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無料オリジナル小説 ボラ魂2ー13

「ふう……全くあの人は」

 呆れ顔で実を眺める美子。そして振り返り、真子を真剣な瞳で見つめて、

「……真木」

「え? なに?」

「あんた……この勝負、勝てるの?」

「……どう、だろう……自分でも良くわからない」

「はあ……あんたって本当に、曖昧で中途半端ね〜」

「……ごめん」

「まあ、それは今に始まった事じゃないか……でもね、これだけは言わせて」

「えっと……何を?」

 美子は一度深呼吸。そして今まで以上の強い意志で、真子を見つめて、

「あんたは私のパートナーだったんだから、それに恥じない試合をしなさい」

 友達だった頃のような、少し意地悪な微笑みを浮かべた。

「美子……うん。わかってるよ」

 微笑みを返す真子。その顔にもう迷いは無かった。美子は少し照れながら、

「ならいいわ。じゃ、がんばりなさいよ」

「うん、ありがとね、美子」

「ふん」

 赤い顔を隠すようにそっぽを向く美子。真子に背を向け、審判台へ向かう。真子はその後ろ姿を見つめ、もう一度、

「ありがと、美子」

 すっきりした。もういいや。なんでこうなったとか。どうして自分がとか。負けたらボランティア部行きとか。そんなのどうでもいい。今出来る事をやれ。全力でぶつかるんだ。

「さて、テニスか……久しぶりだな」

 自コートに立ちスタンバイ。ラケットを握り直す。体勢を整え、正面にいる実を捉える。どうやら実は準備万端らしい。素振りをしながら、ラリー開始を待ち望んでいた。中々奇麗なフォーム。美子が一目を置くだけの事はある。初心者とは言え、かなり手強いかも知れない。

「でも……負けたくない」

 ピィイィイ!!

 笛の音が鳴り響いた。音は審判台の上から。美子の笛だ。つまり練習開始の合図。二人は同時に身構える。

「だいぶマシな顔になったな……いくぞ真子」

 独り言のように呟いた実。サーブの体勢を取る。宙へと投げられた球。少し粗いフォームでスイング。ラケットと球がぶつかる小気味良い音。そして放たれたフラットサーブ。安定した軌道を描き、真子へと迫る。

 集中しろっ。

 真子は球を見据える。落下地点を予測。ステップで移動。軽く深呼吸。体勢を整え、タイミングを見計らう。予測した軌道でワンバウンドした球。ここだ。狙いを定めスイング。正確なレシーブを放った。

「ふっ!」

 小気味良い音。実のコートへと返って行く球。対する実もラケットを振り打球を放つ。やはり荒っぽい。だが決して悪くないフォームだ。

「ふっ!」

 再び球を返す真子。なめらかな動き。初めのレシーブよりもさらに正確な打球。少しずつ戻りつつある感覚。身体が自然に動く。悪くない気分。だが不安もある。テニスに対する恐怖。美子への罪悪感。それらが真子を束縛する。でも美子は応援してくれた。真子を。だから、

 大丈夫。いける。きっと。

「よ〜し、この辺で止めとくか」

 実はコート中央に歩み寄りそう告げた。10分程ウォームアップした二人。十分に温まった身体。取り戻した感覚。試合を始めるには問題ないコンディションだ。真子もネットを挟んで実と向き合い、

「そうですね、大分温まりましたし」

「ってか、真子ってかなり上手いんだなっ。ビックリした」

「……まあ、悪くない動きだったわね」

 純粋に驚く実。審判台から降りて、照れながら呟く美子。そんな二人の賞賛に、真子は顔を赤くしながら、

「そ、そんな素直に褒めないで下さいよ……というか、先輩もかなりいい動きしますよね」

「まあなっ、運動神経には自身あるからなっ。えっへん。」

「でも、テクニックはいまいちだけどね〜」

「そこは、美子が後であとで教えてくれよ〜」

「わかってるって。でも、まずは目の前の試合だね……二人共、準備はいい?」

「おうっ、いいぜ。真子、お互いベストを尽くそうぜ。言い訳なんて無しだからな」

「……はあ……もうここまで来たら逃げれませんよね……いいですよ、望むところです」

 溜め息と共に呟いた真子。その顔には少しだけ笑顔。言葉とは裏腹に、内心嬉しくもあった。

「よ〜し、じゃあサーブ権を決めようぜ」

「はいっ」

「アップオアダウン。ど〜っちだ?」

 ラッケトを両手で水平に持ち、くるり、と回した実。笑顔で真子に問い掛ける。

「う〜ん。ダウンで」

 実はラケットを垂直にして、グリップエンドを見下ろす。メーカーロゴは正しく上を向いていた。

「残念。アップでした〜。じゃあ俺サーブも〜らい」

「むっ。負けた」

「真木ってホントにトス弱いな〜」

「そんな弱いのか?」

「うん。あまりにも勝てないから、ダブルスの時はいつも私がやってたぐらい弱い」

「うっ、仕方ないじゃん、勝てないんだから……じゃあ、こっちのコート貰いますよ」

 自分のいたコートを指す真子。実は張り切った様子で、

「オッケー。よ〜し、はじめようぜ」

「はい、やりますか」

「ふふっ。まあ、頑張りなお二人さん」

「うん。ありがと」

「おう、美子も審判よろしくな〜」

「はいよ〜」

 手を振り、背を向ける美子。審判台へと向かって行く。それを眺めた後、実は真子の瞳をしっかりと見つめて、

「憑き物は取れたみたいだな」

「えっ?」

「まあ、賭けは一度忘れてさ、互いに楽しもうぜ」

 笑顔でそう言った実。その瞳は全てを見透かしているようだ。真子は少し怯んでしまう。

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マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 漫画が好きです。コンビニも好きです。
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