「え〜と、じゃあ、ゴホン」
黒板前の教壇へと立った実。わざとらしく咳払いを一回。ちなみに柚菜はその隣の椅子にちょこん、と座っている。真子は黒板正面の席に着き待機。すると実が教卓に手を置きながら大声で、
「三人になって公式にボランティア同好会になったよミーティング!! イエェーイ!! ヒューッ!! ヒューッ!!」
「……」
「……」
パフッ。パフッ。と、柚菜が手に持つパフパフラッパをやる気なく鳴らす。そしてポケットへと静かにしまった。
「……え?」
「ん? どうしたんだ真子? きょとんとして。もう部活は始まってるんだぞ」
「いや、え〜と、なんかノリがよくわからなくて」
「ノリがわからない〜? じゃあ、お前の中学ではどう言う風に始めてたんだよ?」
「え、私の中学ですか? ……私のトコはもう一人が来たら適当に始める感じでしたね」
「ヒュ〜、聞きましたかぁ〜柚菜ぁさん。なぁんすかぁね〜、あのやる気のない姿勢はぁ〜〜?」
「いや、そんなムカつく気持ち悪い顔されても困りますから」
「ええ、ホント気持ち悪いわよ実」
「あれ、なんだろ。急に涙が……まあ、とにかくこれがウチ流ってことだよ。早く慣れるんだな」
「はあ、わかりましたよ……」
「よし。じゃあ気を取り直して始めるぞ!」
「はいっ」
「今日はまず初めに報告からだ。真子聞いてくれ!」
「はいっ」
「本日付けで新入部員の真木真子が入る事になった!」
「はいっ。それ私の事ですねっ」
「そうだっ! 以上!」
「……」
「……」
「……え? 終わりですか?」
「ん? 真子以外に新入部員って入ったけ。柚菜?」
「いいえ。もちろん。入ってないわよ」
「だよな。じゃあ、やっぱり報告終わりだ」
「いやいや。だったら私の紹介とかを入れて下さいよ。やりますから」
「え〜。だってお前のことなんて知れても嬉しくないからな〜」
「ええ。自分から晒しにくるなんて恥女なのかしら?」
前言撤回。やっぱり仲良く出来ないかも知れない。真子は頭を抱えながら、
「ホントこの人達は〜〜……もういいです。勝手にやりますから」
そう言い真子は椅子から立ち上がる。少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら、
「今日からボランティア同好会に入った1年2組の真木真子です。元テニス部で趣味は音楽鑑賞。好きな物はカワイイ小物とかぬいぐるみです。よろしくお願いしますっ」
「……うん。そうだね」
「……はい。そうですか」
「いや、だから質問とかして下さいよ」
「え〜。じゃあ、今朝は何を食べましたか?」
「え? オムレツと食パンとミルクです」
「最近急に体調を崩す事とかはありますか?」
「いや、特にはないです……ってかそう言う検診みたいのじゃなくて、普通のをしてくださいよ」
「え〜〜、あっ。はい。質問です」
「はい。何ですか先輩?」
「さっきから僕たち先輩への文句が多くないですかっ!?」
「知りませんっ! ちゃんとやって下さい!」
「あ。えっと質問です」
「何ですか、柚菜先輩?」
「小腹が空いたんですけど、ドーナツとか持ってないですか?」
「ありませんっ! 怒りますよっ!」
「はいっ! 正直もう怒っていませんかっ!?」
「怒ってません! ってかそんなどーでもいい事でイチイチ挙手しないで下さい!」
「ぶ〜。柚菜〜。あいつさっきから文句が多くね? めんどくさいよ〜」
「まあ、もう十分楽しんだからそろそろ真面目にやりましょう。面倒くさいけど」
「あの、小声で面倒くさいとか言うのやめてくれませんか? 傷付きますから」
「はいはい。えっと、じゃあ質問な」
「はい。何ですか?」
「真子は何でボランティア同好会に入ってくれたんだ?」
「え。え〜と、それは、」
「それは?」
「え〜と、」
うまく言葉が出てこない。それは今でも気持ちの整理がついていないからなのだろうか。真子は頬をポリポリと掻き、必死に頭を回転させる。そして手探りで言葉を選びながら、
「なんていうか、その、自分なりのケジメなんです……」
「ケジメ?」
「ええ……実は、ずっと逃げて先延ばしにしている事があって、それをどうにかしたいんです。でも、まだ勇気が足りなくて、だから……」
「ふ〜ん……そう言えば、あの時もそんな事言ってたな」
「はい……」
「そっか……まあ、よく解らなかったけど、何か目標があるのはいいことだぜ。頑張れよっ!」
屈託のない笑顔を浮かべる実。見ていると勇気をもらえるような笑みだった。少し悔しいな。なんて思いながら真子は微笑んで、
「ありがとうございます……あ。あともう一つ理由がありました」
「ん? 何だ?」
「実先輩があまりにもしつこかったからです」
「結局俺のせいかよ!?」
「いや、別にせいってわけじゃないですけど、しつこかったのは事実ですからねっ」
「ぶ〜。はいはい。わかったよー。俺が無理矢理に真子を入れましたよ〜。どうせ俺が悪いですよ〜」
「だからそこまでは言ってませんよっ。えっと、なんか変な空気になっちゃいましたね。ここでやめさせてもらいますっ」
「いいえ。一つ、いいかしら?」
「柚菜先輩?」
今まで黙っていた柚菜が不意に声を上げた。真子は少し動揺。なんとなく身構えてしまう。柚菜は鋭い眼差しで真子を見つめて、
「私、あなたに質問したい事があるの」