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オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー22

エンジェルゲートサムネ

「急に、何を?」

 立ち止まりこの場に相応しくない落ち着いた態度で話し始めるレミ。狙いは時間稼ぎか、それとももう闘いを諦めてしまったのだろうか。だがレミの目はジッとイワンを見つめたまま。その瞳から闘志は消えてなどいなかった。イワンは不審に思いながらも、

「ああ。事故の時、少年の魂は不完全な復活をした。だから無意識にレミの魂を取り込んだんだろう」

 あの日、イワンの手により輝希は蛍の魂を使い命を取り戻した。しかしその魂は人間の物としては未完成なものとなってしまった。そこで近付いて来たレミの魂を無意識に取り込んでしまい、結果二人の魂は離れていても結合状態のようになってしまったのだ。

「そうだ。その時に私の魂の幾分かは増田に持ってかれたような状態になってしまった」

 レミの魂を取り込んだという事はつまりそう言う事だ。そして当然輝希に移された分だけレミの魂の量は少なくなった。その状態でも普通に生活する際には特に支障はない、しかし、持っていかれた分だけレミの力が弱体化したのは事実、それはイワンのような強者との闘いではより明白になってしまう。

「それ以来、増田が側にいないと私本来の力が出せなくてな」

 結合状態。それは二つ以上の物が結び合っている状態、つまりレミの魂は完全に輝希の魂として取り込まれたわけではない事を示している。ならば輝希、自分の魂の片割れが近くにある場合それは、そう、それはまだレミの魂としても機能するのだ。

 レミの攻撃はイワンに全て躱されてしまう。

 しかし、その言葉はあくまでさっきまでの力ならという事だ。

「……何?」

 レミの物言いにピクリと頬を引き攣らせるイワン。そして反応を示したのは何も表情だけではない。イワンの無数の目が怯えているのだ、どれもが生物のように身を震わせている。先程とは比べ物にならない力を帯びていくレミに彼の身体は無意識に反応していたのだ、まずい、何かが起きる。イワンは廊下の窓ガラス側へと身を振り返る、そのまま壁を通り抜け校舎の外へ出ようとするが、

 しかし、もうそれは間に合わなかった。

「じゃあな、イワン」

 レミはペーストを己の右腕に螺旋状に纏わせる。まるで生き物の様なそれはレミの力に反応し先程を超える白い輝きを放つ。神々しくも見えるそれを構えて力を解放したレミは短く、

「これでさよならだ」

 

 それはさながら抜刀術のようだった。

 瞬間、振りかざしたレミの手から放たれたペースト。それはまさに閃光。。そしてイワンは自分の身に何が起きたのかをすぐに理解する事が出来なかった。

「なっ」

 という声を発している上半身。それは既にイワンの下半身とは繋がっていなかった。そして彼の視界に写るのはなぜか天井。仰向けになった自分の上半身、支える力を失い倒れる先程まで繋がっていたはずの下半身、それらを見てイワンはようやく理解した。自分の身体が真っ二つに切された事を。 

「ま、さか、ここまでの力とはな」

 レミが輝希を囮にした本当の目的。それは奇襲、イワンの弱点を付く事、戦闘力の高いミカに接近戦を委ねる事、それも作戦の内なのだろうが彼女の本命は、

 少年を近くに置いてレミ本来の力を取り戻す事だったというわけか。

「ふはははっ!」

 廊下に崩れ落ちたイワンの肉体。その上半身から発せられたのは気が触れたような笑い声。既に勝敗が決まった事を感じ取り何かが壊れたのだろうか。しかしその笑い声は先程までのイワンとは少し雰囲気が違って見えた。

「ちっ、くそっ、くそう、まさか、まさかこんなことろで僕の復活が終わってしまうとは……まだ、まだ、たくさんの悲劇、痛みを生む予定だったのに……」

 遠藤来人。イワンが取り込んだ彼の記憶が悲鳴を上げる。第二の生を得たと勘違いしたそれは嘆くのだ。愛、悲劇、これからもたくさんの痛みを生む事が出来たのに、と。もう彼の人生はとっくに終わっているにも関わらず、それは強欲にも記憶だけになろうとも、その想いは求める事を止めなかったのだ。

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