オリジナル小説

オリジナル小説 ボラ魂 2ー22

『まあ、一つハッキリしてることはあるな』

『何?』

『まずこの紙がすごいダサイ。捜索以前の問題だな』

 キッパリと言い切る和也。手で紙を広げて真子に改めて見せる。確かに手書きな上に、写真以外は黒一色。少し目立ちにくいかもしれない。しかし真子は、

『別にいいんじゃない? 私はこういう真面目な感じ好きだけど。誠意が感じられて』

『はあ〜あ。貧さん、ちょっと考えてみようぜ』

『いや、貧さんって何よ?』

 おそらく貧乳の意味だとは思う。だが自分でツッコむのは何となく嫌だ。なのでジト目で問い掛ける真子。しかし和也は完全に無視して、

『いいか? 仮にこの後、犬を捜すために街にこれを貼るとするだろ? そうしたら誰もこんなイモイ紙なんか見ねぇよ。スルーされて終わりだぜ』

『それは個人の見方でしょ……ってか、この人はもうそれぐらいはやってるんじゃない?』

『細かい事はいいんだって。とにかく俺はこんなダサイ張り紙は却下だ』

『はいはい。で、じゃあ何かアイデアあるの?』

『まあ一応な。でもここは真子も意見を出しておけよ』

『あっそう……え〜、じゃあさ』

『ん?』

『え〜とね』

 右腕を鞄の中に突っ込む真子。筆箱と白紙を取り出す。そしてカラフルな蛍光ペン達で、紙へおもむろに何かを書き出し、

『こうキラキラした感じのは? 良くない?』

 バン、と真子作のレイアウトを公開。そこには散りばめられた星々。目が疲れそうな色遣い。やたらと多いカタカナ。吹き出し付きの謎なキャラクターズ。つまり小学生発想の塊だった。和也はそれを見てうんざりしたように、

『はあ〜あ。何? 胸がないから、今度は元気ッ娘アピールか?』

『何よっ、誰もそんな事言ってないでしょ! 張り紙の話よ!』

『だってよ、これ装飾ばっかで肝心の内容が伝わらないだろ。大体このキモイ奴らは何だよ? モグラか?』

『キモイっていうな! 自作ゆるキャラよ!』

『はん、ゆるいのはお前の頭のネジだろ』

『むっか〜……じゃあそんだけ言うなら、和也は良いアイデアがあるんでしょうね?』

『ふふ、あるな。少なくともお前よりはマトモなのが』

『なっ! じゃあ早くみせてよ!』

『まあ待て。俺は今からちょっと出かけて来る』

『へ? どこに?』

『パソコン部のキモヲタ共に、俺の素晴らしい作品を作らせてくる』

『アンタ……また問題とか起こさないでよ』

『安心しろよ。相手が変な事しなければ、俺は何もしない主義だ』

『……それ相手が何かしたら手を出すって事だよね?』

『大丈夫だって。俺を信じて貧さんは大人しくここにいな』

『なっ! 誰が貧さんだっ!?』

『ははっ、じゃあな貧さん』

『だから貧さんって言うなっ!』

 抗議も虚しくあっという間に走り去って行く和也。真子はポツンと一人で教室に残される。

『はあ〜あ、アイツはもう〜……』

 真子は不安と苛立ちから深いため息をつく。そして再び頬杖をついてグラウンドを見下ろしながら、

『まあでも、今に始まった事でもないか……』

 いつの間にか日常になっていた。こうして和也と話す事。一緒に過ごす事。共に笑ったり怒ったりする事。そして振り回される事。それが真子の当たり前になっていた。

『まあ、暇つぶしになるからいいんだけどね……』

 自分で口に出して気付く。それは嘘。確かに初めはそれぐらいの気持ちだった。だが現在は違う。そう、今やこの時間は真子にそれ以上の意味を与えていた。

『あ、香奈』

 ぼんやりと見つめていたグラウンドの様子。サッカー部の集団。その中に一際動きのいい少女を見つける。。かつての部活仲間。優しい部長。真子の運動神経を認めた一人。割と仲も良かった。だが今では互いにぎこちない関係になってしまった。真子の退部が原因だ。

『君が何を考えているのか解らない……か』

 不意に思い出して真子は呟く。退部間際に香奈が告げた言葉だ。『もうなんだか冷めちゃった』。そう言った真子に対して、香奈は悲しみながらそう告げた。信頼を裏切られたような顔で。微かに苛立ちを込めてそう言ったのだ。そして、真子はそれに対して何も言い返さなかった。いや言い返せなかったのだ。なぜなら、

『そんなの、私にだってわからないよ……』

 そう解らないのだ。なぜ、あの時あんなにも部活が苦しく感じたのか。なぜ、急につまらないものに思えたのか。そして、なぜ今はグラウンドの香奈達に憧れを覚えるのか。真子には全て解らない。思考は巡るばかり。だが、一つだけ言える事があった。

『……でも……今いる場所も嫌いじゃないかな』

 微かに笑みを浮かべる真子。退屈を感じないと言えば嘘になる。だがここから眺める景色。流れる秋風。静まり返った教室。真子はそれらを気に入っていた。だって、ここには和也が来てくれるから。

『彼女。か……』

 先程の和也が言った冗談を思い返す真子。本気にしてしまった事を恥ずかしく思い顔を赤らめる。本当はどんな言葉を期待していたのだろう。なんとなくそんな事まで考えてしまう。そして、自分でも完全に無意識のまま、

『どうやったらなれるんだろう。彼女に……』

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マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 漫画が好きです。コンビニも好きです。
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