの? てっきり緩やかな速度で殴り続けて欲しいのかと」
「どんだけSなんですか」
「ふふ。冗談よ。ほら実。ふて腐れてないで早く起きなさい」
「嫌。なんか奥歯がすごい痛い。帰りたい」
「だから、次の活動内容を決めたら今日は解散だから。早く起きなさい」
「やだ〜!!! 今すぐ帰りたい!! 帰りたい! 帰りたい! 帰りた〜い!!!」
「急に面倒くさいなこの人!!」
いきなり駄々をこね始めた実。真子は思わずツッコむ。だが彼の耳には届かない。実は床に伏した状態で手足をバタバタさせながら、
「ふ〜んだっ!! いいもんっ! 柚菜が相手してくれないならグレてやるもんね! 思いっきり困らせてやるっ!」
「いやいや。そんな事しても逆効果ですから。早く起きた方がいいですよ」
「うるせー!! 寿司でも御馳走してくれないと俺は静まらねぇぞ!! どうだ参ったか柚菜!!」