「ぷ」
輝希がしばらく一人であれこれ考えていると、またもや彼女の口から、ぷ、と少しずつ空気が漏れ始めた。
「バーカ。冗談よ」
そう言って舌を出す彼女。その様子だといつもみたくからかっていただけなのだろう。さっきの言葉は僕の深読みのしすぎだったのだろう。そう考えて輝希はホッと胸を撫で下ろす。しかしこうもドキッとする台詞を連発されると心臓に悪いな。
「ですよね」
僕は冗談じゃないよ。あんまりにも振り舞わされぱなっしなので、それぐらい言ったろかと思ったがやめておこう。今この現状ではそんな気分にはなれなかった。すると彼女は夕陽を見上げて、
「ま、でも天使がいたらさ」
「その子達みたいにすんごい可愛い子だと思うなー」
といって駆け出した。もういつもの間にかバス停に着いていた。
「ってことでじゃね〜。そっちのお二人さんもね」
後ろを振り返り元気に手を振って、返事も待たずに彼女は走り去って行く。輝希はその茜色に染まるその後ろ姿を見つめながら、蛍の言った去り際の台詞を思い返し、
「まさか、ね」
と輝希は呟いたものの、いや、ないな。ないだろう。もう彼女の言葉には惑わされない。とその可能性を否定。というか別にバレていても問題ないんじゃないか、とも彼は思う。だってこの二人が人間でない事がわかれば彼女に変な誤解も与えないし、自分だって彼女への隠し事が全てなくなりスッキリする。しかし、レミとミカの事を不用意に言う事ではないか。と彼はその考えを打ち切った。
「うん、ないない、絶対ないよ」
「急に何? 今の話聞いてたの?」
いつの間にか蛍が今までいた位置にいる二人。レミは歩きながらしきりにないない、と呟いている。もしかしてそれは輝希の心情、今までの話を聞いていた上で答えているのだろうか。ならば直接でないにしても、天使の存在を匂わす発言をした事を怒られるのだろうか。そう思っていたのだが、
「いやあの蛍があまりにも君とお似合いでな。気に入らなくて否定している」
「やめてくれよ……本気では思ってないだろ?」
と恥ずかしい事を真顔で言い始めた。内心嬉しくもあったが口ではそんな事言えなかった。するとレミは確かにふざけている様子などなく、
「いや私は本気だぞ……なぜかわからんがすごく増田に近いものを感じる」
「あ、それわかります。お似合いかはわかりませんけど、なんだかあの人、すごく増田さんみたいなんですよね」
と言い紙ナプキンで口を拭きながら同調するミカ。しかし根拠が全く分からない。それは彼女等自身分からないらしくすごく漠然とした事を言っている。
「僕みたいって。僕と蛍じゃ全然似てないだろ。彼女はもっとサバサバしてるし」
幼い頃から一緒にいて互いの事はなんでも分かるが、それは別に似ている訳ではなかった。いや逆に似ていないからこそ、だからこそここまで仲良くなれたんじゃないかと輝希は思う。互いに自分にはないものをそれぞれ持ち合わせていたからこそ、だからこうしてもう片方を必要としながらこれたのではないかと。
「ああ、性格とか容姿とかを言っているなら全く似ていないな。君はなんか地味だ」
「はい。性格も暗くはないですけど、明るくもない。無個性です」
「さいですか……」
そこまで言われるとは思わずシュンとなる輝希。
「まあその話はもういいよ……さ、帰ろっか」
タイミングよくバスが来たので話を打ち切りそれに乗り込もうとする。レミはまだ彼女についていいたげだったが、特にそれ以上追求することもなく素直に話を打ち切り輝希に従ったのだった。
そして乗ってから気付いたが、よく考えたらこの二人を普通に乗せたらバス代が三倍かかるじゃないか、と少しだけ後悔した。