オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー21

エンジェルゲートサムネ

 そしてその媒体が自分自身だとしたら。

 その力は他の天使とは比べ物にならないものとなるだろう。

「はい。私はイワンさんやレミちゃんのような力の使い方は出来ません」

 ギリギリ、とこちらに迫ってきたイワンの右手を横へ払いのける。ミカは媒体である自分を介して体内の力を右拳へと込めて、

「でもあなたを倒す事は出来ます」

 繰り出された正拳の力は殺傷性こそないものの威力はレミのペーストと大差がない程の強力なものだった、だが斬撃に比べただの打撃ならばさして怖いものではない。

 この痛みを消せばいいだけだ。

 イワンの力は感情を媒体にする、それは自分に対しても同じ事が言えた。

 イワンは自分の感情を伝い自分自身に力を使う。勿論その目的は攻撃のためではない、むしろその逆。彼は神経の一部を麻痺させて、自分の中から痛覚を一時的に取り除いたのだった。

「調子に乗るなよ」

 彼はミカから距離をとり爪で傷つけないように軽く手の平を握る。力の対象はミカ。ミカはレミと違い感情的な性格をしている、喜怒哀楽の激しい少女だ。

 ならばその感情に痛みを流させてもらうか。

「いたっ、いたたたっ」

 急な頭痛に見舞われたような様子を見せるミカ。イワンの力が効いているのは間違いない。  しかしレミの場合はこんなものではなかった。それに媒体となった感情は明らかにミカの方が大きい。レミに使った時以上の威力を見込んでいたのだが……。

「この程度のダメージだと?」

「……言ったでしょう? 私の媒体は自分自身。だから私が力を張り巡らせている間は、私の中には干渉し辛いんですよ」

 疑問に思うイワンにミカは頭を押さえながら答える。全く効いていない、という事はないだろうが彼女の様子を見るに致命傷には程遠いようだった。

「加えてコイツはバカだから元々そういった事に鈍い。神経が正常に働いてないのかもしれんな」

「レミちゃん、一言余計ですよ」

 なるほど、戦闘力が高く感情も媒体にする事も難しい。ミカなら接近戦でもイワンと充分渡り合えるというわけだ。それに中距離からはレミの攻撃がある。このコンビネーションは少々厄介かも知れない。

「ならば、先に」

 ミカの方へと再び跳躍するイワン。だが決して狙いは彼女ではない。イワンが狙うはその後ろの、

「君を殺そう。レミ」

「レミちゃんっ」

「くっ」

 爪による刺突をなんとか躱したレミ、だが続く蹴りによって彼女は廊下の奥、先程輝希達がいた教室より後方へと吹き飛ばされた。先程はなんなく防がれたイワンの攻撃、でもそれはミカだからこそ出来た芸当。自分の身体能力を格段に上げる事が出来ない彼女にとってイワンを正面から相手にする事は困難だ。

「レミっ!」

 吹き飛ばされた彼女を心配そうに見つめる輝希。そんな彼をニタニタと見つめて、

「少年、君は黙ってみていればいい。彼女達が殺されるのをね」

 今、この場で少年を殺してしまう事は容易い。ましてや人質にでもとれば二人の天使の動きを封じる事さえも出来るだろう。けれどそれはイワン、遠藤来人の望む事ではない。彼はただ最後まで見ていればいい、何も出来ずに二人の少女が殺される様を、そして悲しみと絶望の中でその命を終わらせてあげよう。

「そうだぞ、増田。黙って見ていればいいさ」

 レミは起き上がり衣服の汚れを払い落とす、そして何の迷いもない瞳で輝希を見据えて、

「私は絶対に負けはしないからな」

「レミ……」

 そうだ、彼女は言った、イワンを消すと。ミカも言ってくれた、蛍さんのために倒すと。二人の天使が約束してくれたんだ。なら、僕はその言葉を疑ってはいけない。

 彼女達の力を信じなければいけないんだ。

「その自信がいつまで持つかな」

 だがイワンが強大な敵だと言う事も事実。ミカの攻撃では致命傷には至らない、レミの攻撃は効果的だがイワンに全て躱されてしまう。二人で協力しなければ勝機はないといっていいだろう。しかし彼女は静かにイワンの方へと歩を進めながら、

「イワン……私と増田の魂が混じり合ってしまったという話は知っているのだろう?」

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