どう、と言われてもどうすればいいのだ。とりあえず彼女が天使とバレなく、さらに親にからかわれないような改ざんの仕方なら文句はない、と考えていると輝希よりも先に、
「ここは無難に妹などはいかがでしょうか」
レミはそんな事を言い出した。それが無難とか思う時点で、彼女は大分下界のメディアに毒されているらしい。するとそれを聞いた瞬間、チクワからまたハアハアと荒い息づかいが聞こえ始めて、
「ち、血の繋がらない、い、いもうとだと〜? そ、そうか、お前、そうやって親をし、しのいで二人、二人きりになった時は何を、何をするつもりだ〜?」
「落ち着けおっさん。血の繋がらないとはいってない、それに言ったのはレミだし、大体二人きりってミカもいるだろ」
という事でいいのだろう。二人は適当に済ましていたが、彼女だって理由が分からないとは言え天界に帰れないのだ。ならば理由がわかるまでここに住むしかない。彼女だけに出て行けなんて言える訳がないからな。という意味で言ったのにこのおっさんは、
「ミカ君も! ミカ君もだとぉお! そうか君はレミ君だけでは飽き足らずミカ君も、ミカ君にまで手を出す気か〜!」
「落ち着いて下さい長官、気持ち悪いですよ」
「ハッ! ……すまない、取り乱した」
と申し訳なさそうに萎縮する鈴木。ちなみにミカはドラマが終わりソファーで寝ていたが悪寒を感じたのか、寝苦しそうに顔をしかめた。そこで輝希はある事を思い出して、
「じゃあ、あの遠い親戚ってのは駄目ですか?」
「まあ別に問題はないが、何か理由が?」
不思議そうに尋ねる鈴木に対して、輝希は頭を掻きながら、
「いえ、僕が友達に彼女達は遠い親戚だと言っているので、出来ればそのまま設定を使ってもらいたいというか、なんというか」
先日蛍に親戚だと言ってしまった事を思い出す輝希。別に改ざんをしてしまうのだからこんな事を考えるのは無意味かも知れない。ただ、そうする事で彼女を騙す回数が減っている気がしたからだ。彼女にこれ以上嘘をつきたくない。ホントは彼女の記憶を勝手に塗り替えるなどしたくもない。そんな彼の気持ちの表れだった。
「そうか、ならその方が君も取り繕いやすいだろう。そうしておくよ」
「お願いします」
見えはしながペコリと頭を下げる輝希。するとチクワからキーボードを叩く様な音が聞こえ始めた。そしてしばらくして、
「よし。これで大丈夫だ。あと数時間で自然と浸透していくと思われる……さて増田君」
「はい?」
「後はレミ君と仕事の事で少々込み入った話がしたい。席を外してもらってもいいだろうか」
もうこれで全ての問題は解決した。まあ結果、レミとミカは下界にずっと残る事になってしまったのだが。だからその事で色々と話があるのだろう。そう考えて輝希は素直に、
「わかりました。じゃあ僕は部屋に戻ってます」
ダイニングキッチンに背を向ける輝希。そんな彼の背中に向けて、
「増田君」
と鈴木はもう一度声をかけた。
「せっかく助かった命だ。大事にしなさい。そして、レミ君、ミカ君をよろしくな」
その言葉は重みがあった。輝希は天使というものがどういうものか詳しく知らないし、鈴木がどんな人生を歩んで来たのかも、歳も容姿も何も分からない。でもその言葉には人生の酸いも甘いも噛み締めてきた、そんな貫禄があったのだ。そして顔も分からないけど輝希は思う。レミとミカをよろしく、そう言った彼の表情は、
おそらくその顔は笑っていたはずだろうと。
「もちろんです。ありがとうございます」
礼儀正しくお辞儀をする輝希。僕は死ねば二人は天界に帰れる、しかし鈴木はそれを望んではいない。むしろ彼のこれからの人生の充実を願っている。それが伝わり輝希は嬉しくなった。しかしこの一時間足らずで事態が急変したせいだろうか。彼の身体を唐突な睡魔が襲う。この二人の会話が終わるまでベッドで横になっていよう。そう考えて彼は今度こそ自室に向かったのだった。