オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第2章ー8

エンジェルゲートサムネ

完全に開き直ってむしろ誤摩化そうとするレミ。そして鈴木までがそれに味方する。だが無理があるだろう。誰が考えたってレミの行動が原因だ。しかし彼女は往生際悪く、

「ではそう言う事にしておく。私は信じないが」

「いや信じられないのはレミの行動だよ。普通そんな事するかな、普通」

 やれやれといった態度のレミ。増田には困ったものだな。と肩を竦めている。ったく、ぼやきたいのはこっちだよ、と輝希は思う。

「まあまあ、レミ君に悪気はなかったんだ。許してやってくれないか?」

「いや、まあ、それはわかりますけど、発想が大胆というか」

「すまない」

 上司に言われたからだろうか。レミは素直に一言そう言って頭を下げる。別にこの事で彼女を責める気はないが、なんというか不安になった。だって平気でそんな事をし始める女の子だぞ。この先、このレミと一生を共にしないといけない。だが事ある度に身体を火葬とかされたら命がいくらあっても足りないぞ、と嫌な未来しか想像できないんだが。

「ふむ、しかし全身を焼かれても君は死ななかったわけか。どうやら君はレミ君の力によって随分丈夫な身体になってしまったようだな」

 言われて気がつく。確かに全身を焼かれたというのに彼の肉体は死なず、それどころか翌日には元通りになっていた。それほどまでに天使の力というのは強力なものらしい。

「おっと、増田君、いくら強靭な肉体を手に入れたからと悪用はするなよ。特にその特異体質を良い事にレミ君と延々と夜のーー」

「しません。別に普通の身体でもそんな事はしません」

 全て下の方向に話を持っていく鈴木。ここまでくると逆に手を出して欲しいと思ってるんじゃないか、呆れながら輝希はそんな風に思える。鈴木は少し輝希の言葉を疑いながら、

「そうか、まあ、ならいい……よし、ではこれで全ての問題は解決したようだな」

「ええ……では長官、天界に戻れない私はこのまま増田と一緒に、下界で暮らしていくという事でいいのでしょうか?」

「うむ……そうだな。それは仕方のない事だ。気に病む必要はないぞレミ君」

 少し元気のなさそうなレミ。やはり表では平常なフリをしても、心の中では様々な感情が渦巻いているのだろう。鈴木は気にするな、といったが彼女はまた短く、

「長官」

「なんだね?」

「長くご迷惑をおかけになる事になりますが……本当に申し訳ございません」

 そう言って彼女は深々と頭を下げた。無論、通話越しの鈴木にその姿は見えはしないだろう。だがレミという少女の事を知っている者、ましてやレミとの付き合いが長い鈴木ならば姿が見えずとも、彼女がどれだけ申し訳ない気持ちかが十分に伝わったはずだ。それだけで彼女の性根がいかに真面目かを知る事が出来た。その姿を見て輝希は申し訳ない気持ちになったが、また謝る事は決してしない。だって、そんな事をしたらレミのこの行動を無駄にしてしまう気がしたからだ。鈴木はしばらくの間を置いてから、

「レミ君、そんなに深く謝る事はないぞ」

「しかし、私はしばらく、半世紀以上はそちらに戻れないんですよ……ですから、担当地区から除名をーー」

「ばかもの! ふざけた事を抜かすな!」

 そこで鈴木は初めて声を荒らげた。しかしその声は怒鳴り声やレミを責める類いのものではない。ただ彼女の、他人行儀な、あまりにも事務的な対応を寂しく思っての事だった。レミもそこまで鈴木が感情を露にするとは思わなくビクッと肩を震わせた。そしてそんな彼女に対して今度は優しく、

「レミ君、私は君を家族のように思っている……だからそんな事を言わないでくれ。たとえ、私達の事を考えた上だとしてもね」

「長官……」

「だから何年、何十年でも、私は待っているよ。課長の席は空けたままね……君がいつ帰って来てもいいように」

「はい……ありがとうございます」

 その言葉を聞いて彼女は何を思ったのだろうか。きっと、嬉しかったに決まっている。だって彼女が、いつもクールな彼女がーーこんなにも全身を震わせて泣いているのだから。

「だから、もし課長の地位に就きたいという奴が出てきたらこういってやるさ、」

「出世したければ地獄にでも行けってね」

「ぷっ……」

「えっ、今の何?」

 感動的な話から急変。訳がわからない事を言い出す鈴木。

「長官のジョークだ、おもしろいだろう」

 とレミは涙を服の袖で拭きながら、輝希に笑った横顔を見える。が輝希は苦笑いしか出ない。これはおそらくアメリカンジョーク的なものなのだろう。だから天界の人にしかピンとこない笑いなのだろうと思う。まあ敢えてこの空気の中で、今のは何が面白かったの? なんて聞く勇気なんてないのだろうが。しかし、そのやりとりをみていると上下関係とういうものはあるものの、どこか本当の家族のように思えてくる。親子の思い出がほとんどない輝希には二人の関係が微笑ましくて自然と笑みがこぼれた。

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