「ええ。わかったわ」
そう言い足元に置いた自分のバックをガサゴソ漁る柚菜。真子は嫌な予感がして、
「いや先輩、設定って何ですか?」
「ふ、俺はこの日のためにモテ力の必要なシュチュエーションを考えてきた。お前等にはその条件下でどうしたらモテるかを実践してもらう」
誇らしい表情でよく解らない事を言い出す実。真子はジト目で、
「……そんなの気にせず普通にやればいいんじゃないんですか? まあ今やってる事自体が普通じゃないですけど」
「ふ、真子は解ってねぇなぁ」
「むっ、何がですか?」
「モテ男ってのはどんな状況でもモテるからモテ男っていうんだ。これはそれを目指す訓練なんだよ。な、柚菜?」
「ええ。じゃあどんな状況でもモテない実は当然あてはまらないわね」
「……はい。私めが調子をこいておりました」
ズーンと落ち込む実。だが柚菜はそんな事を気にもせず、
「くだらないこと言ってないで始めるわよ。はい。ドン」
バックから出した紙の挟まれたクリップボードをオープンさせる柚菜。そこにはパソコンで打ち込まれた字で、
岡崎蓮弥故人。死因・溺死。
奈川 柳樹故人。死因・射殺。
松野 凉也故人。死因・刺殺。
「……いや全員くたばってるじゃないですか。合コンじゃなくて葬式でもするつもりですか?」
公開された意味不明な設定。それに対して呆れながらツッコむ真子。柚菜はクスリと微笑みながら、
「あら、上手いこと言うわね。私なりに気を利かせてみたんだけれど、確かにこれではお葬式ね」
「気を利かせるって……一体どうしたらこんな事になるんですか?」
「いや、だってこの人達の顔じゃ一生異性に好かれる事なんてないでしょ」
この企画を根本から否定する柚菜。そして真面目な顔をして、
「だから一思いに殺しました」
キッパリと言い切る柚菜。その顔には一切の悪意もない。ただ事実を述べた。そう言わんばかりの表情だ。岡崎は半分涙目になりながら、
「柚菜さん……人を傷つける優しさってのもあるんですよ……」
「大丈夫よ。私は解ったうえで傷つけているから」
「じゃあ何が大丈夫なんですか!?」
ガーンという効果音が聞こえそうな程に落ち込む岡崎。実は柚菜を諭すような笑みでみながら、
「柚菜〜。だから言っただろ? 俺の案の方が自然でいいって」
「そうね。少し本音が入ってしまったわ。じゃあ素直に実の案でいきましょうか」
「はあ……じゃあ先輩の考えたのはどんなのなんですか?」
「ん? 俺の考えたのは、真子がクラスメイトの岡崎君達に頼まれて他校の友達2人を招き合コンを開いたっていう設定だ」
「偉そうな事言ってた割にはすごい普通ですね。というかほとんどまんまじゃないですか」
「おいおい。だって普通の時にモテないヤツがいかなる状況でもモテるわけがないだろ?」
「ごもっともですけど、それ先輩にも当てはまりますからね」
「ふふ、そんな軽口を叩けるのも俺のモテ指導が始まるまでだぜ……じゃあ岡崎君達、そろそろ始めるがいいかね?」
「「「はいっ」」」
「いい返事だ。じゃあ君達のクラスメイトの男子3人組という設定だ。という事で真子以外は初対面という体で頼む。後、俺と柚菜は審査員だからその場にはいないものとしてくれ」
「「「はいっ」」」
「よし。じゃあここを合コンの舞台であるファミレスだと思ってまず登場から始めてみてくれ」
「了〜解ッス! よ〜し行くぜお前等!」
「「オッケーッス!! リーダー!!」」
そう言いズラズラと廊下へと出て行く岡崎達。真子は最後尾である松野が出て行くと同時に深く溜め息を吐き、
「は〜あ。なんだかすごい心配だなぁ」
「真子さっきから落ち込んでばっかだね」
「だってあの三人組だよ。絶対変なことになるって……ん?」
「あは〜、どうしたの真子?」
「いや、なんか声が……」
そう言い廊下側を振り向く真子。残りのメンバーもそれに続く。すると廊下の方から、
「よし、じゃあ俺は葉月狙いで行くっすわ」
「じゃあ俺は水澄狙いしょっ」
廊下ではどうやら疑似合コンでの各々のターゲットを決めているらしい。初見という設定を完全無視。意気揚々と意見を述べる奈川と松野。すると岡崎は、
「いやいや落ち着けよお前等。そしたら俺は必然的に真木狙いになっちまうだろ」
「何か問題があるのか?」
「当然の流れしょっ」
「バカ。お前等、」
そこまで言いキリッと目を鋭くする岡崎。耳を凝らさなくても教室に聞こえる程の大声で、
「どうみたって真木はあの中で格下だろっ!」