忘れていた。レミは僕と結合している限り天界には帰れない。ということは彼女も、彼女も そうなのだろうか。輝希は自分の額にヒヤッとした汗が流れるのを感じた。焦る輝希に対して鈴木は心配するなといった様子で、
「いや、それはない。彼女はレミ君が力を与えた後に増田君のもとに来たからな。それにミカ君は媒体からして増田君に力を与える事はできないだろう」
それを聞いて緊張していた全身が一気に緩んだ。よかった。本当によかった、レミに続いてミカまで不幸にしてしまわなくて。ミカの媒体がなんなのか。それが少し気になったが、その時はそんな気持ちで一杯だったので特に聞く気にもならなかった。だが、それならば何でミカは天界に戻れないのだろう。輝希も見ていたがあの日、確かにミカはレミと同じで天界に帰ろうとして見えない壁みたいなものにぶつかっていたはずだった。するとレミは輝希の気持ちを汲んだように、
「しかし、ならばなぜミカは?」
「それは……」
何故ミカは帰れないのだろう。二人は真剣な様子で鈴木の言葉を待つ。すると、
「わからん、ただ馬鹿だとしか」
「そうですね、その説が濃厚ですね。馬鹿ですもんね」
「おい、それでいいのかよ」
ボソッとしたツッコミを入れてリビングを見る輝希。そこではミカがソファーに座りながらドラマの再放送をみて、それとチクワを食い損ねた代わりなのかクッキーをサクサクと食べていた。ミカ、お前今すごく馬鹿にされてるぞ。あとソファーにカス落とし過ぎだから。あとで注意しようと思う輝希だった。
「そういえばミカといえば元々あいつは、死亡報告装置がなったから下界に来たと言っていました。ですが装置は私の時に鳴っていましたよね?」
とまだ解決していない問題へと触れるレミ。もしかしてそこにミカの帰れない理由が隠されているのだろうか。
「ああ。その通りだ。しかしミカ君の時にもな、確かに装置は増田輝希君の死を知らせていた」
「じゃあミカが勘違いしたわけではなかったのか、しかし何故二回も?」
「うむ、それなのだが、彼が実は死んでなかった事により機械が誤作動を起こしたのか、彼の死因を装置で調べると奇妙な事がそこには記されていてな」
どうやらその死亡報告装置というのは、その人の死因や死亡時間を調べる事が出来るらしい。オカルトチックな物ではなく、随分と機械らしい機械なようだ。
「で、そこにはなんと?」
「〜時〜分、〜周辺にて乗用車に跳ねられ死亡。そしてその次、約10分後に全身を炎で焼かれて焼死。と書いてあり、どうやらこの時に二度目の音が鳴ったらしい」
「全身を炎で? そんなことあったかな?」
と、あの日の事を思い出そうとする輝希。とはいえ車と衝突した後の事が上手く思い出せない。まあ瀕死の重体だったので当たり前な気はするが。しかしよく思い出せば最後、意識が途絶える前に激しい焼ける様な痛みがあったような……。
「まあ、これは装置のバグの可能性が高い。別に気にする事ではないさ」
随分と軽い調子の鈴木。まあ彼の言葉で言うなら前例がない事が続いたわけだから何が起きても不思議じゃない。だからあまり深読みしなくてもいいとういう事だろう。そう割り切って輝希はそれ以上の推測を止めた。だがレミは気のせいか目を泳がせて、
「長官、もしかして、もしかしてですよ。これは大分可能性の低い事なのですが」
「うむ、言ってみたまえ」
レミは何か心当りがあるらしい。すると彼女は次の瞬間、とんでもない事を言った。
「いや私が増田の魂を回収しにいった時、魂が上手く抜けなくてですね、『あれ、こいつまだ死んでないのか? まあしかし、死亡報告装置が告げたんだからもう少しで死ぬんだろうな』と思ってですね、ボーンとやってしまったんです」
「ボーン? どういう事だね?」
「はい、近くの火葬場でおばあちゃんを燃やしててですね、ですから」
ま、まさか。
「『あ、こいつもおばあちゃんと一緒に燃やせばいいんだ〜。どうせ死ぬんだし』って考えてーーボーン! と放り込みました」
時が止まった瞬間だった。こちらが静かになったのでテレビの音とレミの笑い声が室内に響く。というかあの焼ける痛みはレミのせいだったのか、とレミを睨みつけるが、彼女はあくまでも、
「まあこれは違いますよね? 装置のバグ説が濃厚ですね」
「うむ、そうだな。まあ前例のない事だから」
「いやそれだろ! どう考えても! なんでも前例がないで誤摩化すなよ!」