うん。こんな気持ちでは彼女達を送り出せそうにない。ならばせめて彼女達が困っているのならば助けてやるべきだろう、と彼は考える。
「はあ……仕方ないなぁ。いいよ泊まっていきなよ……何日でもね」
「増田、ありがとう……」
「ありがとうございます増田さん」
自分自身の意思の弱さに溜め息を吐く輝希。するとその言葉を聞いた途端にパアッと表情を明るくする二人。表情の少ないレミでさえ明らかな感謝を顔に浮かべている。その喜ぶ姿を見ていると、これでよかったのかもしれないと思えてくる。うん、そう思ったのだが、
「何日もは嫌だけど。赤トラみたいし」
「ええ。私も一刻も早く帰りたいですけど」
「よかった。そう言ってもらえるとこっちも後腐れもなくお別れが言えそうだ」
と彼は強がりを吐いた。だって、おそらくそんな事は出来そうにないのだから。
とまあ昨日の事故、今日の出来事といい、奇妙な休日が続いてしまった。しかしその奇妙な日々はこれからもおそらく続くのだろう。
そう、彼女達が彼の側にいるかぎり。ずっと。
輝希は両手に花、な状況を見て苦笑いをしながら、
「はは……これもある意味天国って言えるのかな」
なんてさ、自虐的なジョークを声に出しちゃったもんだから、
「おい聞いたか? ミカ。やっぱこの人の家やめるか? なんか気持ち悪い事呟いてるぞ」
「大丈夫ですよ。おそらく増田さんはロリコンです。完全にレミちゃん狙いです。だから私は大丈夫。ぶいっ」
「はは、喧嘩なら買うぞ。私は今帰れなくて気が立っているからな」
といって静かに怒りを露にするレミ。輝希は思う。いややっぱりこれは天国なんかじゃない。洗濯をはやまったんじゃないか、と。
そして彼はこれから始まる生活に対しての不安から、もう一度大きな溜め息をした。
「で、昼間は二人でーー って聞いてますご主人〜?」
「はいはい、聞いてるって」
話は戻り三人は東通りを家に向けて絶賛歩行中。そしてその途中今日あった事をキャッキャッと話すミカ。二人は基本的に昼間は自由行動で、彼が帰る頃になるとどこからともなく現れる。というのが日課となっていた。どうやら、初めて会った日に彼女達が輝希から離れる事が出来なかったのは天界に帰ろうとした事が問題らしく、そうでなければこの二人はどこまでも行けるらしい。つまり輝希が死なない限りは天界には帰れないが、逆に下界ならどこへでも自由に移動できるのだ。そして本当に彼女達は毎日自由に暮らしていた。その行動範囲はとても広く市内はすぐに飽きて、県内、県外と活動場所を広めていき、自分が知らないものはなんでも見たいしやりたがる。と毎日人に見えないのをいい事に飛び回っていた。時々、“この人達ホントに帰るつもりあるのか”とも思ってしまうが、それを口に出すと両者から批難を浴びそうなのでやめていた。まあ、とはいえ彼女達に対して“はやく帰れ”と思っている訳ではないのだが。
「なんてこんな事考えてたら駄目だよな〜。蛍にも一緒に住んでる事を黙ったままだし」
と自分の軟弱な心を嘆く輝希。彼は幼なじみの蛍に彼女達と同棲している事を伝えていない。というより二人の存在を蛍だけには隠そうと決めていたのだ。彼は蛍以外の女子と仲良くするのを後ろめたく感じていた。なのでこんな状態を見られるわけにはいかなかったし、それにだからといってレミとミカに僕の家から出ていてなんて可哀想な事も言えない。よって隠し続ける事が一番と判断したのだ。本当は彼女を騙し続けるなんて事はしたくないのだが、状況が状況だ。仕方がない。と自分に言い聞かせる。