「うむ」
と、いきなりチクワの声はそんな事を言ったのだ。レミは不思議なその練り物から目を離して、輝希を見上げて、
「増田マスター、おかえり」
「ただいま。で何してるの? それチクワだよね」
「ああ。チクワだな」
「ご主人。チクワがもうありませんよ〜。あ、レミちゃんそれ食べていい?」
チクワを三本食したミカがさらなるチクワを探しに台所に来た。そしてレミの不思議なチクワを見つけたのだが、レミはまるで子供を叱る母親のように、
「ばかミカっ。これがなくなったら通話出来なくなるだろ! 後でやるからもう少し待っていろ」
「はーい……」 シュンとなり彼女はテレビの方へ移動した。
「え? やっぱりそれからおじさんの声がしてたの? 一体どんな原理?」
やはり先程の不思議現象の正体はこのチクワ。ただどうみてもただのチクワ。ちなみの僕が煮物にしょうとして買ってきたやつだし。レミはどう説明したものかと考えながら、
「ふむ、どんな原理と言うか、そうだなこれは媒体だ」
「媒体?」
「うむ、下界の電話と変わらん。あれが電波を受け止める機械なように、私達はこうして様々な物に力を流して通信やその他諸々の事を行うのだ」
「へえ。そんな事が出来るんだ。知らなかったな。て事はレミは何でも電話に出来る訳か」
1ヶ月以上暮らしていたが初めて知った事実だった。輝希は改めて彼女がただの少女ではない事を感じたが、彼女はバツが悪そうに、
「いや無理だ。私は練り物限定なので」
「……すごい限定のかけ方だね」
「仕方ないだろ。これは生まれつきの個性で決まる……増田、今馬鹿にしたろ」
ムッとした顔で輝希を睨む。その様子をみると彼女もコンプレックスだったらしい。
「いや別に馬鹿にしてはないけど……というか天界にも練り物なんてあるんだな。知らなかったよ」
「いや、しかしこちらの物とは形が少し違うな。初めて増田の排泄物をトイレとか言うところで見た時私の相棒かと思ったが」
「やめて。それは駄目だから。あとお願いだかその記憶も消して」
いつの日かは分からないが流し忘れていた時があったらしい。恥ずかしい。彼女のその記憶も、水に流して奇麗に忘れて欲しいと心から思う輝希だった。しかし、彼女達はなんで飲食はするのにトイレに行く必要がないのだろう。と新たな疑問が浮上した時、
「ピー! ピー!」
とチクワがキーの高い電子音みたいな音を出す。
「と保留にしていたんだ。忘れていた」
「今保留状態だったんだ。便利なチクワだな」
「チクワがすごい訳ではない。これは私の力で……と、そんな事今言っている場合ではないな」
そういって彼女は解説を中断する。つり目をいつもの角度に戻して、
「増田、今私の上司と連絡を取っていたんだがな」
「うん」
長官っていってたけど、さっきの声の主は上司だったのか。
「長官がお前と私達が巻き込まれている状況について予測がついたと言っている」
「ほんと?」
巻き込まれている状況。それは僕が生きているのになぜか死亡報告がなってしまったり、なぜかこの天使二人が天界に帰れなくなってしまった事態について言っているのだろう。
「じゃあ、二人は帰れるんだね?」
ここで帰っちゃうの? ではなく帰れるんだね? と言ったのは彼なりの気遣いだった。勿論、本音では帰ってほしくなどない。だがわかってはいた事だ。これはいつかは来る別かれだと。
「まあそう焦るな。それは話を聞いてみないとわからん」
「そっか。そうだよね……」
と冷静なレミ。ふと思う。彼女はどう思っているのだろうか、と。
「で、その長官がお前にも話を聞いて欲しいといっているんだが」
でも敢えて聞くことでもない気がした。帰りたいに決まっているだろう。そして、その方がいいに決まっている、彼女のためにも。
「そうなんだ、わかったよ」
「よし、では繋げるぞ」