オリジナル小説

無料オリジナル小説 エンジェルゲート第5章ー3

エンジェルゲートサムネ

「……ごめん、君の気持ちも考えずに自分だけが辛いような言い方をして……」

「増田、別に君を責めるためにこんな事を言ったわけではない」

 声と落とす共に輝希は俯く。レミはそんな彼をジッと見つめたまま言葉を続ける。

「君が蛍を失った事による心の傷は、私が想像しているものよりもずっと深い傷なのだろう。正直、私ではどうする事も出来ない」

 レミは表情に乏しく誤解されがちだが、彼女はとても人の気持ちの分かる少女だ。だから敢えて輝希の方から口にするまでこの話題を避けてきたのだろう。いくら輝希を励ましても、蛍を失った悲しみを分かち合おうとしても、それは薄っぺらなものにしかならないと知っていたから。

「……でもな、それでも生きていかなければならないんだ。私も。お前も」

「レミ……」

 顔を上げて彼女の顔を見つめる。確かに、彼女では輝希が抱えている全てを分かち合う事は無理かもしれない。しかし、それと同じようにレミが抱えている悩みも輝希の想像を超えるものだろう。生まれた地を離れて、仲間や家族とも離れ、“自分だけが違う世界”に来てしまった。その苦しみは“蛍だけがいない”いつもの日常に生きている彼より辛いものかもしれない。でも、それでも彼女はこうして生きている。相変わらずその瞳は深い色をしていた。でもそれはレミが達観した人間だからではない。

 彼女は、ただそう振る舞っているだけなのだ。冷静な自分を保つために様々な感情をレミはしまいこんでいる。だからその瞳のさらに奥、心の中には様々な迷いや悩みがあり、ただそれを隠そうとしているだけなのだ。

 そう、彼女は人一倍自分に厳しいだけの、ただの少女なのだ。

「それに増田、蛍の死を自分のせいだと責めるな。彼女は望んでそうしたのだ。自分よりも、君がこの世界で生きていく事を望んだんだ……だからもう生きている事を責めないでくれ。それは蛍の気持ちを踏みにじる事にもなる」

 そうだ。僕は、彼女が願ったからまだこの世界にいるのだ。悪魔であるイワンに、蛍が自分の命を差し出したから。自分よりも僕が生きる事を望んだから。僕が、彼女に生きて欲しかったのと同じように。

 なら、生きている事をもう否定してはいけないのだ。命をくれた蛍のためにも。

「そうか、そうだね……ありがとう……少し気持ちが楽になった」

 呟いた輝希の口元は自然とほころんでいた。思えば久しくレミの顔を正面から見ていなかった気がする。おそらく輝希は恐れていたのだろう、人と真正面から向き合う事を。蛍を失ったあの日からずっと。

 レミに対して微笑む輝希。その顔はずっと悩んでいたせいか少しやつれた印象だった。でも、出会った頃のような優しい表情がそこにはあったのだ。レミは口元に微かな笑みを浮かべて、

「そうか……よし、では学校へと向かおうか」

「うん」

 頷き二人は再び学校へと歩み始める。しかし、彼女は少し進んだところでまた立ち止まってしまった。レミが後ろをついて来てない事に気付き輝希が振り返ると、

「増田、それともうひとつ言っておく事がある」

「どうしたのレミ?」

 顔をみるとその頬は先程よりも少し赤く染まっていた。彼女は元々感情があまり表情にでない方なので、その変化はより目立って感じられる。一体、どうしたのだろう。不思議そうに見守る輝希に対してレミは静かに、

「増田よ」

 そして彼女は初めてみる満面の笑顔でこう言ったのだった。

 

「約束しよう。私だけは君が死ぬまで、ずっとそばにいると」

ABOUT ME
マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 漫画が好きです。コンビニも好きです。
こちらもよろしくお願いします
no image 伝説の詩人・雪平重然の自由詩集

歴史の闇 平安詩人バトルロワイヤルで命を落とした伝説の詩人・雪平重然の自由詩集20

2024年4月23日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
※この記事はフィクションです。 野水伊織さんええ声や好き 平安詩人バトルロワイヤルとは 平安詩人バトルロワイヤルとは 和 …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー15

2023年3月21日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
当然だ。だってイワンは元の場所から一歩も動いてはいないのだから。ただその場で長い爪で自分を傷つけぬよう軽く拳を握っただけだ。ならばその痛みの正体は、 「ふん、私の怒りの感情 …
オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー5

2023年1月24日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
翌日3月7日。彼は自室で目を覚ました。学校に寝坊しそうになった時みたいにバッとベットから上体を起こしてあたりを見渡す輝希。そこにはまるでいつのも様に自分の部屋が広がっていた。なぜ …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第2章ー3

2023年1月26日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
 輝希から再びチクワへと視線を戻すレミ。頭を押さえて、これは当のレミにしかわからない感覚だが力をコントロールして保留状態を解除する。すると再び会話が通じる状態となり、 「長 …
オリジナル小説

無料オリジナル小説 ボラ魂2ー15

2023年6月2日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「へえ。なら」  ラケットを見つめ、不敵な笑みを浮かべる実。何かを思いついたのだろうか。  いいですよ。勝負です。 「ふっ!」  右利きサーバーから見て右 …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー17

2023年1月25日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「じゃあこの人がご主人のーー」 「ちょっとやめて。今変な事言わないで。思い出したようにご主人とかやめて」  輝希がモタモタしていたら爆弾達は勝手に動き出した。まるで事 …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第2章ー16

2023年2月1日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「輝希が生まれて口にした言葉がね、ぷっ、これが可笑しくて、なぜか“ちくわ〜”って急に喋りだしたらしいよ」 「むう……やはり増田は練り物と何かしら関係が」  と、お前が …

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です