オリジナル小説 ボラ魂4−4
「岡崎君をモテ男にしよう! 合コン式実践講座っ! イエェーイ!! ヒューッ!! ヒューッ!!」
部室の中央。机を六個集めて長机風にしたものを縦向きに置き、それを囲うように座った5人。実は教室正面側に座りながら大声で開始を告げる。するとゲスト二人は窓際サイドに座りながらハイテンションで、
「いえ〜い」
「ヒュー!! 師匠サイコーだぜー!!」
そしてそれに対して部員二人は廊下サイドに座りながらローテンションで、
「……最初っから不安しか感じないんですが」
「ええ。というかみんなとの距離が近いわね」
不機嫌そうに呟く柚菜。どうやら正面に人がいるのが好きではないらしい。時々目の前にいる千佳子から視線を逸らしている。実はあまり乗り気でない二人を奮起させるように、
「おいおい二人とも文句言うなよ〜。これもいわゆるボランティアなんだから。本気でやろうぜ」
「オッス! お三方よろしくお願いします!」
座りながら勢いよく頭を下げる岡崎。真子は少し不満を感じながらも、
「……まあ、そういうことなら仕方ないですね」
「そうね。一応期待に応えましょうか」
「よし。じゃあ後はあいつらが来るのを待つだけだな」
「え? まだ誰か来るんですか?」
「ああ。岡崎君、そのはずだよな?」
「はい。もうじき来ると思いますよ」
「来るって誰が?」
「奈川と松野だよ」
その言葉で真子は思い浮かべる。岡崎の手下である奈川(小太り)と松野(出っ歯)の顔を。そして明らかにテンションを落としながら、
「……なんでアンタ等は常に一緒に行動しようとするのよ」
「だって俺等は共にモテ男になると誓った仲だからななっ。抜け駆けでモテ力を磨くような事はしないのさ」
「なんかさらりと気持ち悪いわね……」
「なんだとっ! 真木だってモテない組ならこの気持ちが解るだろ!」
「なっ!? 誰がモテない組だっ!」「ふふっ」
絶句する真子。柚菜がすごく笑っているがそれを無視して岡崎へとツッコむ。対して岡崎は不満たっぷりの顔で、
「え〜。だって中学の頃から一緒だけどお前がモテてるところなんてみたことないぞ」
「別にアンタ等みたいなのにモテなくてもいいわよっ」
「ひゅ〜〜。あんな強がり言ってますぜ。どうしますかぁ師匠」
憎たらしい顔をする岡崎。左側にいる実へと意見を訪ねる。それに対して実は、ここ30年ぐらいモテた事しかありません。といった感じの貫禄のある顔で、
「ああ、あういう風に殻に籠るのは悪い例だ。君は意地を張らず私の教えを乞うがよい」
「はいっ! 師匠!」
「……逆に私は死んでもアンタのようにはなりたくないわ」
「ふふ、真木。今のうちに強がっておけ……おっ来たみたいだな」
そう言い廊下の方に目を向ける岡崎。確かに二人分ほどの足音がする。なんだかスゴく面倒臭くなってきたな。真子はそんな風に思いながら入り口を見つめると、
「「チョリチョリ〜ッス。邪魔するで〜い」」
「その挨拶流行ってんの!? ってかなんでアンタ等もスーツなのよ!?」
「あは〜、奈川君達もスーツだ〜」
入り口にはスーツを着た奈川と松野の姿。先程の岡崎と全く一緒のポーズで登場。奈川は左手で毛先をいじりギャル男っぽさを演出しながら、
「いやだって真木、モテそうな格好で来いって言われたらスーツ一択しょっ」
「ですよね〜。マジ俺等チャラ男っすわ」
どうやら事前にそういう指示があったらしい。それでスーツなのか、と真子は一応納得。改めて二人を見据える。そこで真子は返す言葉に詰まった。なんというか、すごく残念な見た目だったのだ。
「……」
「おいおい、どうやら真木は俺達のイケメン具合にビビって声も出ないらしいぜ」
「ほんとかよ、マジ俺等チャラ男すわっ」
確かに言葉も出ない。奈川のおやじ顔と小太り体系&スーツによる哀愁感。松野の出っ歯な細顔とハンチング帽&スーツにより滲み出る異様なオーラ。何一つとしていいところがないのだ。こうしてみると岡崎や実がかなりのイケメンだと錯覚してしまうほどだ。真子はなんだか二人に対して優しい気持ちになってくる。聖母のような笑みを浮かべて、
「……そう、だね。とりあえず二人ともこっちに来なよ」
「おう、おじゃま〜っす」
「失礼しますっわ」
「わ〜、ふたりともおもしろい格好だね〜」
「「おもしろいっ!?」」
岡崎と千佳子の両サイドに座った奈川と松野。いきなり千佳子に仮装扱いされていた。ち〜こが天然じゃなかったらきっと苦笑いを浮かべていたんだろうな。そんな風に考えながら真子はその光景を遠い目で見つめる。すると同じく遠い目をした柚菜が隣から、
「……真子」
「はい」
「私、初めて人に優しくなれそうなんだけど、これがボランティア精神ってやつなのかしら?」
「わかります。これがボランティアの神髄なんですね」
「二人して何わけわかんないこと言ってんのよ」
「うわっ、美子っ!」
「よっ」
声に反応して真子は後ろを振り向く。するとそこには何故か美子の姿。屈託のない笑みを浮かべている。以前のようなイタズラな笑みだ。どうやらあの日のテニス対決を境に真子との不仲には一区切りがついたらしい。たまに廊下で会って世間話をする程度には二人の仲は回復しつつある。真子にはその事が堪らなく嬉しかった。