オリジナル小説

オリジナル小説 ボラ魂2ー25

「はあ。そうなんですか」

「ええ……用はそれだけ? もうすぐHR始まるわよ」

 早々に話しを打ち切ろうとする柚菜。でも、だめだ。まだ 肝心な事を言えていない。真子はすうっと一度深呼吸。そして静かに、

「いえ、もう一つあります」

「……何?」

「……これ、受け取って下さい」

 真子は深々お辞儀。勇気を出し手に持つ封筒を差し出す。そこには入部届けの字。中身は担任から貰った部活動届け出用紙。そう、紛う事なき入部届け。それを緊張した面持ちで柚菜に渡す。きっと柚菜にとって以外な変化球だったに違いない。だが彼女は表情一つ変えない。顔もそっぽを向いたままだ。本を閉じてつまらなそうに封筒を受け取りながら、

「そう……ねえ、ひとつ言わせて」

「……なんですか?」

「私ね、あなたが好きじゃないわ」

 真子を横目で鋭く見つめた柚菜。冷淡に言い切る。実に冷たい表情だ。真子は怯んでしまう。そして、それにより緩やかな朝の気分は消失。二人の間に妙な空気が漂いはじめる。でもここで引くわけにはいかない。真子は気合いを入れ直す。緊張で唾を飲み、柚菜を窺うように、

「……それは、どうしてですか?」

「はっきり言うとね、私は中途半端な人が嫌いなの」

「……はい」

「だってそう言う人は簡単に人を裏切れる……私の気持ちも考えないで、都合よく離れて行く……つまり、あなたみたいに部活を退部したりする人は信用出来ないの」

 少し暗い面持ちで話す柚菜。何か昔に思うところがあるのだろうか。言葉数も珍しく多い。真子は引っかかるものを感じる。しかし今はその事を考えている暇などない。真子は緊張しながらも、慎重に相づちを打つ。

「……はい」

「だから、もし本当に入部するつもりなら、私はあなたに厳しくするわよ」

 威圧するような柚菜の問いかけ。脅しと言い換えても問題ないほどの迫力。でも今度は怯みなどしない。だって真子は決めたのだから。少しでも自分らしく前に進むと。だからこんな所で躓くことなどしない。真子は柚菜の横顔をしっかりと捉えながら、

「はい……構いません」

「本当にそれでもいいの?」

「はいっ」

 少しも臆する事なく返事をした真子。もうそこに迷いはない。あるのは入部したいという強い気持ちだけ。今の真子には確かな意思さえ感じられる。そして、それは柚菜にも伝わったのだろう。だから、

「……そう、」

 柚菜はそう呟くと、不意に真子の方を向き、

「なら、これからよろしくね」

 そう言い彼女は微笑んだ。しかしそれは満面の笑みではない。だが、いつもの鋭い面持ちとも違う。そう、あえて言うならばとても彼女らしい笑みなのだ。冷たいながらも温かみのある表情。誰かを励ませる人の笑顔だ。真子は思う。おそらくこれが彼女の本当の表情だと。だからこんなにも優しい気持ちになれるのだ。真子は嬉しさから心を弾ませながら、

「ありがとうございますっ。柚菜先輩っ」

 顔を赤くしてそう言ったのだった。それに対して柚菜はどこか楽しそうな表情で、

「ううん、いいのよ。じゃあ、さっそく頼まれ事をしてくれるかしら?」

「はいっ、なんですか?」

「あなた、私が猫を捜しているのは知っているのよね?」

「はい」

「実はどうしても見つからなくて、すごく困っているのよ」

「じゃあ、私は何をすればいいんですか?」

「そうね、」

 椅子の下からダンボールを取り出した柚菜。下を向きガサゴソと中を探り、

「とりあえずこれを付けてもらえるかしら」

「なんですか、これ?」

「これはネコミミとシッポと言われる物ね。詳しい解説が必要?」

「いや、それは見ればわかります。そうじゃなくて、なんで今出てきたのかって聞いたんです」

「え? だって猫を捜してくれるのよね? だったら猫に成り切らないと」

「……意味がよく解らないんですけど」

「意味の有る無しじゃないの。こういうのは形が大事なのよ。だからこっちも猫になりきるの。わかった?」

「はあ……そういうものなんですか」

「そうよ。ほら後ろを向いて」

「う〜……はい」

 柚菜のよく解らない発言に戸惑う真子。しかし、こんな真面目な顔で嘘を吐いているとは到底思えない。真子は渋々ながらも後ろを向く。柚菜に耳と尻尾をセットしてもらい、

「……先輩、これでいいんですか?」

「ええ、上出来よ。あとは『にゃーん(おんぷ)』みたいな甘ったるい声をポーズ付きで出せば完璧ね。ちょっと練習してもらえるかしら?」

「う〜……わかりましたよ……」

 もうヤケクソ。こうなれば本気でやるだけだ。教室に忍び寄る影、背後で必死に笑いを堪える柚菜。そのどちらにも気付かずに真子は全力の萌えボイス&ポーズで、

 ガラッ!!

「にゃ〜ん♪」

「柚菜〜、もうすぐHRはじまるぞ〜」

 図られたかのように扉が開いて実が入って来た。真子は赤面驚愕、柚菜は笑いを堪えきれず、

「なっ!?」「ぷっ」

「……真子、お前は何してんだ?」

「せ、先輩!? いやっ、これは柚菜先輩に頼まれてっ、猫捜しに役立つからって!」

「ねこ〜? 柚菜、この前みつかったって言ってなかったか?」

「ええ、先週あっさり見つかったわよ」

「なっ、やっぱりハメられてた!?」

「ふふっ、実の言った通りイタズラのしがいがある子ね……あ、そうだ実」

「ん?」

「この子、ボランティア部に入ってもらうから」

「なっ、マジか!? 真子!?」

 さっきの呆れた態度から一変。実は期待に満ちた顔で真子へと急接近し腕を掴む。真子は圧倒されながらも、

「え!? いやっ、まあ、その、はい」

「やった〜!! サンキュ〜!!」

 ハイテンションになった実。意味もなく真子へギュッと抱きつく。真子はさらに顔を赤くして、

「わぁっっ〜! バカっ、抱きつくなっ!!」

「いいだろっ〜、入部記念みたいなもんだっ!」

「だからって抱きつくのはダメだろっ! ってか、ミミとシッポを取らせろっっ〜!!」

 騒がしく暴れる二人。あっと言う間に教室は喧騒に包まれる。柚菜は横目でそれを見ながら、

「ふふっ。頑張ってねーー真子」

 先程の温かい笑みでそう呟いた。でもドタバタとしていた真子には、それを知る由もなかったのだった。

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マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 漫画が好きです。コンビニも好きです。
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