「……」
まさかの同棲宣言に沈黙する蛍。僕達から一歩退きその表情も少し引きずっていた。かと思いきや、
「へえ〜、そんな深い関係なんだ〜。輝やる〜」
といつもの様な態度で輝希を弄る。が、まだそこには悪意ある嫌みたらしを感じた。輝希は誤解、いや誤解ではないのだが、とにかく彼女を沈めようと、
「いや、違うって! 話を聞いてよ!」
「でも輝も同棲か〜。子供の頃には私にあんな事いったのにな〜」
「違うんだ! この子達は……親戚なんだよ!」
幼い頃の約束を持ち出そうとする蛍。それは二人だけの約束で輝希はそれを破る気など全くなかった。だから冗談とわかっていてもそれを持ち出す蛍にムッとしてしまう。そしてそのせいか全くもってベタな嘘が口から飛び出してしまった。
「親戚〜〜?」
しまった。そう考えてももう遅い。ジト目で輝希を睨む蛍。その目には信用している様子など皆無だった。そしてその親戚発言はこちらの二人にも影響を与えたらしく、
「マジか……私、増田と親戚だったの?」
「増田さんと親戚……血がつながってる、うぷ」
と各々の反応。おそらくレミは冗談でやっているので無視。しかしミカは本気で気分が悪いらしくバナナを口から吐きそうになっている。この子は本気で僕が嫌いなんだろうか。
しかし二人はこちらの天使二人の様子を実況している暇はない。もうこうなったらこの設定で押し通すしかない。輝希は嘘笑いを浮かべさも当然のように、
「そう親戚、実は色々事情があって、今うちに住んでるんだ」
「へえ……事情って何よ」
「そ、それは言えないけど」
「何でよ」
「いや、だってこれは家庭の問題だからさ」
「家庭? なら言えるでしょ? だって」
とここまで機関銃のように矢継ぎ早に輝希を責め立てた蛍。かと思いきや急にしおらしくなり、
「私はもう輝希の家族みたいなもんでしょ?」
「え」
輝希を上目遣いで見上げてそんな事を言うのだ。家族、それは姉妹とか兄弟とか、そういう感覚で言っているのだろうか。それとも将来の妻、奥さん的なニュアンスなんだろうか。そう考えると心臓が激しく高鳴るのを輝希は感じた。彼はその真意が分からないので否定も肯定も出来ず、顔を赤くしながら、
「いや、まあ、それは、そうだけど、でもこの達の家庭がさ、ほら、深く関わることだし、だから言えないというか、うん……」
「ぷっ」
としどろもどろになり言葉を紡ぐ輝希。途中、俯く蛍の口から短い音が漏れた気がしたが言葉を出すのに精一杯な彼の耳には届かない。
「ふむ落ち着け、落ち着けよ増田」
「誰のせいだと思ってるんだ、アンタは」
まるで人ごとといったご様子のレミ先生。そして偉そうな態度をした彼女は蛍さえも宥めにかかる。
「蛍とやら別に私達に嫉妬する必要はないぞ」
「え? 別に嫉妬とかじゃないけど」
さらっと否定する蛍。ついでに言うとおそらくまだ親戚だという事を疑っている。しかし先程の発言を考えると、もう私と輝は家族みたいな関係→だから他の女になど嫉妬しないという意味なのだろうか。ならば嬉しいのだろうが。
「そうか。しかしさっきこの男は言ったぞ」
「何をよ?」
と期待というか想像してる間にも二人の会話は進む。だが正直蛍のさっきの言葉の意味が気になり、言葉が上手く耳に入っていかない。するとレミは、
「お前が好きだと」
「うおおおい、だから変な事言うなって言っただろ!!」
いきなり爆弾投下。さらっと破壊力大の発言をした。
マズい。
マズい。
いや、いいのか。好きだし。
別にいいんだよな。
でも彼は思った。自分はなれたのだろうかと。彼女にふさわしい自分に。蛍に頼りにされる自分になる事ができたのだろうか。多分その答えはノーだ。
やはり駄目だ。こんな流れで告白なんて出来ない。それに約束したじゃないか。その時が来たらーーと
「ぷ、」
ぷ? ぷってなに?
焦る輝希の耳に聞こえてきたのは、空気が漏れたような音。その音は徐々に大きくなり、
「ぷ、あははっ」
「はー、おもしろい子だね、君」
口に含んだ全ての空気を出し終えた蛍。ポンポンとレミの頭を触りながら、その顔は笑っていた。笑顔。そこにあったのは少年のような曇りのない笑顔だった。なんだ、やはりいつものようにからかわれていただけだったのか。と輝希は彼女のはしゃぐ姿を見て確信。しかしそのわりには普段にはない敵意や悪意も感じたのだが、とうっすらと疑問に思う点もあった。
「む、冗談ではない、増田のマスターは確かに言っておったぞ」
「もういいから。そういう事にしとけって」
だが彼女がいつもように笑うのならそれまでの話を引きずるべきではないだろう。それにこれ以上好きだとかそういう話は蛍にして欲しくなかった。レミからそっと手を離して蛍は、
「は〜あ、ただ輝が珍しく女の子を連れてるから、つい意地悪したくなったんだけど……でも親戚か、知らなかったな〜」