4 彼女欲しい岡崎君
「そういえば昨日の全裸少年がすごく面白くてさー」
「実ってそういうバラエティ番組本当に好きよね」
初めての部活から一週間後。今日も三人は放課後の部室にいた。実は教壇に座り足をブラブラさせて柚菜と世間話。柚菜は黒板前の椅子に座り、実に適当な相槌を打ちながら読書。真子は黒板正面の定位置となった席に着き待機。といった配置。もはや一週間も経てばこの光景も見慣れたもの。しかし真子の表情はあまり優れない。ぶすっとした面持ちで頬杖をつきながら二人の会話を眺めていた。不機嫌オーラ全開のまるで喧嘩を売っているかのような態度。だがそれもそのはず。何しろこの二人、全く部活動をやる気配がない。放課後ここに集まっては今のように世間話をするだけ。しかも毎日だ。初め以外は部活らしい事を何一つとしてやっていない。さすがに真子の不満は限界にまで達していた。
「いやホント面白いんだって。貸してやるから観てみろって」
「ううん。遠慮するわ。私、ああいったやらせみたいな番組って嫌いなの」
「そう言わずとりあえず一巻だけでもさ。な?」
「いや、いいわよ。そもそも今のお笑い自体に興味ないし」
「ぶ〜。柚菜のケチ〜」
「っ! いいかげんにして下さいっ!」
もう我慢の限界だった。ダンッと机を叩いた真子。声を荒げながら椅子から立ち上がる。それに対して実は申し訳なさそうな顔をして、
「ごめん……お前も観たかったんだな。明日録画した持って来るからそんなに怒んなよ」
「全裸少年の話はどうでもいいです! 私がしてるのは部活の話です!」
「部活〜? 部活がどうしたっていうんだよ?」
「どうしたじゃありませんよっ! なんですかこのグダグダした空気は! しっかり部活をして下さい!」
「なっ! 失礼だぞっ! ちゃんと部活をやっているだろっ! よくみろよ!」
「どこがですかっ! ただ世間話をしているだけじゃないですかっ!」
「なんだとー! じゃあお前は俺等がこうして放課後に集まってはボランティア部らしい活動を一つもせずにただダラダラと世間話をしてるだけって言いたいのかっ!?」
「ええそうですよっ! ってか何で私が言おうとした事を全部言ってんですか!!」
「それはただの逆ギレだろ!?」
「知りません! とにかくもうこの空気はウンザリなんですよ!」
「真子。うるさい。いま本読んでいるから少し黙ってて」
無感情で呟いた柚菜。真子。柚菜はあの日以来そう呼ぶようになっていた。心なしか口調も柔らかくなっている。少しは仲良くなれた証拠だろう。柚菜の読書を邪魔している事に気付いた真子はハッとなり、机に再び腰掛けながら、
「あっ、すみません……」
「……」
「……」
「……って違いますよっ! 柚菜先輩っ、本を読むのをやめて下さい!」
そしてキレた。柚菜は本から視線を上げて真子をみながら、
「何? さっきからうるさいわね。一体何が不満なの?」
「何じゃありませんよっ! 柚菜先輩はこの状況に何も感じないんですかっ」
「ええ。だって仕方ないじゃない。今はシーズンオフなんだから」
さらりと嘘をつく柚菜。真子は呆れながら、
「いやボランティアにオンもオフもありませんから……そんなんでよく私に文句を言えましたね」
「あら? 文句って何かしら?」
「初めて会った時に言ったじゃないですか……活動してなかった部活の子を入れても意味ないって。でもここも大概ですよ」
「ああ……あれは実が女の子と話しているのを客観的にみたらムカついたから、腹いせに八つ当たりしただけよ。特に意味はないわ」
「そんな理由で私は怒られたんですか!?」
「ええ。中々に迫力があったでしょ?」
「……なんか最近、私の中で柚菜先輩の株が大暴落してるんですが……」
「よ〜し! じゃあ俺がその株を全て買い取るぜっ! これで筆頭株主だねっ! 柚菜結婚しよう!」
「だから、そういうのはやめてって言ったわよね?」
「フィゴゴゴ、フィゴゴゴ」
例の如く柚菜に抱きつこうとした実。これまたいつものように柚菜はニッコリ笑ってそれを阻止。実の口元を鷲掴みにして万力のように締め付けた。
「……もういいです。一生ここでダラダラしてればいいじゃないですか。私は知りませんから」
うんざりしたように呟いて再び椅子に腰を下ろす真子。柚菜は実をポイッと地面に捨てて微笑みながら、
「ふふ。冗談よ。今日はちゃんとやる事を用意してあるわ」
「えっ! ホントですか!?」
「ええ。だから今ある人の到着を待っているの」
「ある人?」
「ええ。あなたはよく知っている人よ」
「え、それって?」
「ふふ。どうやら来たみたいね」
耳を澄ますと廊下側からカッ、カッ、と聞こえてくる足音。スリッパの軽い音とは違った革靴の重い響きだ。もしかして相手はお偉いさんなのかも知れない。そう思い真子は緊張した面持ちで入り口を見つめる。すると、
「チョリチョリ〜ッス。邪魔するで〜い」
やって来たのはクラスメイトの岡崎蓮弥(なぜかスーツ装備)だ。様にならないウインクと胡散臭い笑顔を浮かべて部室へと入って来る。それに対して真子は無感情に、
「岡崎、エロ本なら中庭の隅にある黒い機械の中に入ってるよ。ここには無いから早く帰りな」