輝希から再びチクワへと視線を戻すレミ。頭を押さえて、これは当のレミにしかわからない感覚だが力をコントロールして保留状態を解除する。すると再び会話が通じる状態となり、
「長官お待たせしました。例の少年も今隣にいます」
「……」
これでまた天界と通話が繋がっているらしい。だが先程と違ってそのチクワからは何の音もしない。
「ねえ、レミ。反応がないよ」
何かあったんじゃ。そう思ったが彼女は至って冷静な様子で、
「ふむ、あちらの媒体に異常があったみたいだな。もう一度掛け直すか」
と言って彼女はまた力を送り出す。
「あっちの媒体って?」
「おそらくチクワだ。私は練り物から練り物にしか力を送れない」
「……そうなんだ」
「増田、また馬鹿にしたろ」
「してないよ。考え過ぎだよ」
そんなやり取りをいくらか続けていると、ふいに媒体となっているチクワから、
「プルルル、プルルル」
「もう完全に電話だな」
とツッコまずにはいられなかった。
「ジー、ジー」
不意にコールは鳴り止み次に聞こえてきたのは雑音。耳を澄ますと微かに人らしき声が複数する。すると先程の紳士的な印象の長官は、
「……すまないあまりにもおいしそうだったから」
「長官チクワ食っちゃったよ」
どうやら通話が遮断された理由はこの長官と言われる男が、レミが最初に力を送ったチクワを食べてしまったのが原因らしい。いきなりこの先の会話が不安になるような事態だった。
「いや昼も食べずに仕事してたから、つい」
「長官、それじゃあミカと一緒ですよ」
表情にはでないが呆れた様子で呟くレミ。どうやらこの人物はミカとも面識があるようだ。まあレミの上司というならば当然な気もするが。その声は思いの外へこんだ様子で、
「それはやだな……ところで今の声は増田輝希君かな?」
「あ、はいそうです。こんばんは」
不意に名前を呼ばれて緊張する輝希。しかし通話先の男は特に威圧する雰囲気もなく、逆に申し訳なさそうに、
「うむ、はじめまして。私はレミとミカの所属する地区のエリア長をしている、鈴木という者だ……この度はすまなかったな。奇妙な事に巻き込んでしまって」
まるで人間みたいな役職で、まるで人間みたいな名前の鈴木さんはそう言い謝罪した。それはこの天使達との奇妙な同棲生活の事をいっているのだろう。しかしこの人が詫びる必要はどこにもない。だってそうなった原因は元はと言えば、
「あ、いえ、元々は僕が不注意で事故にあったのが悪かったわけですし」
という訳だ。あの時に僕が周りを気にしていれば、天使が迎えに来る状況になんてそもそもなっていなかっただろう。だから悪いのは僕の方だ。この人ではない。
「して長官、いったい何が原因だったのでしょうか?」
話を戻するレミ。この結果次第では二人は元の世界に戻ってしまうのか……。彼は複雑な気分で鈴木の返事を待った。
「ふむ、結論から言うと……どうやら、死亡報告装置が原因だったようだ」
と告げる鈴木。だがそんなに簡単な事だったのだろうか。そう考えたのはレミも同じらしく、彼女は鈴木の言い回しを察したように、
「長官、それは故障という事とは違うんですよね?」
「話がはやいな。そう、つまり予想外だったのだよ」
「予想外、何がですか?」
「彼、増田君の存在が、だよ」
と輝希にとっても予想外の事を言い出す鈴木。一体どういう意味なのか、と考えていると、
「レミ君、君は死亡報告装置ーー午離羅がどんな仕組みか知っているかね?」
「いや、さらっと言ったけど何、そんなカーナビみたいな名前なの?」
ゴリラって。
「増田うるさい。今真面目な話をしている」
「すみません」