「……蛍ちゃん」
「え……」
時が止まったとは、まさにこの様な状態を言うのだろう。部屋からはテレビの音だけが流れており、次の瞬間ボッとまるで効果音が聞こえてきそうな勢いで蛍の顔は真っ赤に染まった。きっとそれは彼女にとって完全な不意打ちだったのだろう。彼女の顔は色もそうだが表情も、笑っているのか怒っているのか、とにかく見た事もないような表情になっていた。輝希はそれを見て自分が何を言ったのかを改めて自覚。
言った、言ってしまった、好きだ、好きな人だって、言っちゃった。カア〜と茹だったように彼の顔も赤に染まっていく。バクバクと波打つ心臓。カチカチと動く時計の秒針よりも遥かに速いペースでそれは輝希の身体を揺らしていた。
「へ、へえ〜、そっか……」
それからどれだけの時が流れたのだろうか。実際にはものの数分しか経ってないのだろうが、見つめ合っていた時間はやけに長く感じた。不意にそう呟き蛍は彼から身を離す。その顔はまだほんのり赤い。
「そうなんだ……でっ、でも私は輝ちゃんは嫌だな〜」
少し戸惑った様子でコントローラーを握り直す蛍。そっぽを向きながら言ったその言葉には、正直輝希はショックを隠せなかった。
「え、どうして?」
眉をひそめて不安そうに蛍を見つめる輝希。ゲームは再び再開されたが、ぶっちゃけそれどころではなかった。やはり蛍ちゃんは僕など眼中にないのだろうか。
「だってさ、輝ちゃんて体力ないし、何やっても私よりも弱いし、あ、勉強は入れちゃ駄目だからね……とにかくさ、なんか頼りないんだもん」
タイミングが良いのか悪いのか、ゲーム画面にはゲームセットの文字。これで輝希の10連敗が決定した。確かに輝希は運動でもゲームでも蛍に勝つ事が出来なかった。でもそれは別に輝希が弱い訳ではなく彼女の運動神経が良すぎるのだ。実際他の男子と競っても大体の連中に彼女は勝利するだろう。それに勉強を入れないというのは少々理不尽ではないか。と輝希は思いもするが、それは言い訳でしかないなと考えを一蹴する。
「他の子はそこが可愛いっていうけど私はいや。もっと男らしい子が好き」
「じゃあ……じゃあさ、」
なんとか一勝でも上げなければ格好がつかない。輝希は悔しくて再戦にカーソルを合わせる。そして彼はキャラクターを操作しながら、
「僕がもっと頼りがいのある男になったら付き合ってくれるの?」
「え……えと、それは」
ピクと少しの間、彼女のキャラクターは動きを止めた。それに気付き輝希も手を止める。今攻撃するのはフェアじゃない。すると彼女は数回目を戸惑った様子で左右させてから、また機敏に女忍者を操作しながら、
「い、いいわよ。まあ無理だとおもうけど。いいわっ、もし私がそう思えた時は私の方から告白するわっ」
「ほっ、ほんとに?」
思わず上擦った声が出てしまう。だがそれだけ、いや言葉で言い表せれない程に嬉しかった。絶対に彼女に似合う男になってみせる。そう考えるとコントローラーを握る手にも俄然力が入る。が、結果は彼の11連敗。この分じゃまだまだ先になりそうだな、とかなり落ち込んだ。通算11個目の勝ち星を上げた蛍は、コンテニュー画面にゲームが移った所で照れを隠すように、
「ま、まあ輝ちゃん。飽きっぽいからすぐに新しい子見つけちゃうかもだけどねっ」
本当はそんな事を思ってなどいなかった。彼女は知っていた。彼はそんな性格ではないと。そんなすぐに心変わりをする人ではないと分かっていた。だってずっと物心つく前から一緒にいるのだから。でも素直になれない彼女はついそんな風に言ってしまうのだ。