4 天使達と蛍とこれから
翌朝、増田家を奇妙な現象が襲った。発生場所はレミの借りている部屋。余分なものがなく奇麗に整頓された洋室。その天井には大きな照明が取り付けられているが、それは不自然な事態に見舞われていた。
内部の電球は換えたばかりだというのにチカチカと点滅を繰り返す。本来白色のはずの光は何故か七色の光を放ち、赤、青、黄、と不規則に色を変えていた。
「長官か」
高級感漂う黒を基調とした机に着いていたレミは、天井を見上げながら短く呟いた。そう、この現象は鈴木の力によるものだった。鈴木は電球を媒体として力を送る事が出来るのだ。おそらく彼女が先日報告した件について目処がたったのだろう。レミは鈴木との通信を繋げるために、頭の中で彼の力との回線を合わせる。
瞬間、七色の点滅は白一色の点灯へ変化。奇妙な動きを見せていた電球はごく自然な動きを再び始めた。先程の現象が嘘のように彼女の洋室を白く照らしていた。
「レミ君、私だ、鈴木だ」
だが代わりに洋室を新たな怪奇現象が襲う。室内に響き渡る5、60の男性のものだと思われる渋い声。それはレミの上司にあたる天使鈴木、通称長官の声だった。レミは正常に通信が繋がった事を確認して、
「長官、わざわざありがとうございます」
「いや、君こそ貴重な情報をありがとう。おかげで事件は進展したよ」
貴重な情報。それは先週レミが得た感じた違和感。赤土蛍から感じる天使の力。そしてその力の雰囲気がイワンと全く同じだと言う事。そして蛍の身体。彼女の身体には本来人間にあるもの、温もりが全くなかったと言う事。レミはそれらの情報を先週の内に、すぐさま鈴木へと報告しておいたのだった。
「して、赤土蛍とイワンにはどんな関係が」
「うむ、その前に、その彼女、赤土蛍のことなんだがな、」
そしてその結果、驚くべき事実が明らかになった。
「死んでいたよ。もう1ヶ月程前にね」
やはり。レミの心にあった疑問は確信へと変わっていた。しかし同時に疑問。なぜ上は気付かなかったのだろうか。
「彼女の死亡報告は上にいっていたはずですよね。なぜ一ヶ月もそれに気付かなかったのですか」
今、蛍が生きている、いや動いている事は後回しで良い。増田輝希の前例もある。それは奇妙な事ではあるが不思議な事ではない。それより問題は上の管理体制だった。鈴木は低い声で申し訳なさそうに、
「ふむ、それなんだが確かに死亡報告は来ていたよ。3月6日15時42分にね」
「っ! それは増田が死んだ日、しかもほとんど同じ時間じゃないか」
「そう、どうやら増田君は彼女を助けようとして亡くなったらしい。あの事故現場に赤土蛍の姿がなかったので、我々も彼は単身で事故に巻き込まれたんだと思っていたんだ」
そう、その通りだ。あの時レミは輝希の魂を回収するために下界に降り立った。だがそこには壊れた車、引き攣った顔の加害者、負傷する輝希、見守る群衆だけだった。蛍の姿などどこにもなかったのだ。それは何故か。
「イワンですか?」
奴の仕業としか考えられない。
「ふむ、その通りだ。奴は増田君の魂を回収、するつもりだったのかはわからないが、とにかく下界へ降りた。そして赤土蛍と出会ったのだよ」
これでイワンと蛍が出会った経緯はわかった。だが、
「奴は何を思って蛍と? それに何故蛍は亡くなったなんです? 増田が助けたのでしょう?」
死亡報告装置は彼女の死を知らせたと言っていた。しかし確かに輝希は彼女を衝突する車から庇ったのだ。だが、蛍の身体は動いてはいるものの正常な活動をしてるとは言いがたい。その理由は、
「ふむ……どうやらイワンが隠蔽を計ったらしいな。報告機のデータの復元に時間がかかったが……」