そう言ってガッツポーズ。そして立ち上がり真子をビシッ! と右手で指差しながら、
「ふっ。真木っ! お前の暴虐もこれまでだぜっ! 今日こそ俺は楽園を手にしてみせるっ!」
「そう、そんなに死にたいんだ」
そう言ってニッコリと嗤う真子。さらに顔を歪めて、
「じゃあ殺してあげるわよ」
フュオオォオオ。
その瞬間、教室に不可解な現象が起きた。小刻みに揺れる机。突然吹き荒れる冷気。周囲に満ちる圧倒的な殺意。そしてそれらは全て真子が引き起こしたものだった。奈川は絶望の色を浮かべて、
「あれは、マキシマム真子チャンだ……」
「マキシマム真子チャン?」
奇妙な単語に反応した柚菜。思わず本から目を離して奈川に問い掛ける。すると奈川と松野は緊迫した様子で、
「はい。真木は水澄に強力な危害が及びそうになるとあの状態になるんです。そしてそうなったら最後。もう誰にも止められない暴力の化身となるんすわっ」
「ああ、ちなみに真子チャンのチャンは韓流アイドルの “チャン・ロンソン ”から来てるんですよ。真木って少し前まではロンソンのファンだったんです」
「へえ、あなた達よくそんな事を知ってるわね」
「はい。前にその事でからかってから水澄にセクハラしようとしたら初めてマキシマム真子チャンになったんすわっ」
「ええ。その光景を見てオレが命名したんですよ」
「そう。あなた達ってホントにクズね」
さらっとクズ呼ばわりして視線を本へと戻す柚菜。二人はズーンと肩を落として落ち込む。一方、岡崎は不敵な笑みを浮かべて、
「ふふっ。マキシマム真子チャンか。面白い。ならば俺も修行の成果を見せるとするか」
「おおっ。リーダーあれをやる気っすわ!」
「ああ、あれならば勝利は確定しょっ!」
期待に満ちた視線を送る二人。岡崎は両腕に力を込めて、
「ふ。真木。これが俺の全力だーーフォオオーー!!!」
そう言い奇声を上げる岡崎。俯いて全力で そしてふと顔を上げて、
「どうだシュゴシュゴ真木シュゴシュ俺の全力はシュゴシュ凄いだろ?」
シュゴシュゴと擬音を発しまくる岡崎。おそらく格闘漫画でよくあるオーラを演出しているのだろう。欠片ほども強さを感じない光景だ。だが奈川と松野はハイテンションで、
「さすがっリーダーだぜっ! あれこそ真木チャンに唯一対抗出来る人間ーー変態・岡崎だっ!」
「ああ、すげえオーラだぜっ!」
「ええ。確かにすごくシュゴシュゴ言っているわね」
興奮する奈川と松野。柚菜は思う。ああ、この人は絶対勝てないだろうなぁ。と。真子は無表情で、
「そう。じゃあもう殺してもいいの?」
「ああ。どっからでもかかってーーヘゲボォ!!」
「「リーダー!!」」
真子の先手を許した岡崎。右ストレートが腹に直撃。床にぶっ倒れてしまう。だが岡崎は余裕の表情で、
「ふふ。不意打ちとはさすが悪党。やることが汚ねえぜ」
「あぁ? てめえがいいって言ったんだろ? おいっ」
岡崎の言い方が勘に触ったのだろう。真子はヤクザばりの凄みをきかせる。そして足を振りかぶり岡崎の腹目がけて、
ゴスッ!!
「ゴバァ!」
「「リーダー!! 早く反撃するんだっ!!」」
早くも焦りを見せ始めたセコンド二人。だが岡崎は変わらず余裕の表情で、
「ふっ。慌てるなお前等。この程度の攻撃、なんともーー」
ゴスッ!!
「なんともーー」
ゴスッ!!
「なんともーー」
ゴスッ!!
「なんともなくないです!! ホントすみませんでした!!」
「「リーダー!?」」
痛みに耐えかねた岡崎。シュバっと土下座してあっさりと敗北を認める。しかし真子は、
「アンタ、今さら謝ってなんとかなると思ってるの?」
そう言い仁王立ちで怒りを露にしている。許してくれる気配はない。それでも諦めず岡崎はゴマをすりながら、
「いや、ほんと勘弁して下さいよ〜。これ絶対内出血とかになってますって〜」
「安心しな。そんなの気にならないような痛みがこの先に待ってるから」
「それ確実に死にますよねっ!?」
「うん。次の人生ではイケメンに生まれるといいね」
ボキボキッ! と拳を鳴らす真子。岡崎は恐怖で後ずさりながら、
「ヒィイィ!! 水澄さぁあん! 助けてぇええ!! ちゃんと謝りますからあぁああ!!」
真子の説得は無理と踏んだ岡崎。千佳子へと助けを求める。だが彼女は苦笑いを浮かべて、
「う〜ん。でもさすがに今回のは恥ずかしかったからな〜」
「いいぞー。もっとやれやれー」
そう言われて説得失敗。さらに美子に至っては面白がって煽るしまつだ。真子はニッコリと嗤って、
「じゃあそう言う事で死刑確定ね」
「う……ちくしょー! こうなったらヤケクソじゃあー!! 死ねええ!!」
立ち上がり拳を振り被る岡崎。ついに生を諦めたらしい。無謀にも正面から真子へと闘いを挑む。真子は怒りを通り越して呆れながら、
「アンタってとことん下衆よね」
「うおっ!」
ヒョイっと渾身の一撃を躱された岡崎。大きく体勢を崩して床に倒れ込む。すると真子はガシッと岡崎に跨がりマウントポジションを奪う。岡崎は意図が分からず、
「ま、真子様。一体何を?」
恐る恐る様子を窺うように訪ねる。真子は俯き表情を隠したまま、
「ホントさー。私最初は期待してたんだよ」
「はい? 何の事ですか?」
訳が分からず聞き返す岡崎。だが真子は構わずに、
「だってここに入ってもう一週間だよ」
「はい……」
「それなのに毎日ただグダグダするだけだよ」
「はい……」
「ホント、いつ活動すんだよって感じだよねー」
「え、いやボクに言われても……」
「それでさ〜、今日初めてまともな活動が出来るって思ったのにさ〜」
「は、はい……」
「なのにさ〜」
「なのに……?」
「なんでアンタ等の」
そこで真子はスっと右拳を振り上げて、
「悪ふざけに付き合わなきゃいけねえんだよーー!!!」
グッシャアァアーー!!!
「オブァアアーー!!」
怒声と共にトドメの一撃を放つ真子。岡崎は腹にかつてない程の衝撃を受けて絶叫をあげる。そして変態・岡崎は今度こそ完全に天へ召された。それを見て生存者の男3人は恐怖に引きつった笑顔を浮かべながら、
「み、実師匠。僕たちしばらくモテるのはやめますね」
「う、うん。やっぱり学生の本分は勉強だよねー」
「そうだね。僕もこれを機にしっかりと部活をやることにするよー」
アハハハ。アハハー。
岡崎の死体が転がる教室。そこに三人の乾いた笑い声が響き今日の部活は幕を閉じたのだった。