『なんか、こう、やっぱエロイ感じの人がいいよな〜。グラドルの金華マリみたいなさ〜』
ダン! と真子は机を叩く。椅子から腰を上げ、怒りを露にして、
『っ、もういいわっ。アンタが帰んないなら私が帰るっ!』
『ちょっ、ムキになんなよ〜。ちょっとからかっただけだろ〜』
慌てて制止する和也。だが真子は無視。机の横に掛けてあった鞄を手に取り、
『うるさいっ! 色気が無くて悪かったわねっ!』
『だから待てって! ほんとに暇なんだよっ。頼むっ!』
手の平を合わせ懇願する和也。真子は出口へと向けていた足を一旦止める。そして数秒の間の後、和也の方を振り向き、
『むぅ……じゃあ、少しだけなら』
『よしっ。じゃあ決まりな』
『その代わり、次に変なこと言ったら絶対帰るからね』
釘を刺す真子。鞄を再び机に掛け、椅子に腰を下ろす。
『へいへい。じゃあ何するよ?』
『はあ……それは私が聞きたいわよ……』
『おっ』
『どうしたの?』
不意に教室の後ろを向いた和也。顔からして何か興味を惹く物を見つけたようだ。
『いや、なんかそこに変な箱が』
『箱?』
言われて真子も後ろを向く。そこには横に長い生徒用ロッカーと縦に長い掃除用具入れ。そしてロッカーの上、右隅には黄色い箱が置いてあった。
『ああ、これのこと?』
言いながら後ろへとスタスタ歩いて行く真子。ロッカーの上にある箱を持ち上げる。手に取り改めて思うが汚い。所々黒ずんでいるし、作りも粗い。切ったダンボールに画用紙を貼付けただけ。すごく残念な作りだな。なんて真子は思いながら和也の元へと箱を持っていく。
『おう。で、それは何?』
『え、ただの汚い箱でしょ。はい』
サラっと言い放つ真子。箱を和也へと投げ渡す。和也は受け取った箱を舐め回すようにみながら、
『いや、なんかこいつは、汚いだけじゃない気がするんだよな〜』
『何それ』
呆れたように言い、真子は椅子に座る。
『だってこれ、なんかガサゴソ言ってるし。中に何か入ってんじゃん』
『どうせロクなもんじゃないって。ってか正面に意見箱って書いてあるよ』
真子に指摘され箱の正面を見る和也。確かに下手な字で “意見箱 ”と書いてある。
『ちっ、なんだよ。ただの汚い意見箱かよ』
『だから言ったじゃん』
『……あ〜、まあいいか。なんか誰かの恥ずかしい悩みとか入ってないかな〜』
イキイキした顔の和也。箱の投入口へ無理矢理に右手を突っ込む。真子は溜め息まじりに、
『全くアンタは……ただのイタズラでしょ? 開ける意味ないって』
『そんなんわかんねえじゃん……よ〜し。どれどれ、』
箱の中から一枚の紙を取り出した和也。奇麗に折り畳まれたプリント紙だ。それを開くフリをして、
『え〜と、ま〜さるの導師・さんから。私は貧乳がコンプレックスです。どうすればいいですか? ボランティア部のイケメンさん解決お願いします。か』
『そのハンドルネームは出すなよ! ってかCカップはあるからねっ!』
和也の嘘を赤面で全力否定する真子。和也はCカップ発言に対してジト目で、明らかに疑うように、
『え? マジで?』
『ある。よ』
『ジ〜』
『ある……と思う』
『ジ〜〜』
『多分……来年には……』
『はぁ〜あ。だよな〜』
『何よっ。その溜め息っ! いいでしょ別にっ。小ちゃくてもっ!』
『よし。そこの見えはり貧乳さんは放っとくか』
『ちょっと、無視しないでよっ!』
真子の妄言を無視した和也。改めて二つ折りの紙を開く。そこには、
『え〜と、何々……犬、捜しています?』
『何それ? 迷い犬の張り紙?』
『みたいだな……つまんね』
和也は紙をポイッと床に投げ捨てる。紙面には犬の写真。それと名前や特徴が手書きで書かれていた。確かに迷い犬捜索の紙らしい。真子は座ったまま床に落ちた紙を拾い、
『ね? だから言ったでしょ』
『う〜ん。でも俺すげえ暇だからなぁ。よし』
目を閉じた和也。腕組みをしながら唸り出す。そして不意に目を開けてどこか楽しそうに、
『こいつの願い、俺が叶えてやる』
『正気?』
『なんだよ。俺等は仮にもボランティア部だろ?』
『いつもは形だけって言ってるくせに……』
『うるせ〜。やるときはやるんだよ』
『あっそ……まあでも、この紙って最近入れられたみたいだね。10月25日、散歩中に行方不明。って書いてあるし』
なんとなく内容に目を通す真子。そこには行方不明になった日時や場所、連絡先も記入されていた。だが肝心の名前やクラスは一切書かれていない。
『だろ? きっとこいつ、愛犬がいなくて寂しがってるぜ』
『こんな成就率0%のトコに入れるぐらいだし、多分困ってないって……』
『そんなんわかんねえだろ? 案外本気かもしんねぇぞ』
『まあ、どっちでもいいけどね。私はやらないから。せいぜいがんばって』
やる気なく応えた真子。拾った紙を和也へと差し出す。それを受け取りながら、和也は挑発的に、
『あ〜はいはい。貧乳さんは胸も心も小さいですね〜』
『なっ! ……わかったわよ。やればいいんでしょっ!』
『よ〜し。そうこなくっちゃな』
『はぁ〜あ、全くアンタは……で、まずは何をするのよ?』
今日一番のため息を吐いた真子。ぶっちゃけ早く終わらせたい。そう思い和也に先を促す。すると和也は自信満々に、