「いや、なんの略語でもないですよ。これでフルネームですから」
「オレわかったよ! 私の取り巻きは全員マッコイズの略だね!(キリっ)」
「……」
「……よし。これで私も登録が終わりましたよ」
「ええ。じゃあ、次の話に移るから席についてもらえる?」
「はいっ。わかりました」
スタスタと席に戻ろうとする真子。すかさず実はガシッと真子の肩を掴み笑顔で、
「おい、真子」
「なんですか? (ニコっ)」
「なんですか? じゃないだろ。オレ、今さっきボケたよな?」
「ええ。聞いてましたよ。すごいつまらなかったです」
「いや、だったら反応しようよ。たとえつまらくてもさ」
「え? 嫌です。だって先輩に関わると私まで注意されますから」
「でもだからって無視はないだろ。ていうか俺にも番号を教えろよ」
「はい。嫌ですけど?」
「いや、嫌ですけど? はおかしいだろ。部長に教えたら副部長である俺にも教えるべきだろ?」
「え〜。だって先輩と赤外線受信すると、なんか変なのに感染しそうだから嫌です」
「なんだよそれ。ただちょっと通信して終わりだぞ。何も起きないだろ」
「でも予防するに越したことはないじゃないですか。あ、諸橋大漢和もろはしだいかんわ5冊ぐらい挟んで通信するなら大丈夫ですよ」
「それじゃ赤外線通るわけないだろっ! どんな用心だよ!」
「え〜……じゃあわかりましたよ。画面見せて下さい。手入力で登録しますから」
「え、でも俺のアドレスって相当長いぞ?」
「別にいいですよ。先輩の電波を浴びるよりはマシです」
「なんだよ先輩の電波って……じゃあ好きにしろよ。ホラ」
ポケットから携帯電話を出した実。プロフィール画面を呼び出して真子へと手渡す。真子はそれを見ながら、
「はい、どうもです。どれどれ、」
開いたその先には、
機種名称
C-05M
メールアドレス
yunayunayunayunayunayunayuna@domomo.ne.jp
「長っ!! ってか怖!!!」
「なっ? だから言っただろ?」
「いや限度ってもんがありますよ!! ていうか何でひたすらにって書いてあるんですか!?」
「なんでって、そりゃあ柚菜が好きだからだよ」
頭の後ろで手を組み、何と無しに言った実。真子は呆然。しばしの間の後に、
「え? 今なんて?」
「ん? だから、俺は柚菜が好きだって言ったんだよ」
「え〜と、それは実先輩が柚菜先輩を好きって意味ですよね?」
「そうそう」
「で、柚菜先輩が実先輩を好きって意味ですよね?」
「いやいや、動揺して変な事言わないでよ。私は別に好きじゃないから」
「全くそんな事言っちゃって。素直じゃないんだから。マイハニー」
いきなり柚菜へ急接近した実。顔を近づけて甘い声で囁く。柚菜はニコッと笑って、
「ええ。じゃあ自分に素直になるわね」
そして実の頬を右腕で鷲掴み。ミシミシミシと万力のように締め付ける。実は顔を圧迫されてすごい形相で、
「ふぃふぁふぃ。びょめんにゅびゅにゅにゅて」
「あら、割と可愛い声が出るのね。押すともっと出るのかしら?」
ミシミシミシ。
「フィゴー!! フィゴー!! ファフフェテー!! フィヌー! フィヌー!」
真子に助けを求める実。正直フゴフゴと聞こえるだけで意味は解らない。だがなんとなく危険を悟ったのだろう。真子は恐る恐る、
「えっと、柚菜先輩」
「はい、何かしら?」「フィゴフィゴゴゴ」
「いや、何かしらじゃなくて。そろそろ離してあげたらどうですか? 先輩死んじゃいますよ」
「そう? まあ十分痛ぶったし、この辺で許してあげるわ」
パッと手を離した柚菜。実は息を吹き返して、
「プハァ〜! 真子ありがとうなっ! ってか大丈夫か! 俺の無敵のジャ(ジャ煮ーズみたいにカッコいい顔)は!? 崩れてない!?」
「ええ。元からなってないですから大丈夫ですよ」
「そっか! なら良かった! いや良かったのか? この場合?」
頭に疑問符を浮かべる実。柚菜は頭を抱えながら、
「はあ、全く……次に変なこと言ったらこの倍はやるわよ?」
「ぶ〜。なんでさ〜? 好きだから好きって言って何が悪いのさ〜?」
「だから、そういうのは場所を選んで頂戴。こういう所で言わないで」
「そうか〜? 別に部室ならいいだろ」
「よくないわよ。第三者がいるならどこでも駄目。恥ずかしいでしょ」
「大丈夫だって〜。俺はそういうの気にしないから」
「駄目。実がよくても私は気にするの」
「なんだよ〜。そんなのい〜じゃん気にしなくて。真子もそう思うだろ?」
「まあ、それは人それぞれだと思いますけど……でもなんか意外ですね。あ、これどうもです」
アドレス登録を終えて実に携帯を返す真子。実はそれを受け取りながら、
「おう。で、何がだ?」
「なんていうか、先輩って恋愛とか興味ないイメージがあったんで……他の人にもそんな感じなんですか?」
「いや言うわけないだろ。こんなこと」
「そうなんですか?」
「ああ。だってーー俺が好きなのはずっと柚菜だけだからな」
「な!?」