「と、そういえば」
「どうした増田」
そこで彼は思い出した。今日はある特別なイベントがあることに。
「今日母さんが帰ってくるんだよ。2月ぶりにね」
「そうか……そういえばそうだったな」
そう言って何か思考するレミ。考えがまとまったのか。急にガタッと立ち上がり、
「よし。あれにするか」
「あれ? ていうか何処に行くの?」
「着替えて来る。この家にずっと住まう者として失礼な態度はとれない。きちんとご挨拶せねば。天界の服でいいだろう」
と言って二階の彼女に与えた部屋へと移動しようとするレミ。おそらく彼女は礼儀としていっているのだろうが100%と恋人とかと勘違いされる。それに天界の服というのはあの和服の様にしかみえない服装の事だろう。そんなものでいきなり現れたらさらに誤解を招くだろう。
「いや、やめてよ。ウチの母親に知れたら絶対からかわれるから」
輝希の母は海外、主にアメリカへの出張が多いためかノリも気さくな感じだった。だからこの状況を知ったら面白がって了解してくれるかも知れないがそれはごめんだった。だから何か別の手を考えなければ。
「……ん? でもどう説明すれば」
「だから生涯の伴侶と」
「やめてよ真面目に考えてるんだから」
彼女からまともな答えが返って来るはずもない。そう考えて軽くあしらう。まあでも服装は一理ある。初対面でいきなりパジャマ姿では印象が悪いかもしれない。と輝希は一人でベストな方法を模索する。
「二人の事がバレたら怒られはしなくても絶対に面倒な事になるし、かといって二人にずっと天界状態でいてもらうと、僕がやりずらいし」
天界状態ならば二人の姿は輝希にしか見えないわけなので、説明の必要がなく一番楽かもしれない。だがそれでは万が一、二人と話しているのを親に見られたら怪しまれるかも知れない、それに親がいつもいないのを良い事に悪い事をしているみたいで嫌だった。ならばいっそ正直に二人を紹介した方が恥ずかしいのは初めだけではないのだろうか。等とあれこれと色々な作戦を考えていると、
「増田、いや増田のダーリンよ」
増田のマスター改めダーリンとあだ名を変更したレミ。
「待って、だから一生一緒にいることには納得したけど、別にダーリンじゃないし、恋心とはないから」
そりゃ確かにレミは美少女だ。こんな美少女が死ぬまで一緒にいてくれるなんて普通は喜ぶところだろう。だが僕は蛍が好きだ。だからレミに対して特別な感情を抱くわけにはいかない。そもそも人ではないし。なんて彼女の言葉を真面目に考えて恥ずかしくなった。
「うん、私もお前と恋仲になるのはごめんだな。第一私は人間じゃないし」
バッサリと一刀両断するレミ。ならダーリンとかいわないでくれ。勘違いするから。
「まあ、焦る必要はない。別に今回は現状報告のためだけに長官と通話を繋げたわけではない」
「というと?」
「ふむ、君の親が帰って来るのは聞いていたからな。だから私達の正体を隠蔽するためにも、記憶改ざんの申請をしようと思ったのだ」
「それって、この前の交通事故みたいに?」
「そうだ。それはさすがに私の一存では出来ないし、天界の者でなければ操作できん」
どうやら彼女はふざけつつもきちんと作戦を用意していたらしい。こういった抜け目のなさはさすがというべきだ。でも彼は思う。なら先に言えよと。レミは再びまな板の方を向き、
「と言う事ですが長官、許可は頂けるでしょうか?」
しばらく間が空いたが通信はまだ繋がっていたらしい。鈴木は声を少し低くして、
「うむ、天使の存在が漏れる可能性もある。ならばいっそ、天界の力で完全に隠してしまった方がいいか……こう何回も改ざんをするのは不本意だがな」
「すみません。ご迷惑をおかけして」
と謝ったのは輝希。先の事もあるので鈴木に対してレミの頭を下げさせる訳にもいかなかった。鈴木はフッと笑って、
「気にするな。レミ君を預けるのだ。出来る限りの協力はするよ……で、どういう風にレミ君の存在を書き換えればいい?」
「そうですね……」