輝希は拍子抜けしてしまった。天使、そんな冗談みたいな言葉が出たからだ。まあ確かに二人とも比喩として使われる天使のような可愛さではあった。でもだからと言ってこの二人を空想上の天使等と言われる生物と呼べるかは別問題だった。なぜならこの少女達にはよく描かれている頭の輪っかや翼もない。さすがにそれは人間の想像だとしても、この娘達は抜群の美少女という点以外はまるで普通の女の子にしか見えないのだ。輝希は若干引き攣った顔で、
「て、天使? それ本気で言ってるの?」
何かの冗談だろう。そう思えて仕方ない。ひょっとすると僕が死んだって事さえ嘘なんじゃないか? とさえ考える。しかしレミは輝希を見つめて真顔で、
「ああ。君達が想像するそれと、役割としては大差はないと思う。ちなみに私はレベル12……とそこはまあはいいか。とにかく君の魂を上へ送る予定だったレミという者だ」
「……そうなんだ。でもどうみてもただの女の子なんだけど……よく絵で見る頭の輪っかや翼はあったりしないの?」
ジト目でレミを見つめる輝希。頭上に光輪の付いたキリスト教の天使を思い浮かべながら質問。レミは少し考えて、
「ふむ、まあたしかに私達にそんなものはないな。でも少年よ」
とそこで一度言葉を区切る。そしてつり目を少し細めて笑みを浮かべながら、
「そんな翼やら輪っかのある者がいきなり来て君はそれを信じるかね。逆に胡散臭くさえ思えるだろう。作り物だとな。それより、むしろ自分とさして変わらない姿の方が存在を認めやすくもないかね。私、天使がいる事がさも当たり前のようにも思えてくるだろう?」
と言い真っ直ぐに輝希を見つめるレミ。その声はからかう様な様子も含まれており遊ばれているように感じた。しかしその瞳は深い色を映しており、なぜだか彼女の言う通りのような気がして来た。確かにそうだ、急に自分が見た事もない生物が現れて自分を天使だと名乗るとする。そして僕はそれを簡単に信じられるか。ううん、おそらく初めは疑うだろうし不気味にさえ思えるだろう。
それに比べて目の前の少女はどうだろうか。まあこちらも正直天使と言われると疑いを覚えはした。しかし存在そのものに不自然さを覚えないし、そこにある事に違和感がないのだ。そう、違和感がなさすぎて彼女が人間のように思えてしまうほどに。だから当たり前に存在する彼女が天使だと言うならば、それは天使と言うものは当たり前にあるものであり、ああ、でも確かに現実にはこんな感じなんだろうなぁ。と思えてしまうのだ。こんなのは理屈になってないかも知れない。でもそう考えてしまう程にレミの言葉には変な説得力があった。それは少女離れした雰囲気のなせる技なのだろうか。とにかく彼女がただの少女ではないのは間違いないようだ。するとその空気を破るようにもう一人の少女がニッコリと、
「まあついでにレミちゃんは胸もありませんけどねっ」
「うるさいぞミカ。全く応援に来たはいいがお前は口だけで全く使えなかったな」
びしっと一蹴するレミ。輝希は言われて二人の胸に視線がいってしまう。確かにレミの胸部は全くの真っ平ら、ミカと呼ばれる少女の方は服の上からでも分かる歳相応以上の膨らみがあった。ミカはそんな視線には気付かずにぶーっと子供みたく頬を膨らませて、
「応援じゃありません。私はこちらの増田輝希さんの魂を持ち帰りに来たんですよ。回収課に連絡があって」
「だからそれを応援と言うのだ」
「違うんですよ。私レミちゃんの応援要請なんて知らなくて。普通に死亡報告が入って来て」
「嘘言うな。この男の死亡報告は私が受けた。そして私が回収に向かった。課長自らな」
「違いますよ。私ですって。あとさりげなく嫌み言わないでよ」
「いや同じ人間の死亡報告が二度あがる訳はないだろう。それにこれは嫌みじゃない。お前にもっと私を敬ってほしいんだ、私可愛いから」
「わけ分かんない事言わないでよ」
ごちゃごちゃと揉め出す二人。回収課、死亡報告、応援要請、知らない言葉達が飛び交いだす。輝希は頭を抱えながら、
「あー、ごめん。二人だけで話を進めないでよ」