「モロチン?」
再び疑問符を頭に浮かべる千佳子。美子は苦笑しながら、
「水澄。別にそんなの気にしなくていいからね」
「うん。ホント今のは忘れて。忘れやすいように後で岡崎の存在も消しておくから」
「そんな理由でオレ消されんのっ!?」
ガーン! と驚く岡崎。真子は少し顔を赤くしながら、
「当たり前でしょっ。今度変な事言ったらホント消すわよ。っていうか奈川達も真面目にやんなかったら怒るからねっ!」
「ふ。全く、俺をこんな下品なリーダーと一緒にするなよ」
そう言って自信満々に微笑む奈川。岡崎と入れ替わりで椅子から立ち上がる。そして、
「同じく美咲高校一年の奈川柳樹っ。アソコはあんまり大きくないですっ!」
「別にサイズの問題じゃねえよっ!!」
全力でツッコむ真子。よく解らない勘違いをしていた奈川に大声でキレる。だが奈川はホッとした笑顔で、
「えっ! ホントに!? 良かった〜。小さいのを気にしてたんだよね〜」
「いや良くないから。結局言っちゃダメなのに変わりはないから」
呆れたように呟く真子。そこで松野が腕組みをしながら誇らしげに、
「ふっ。リーダーも奈川もダメダメだな。根本から勘違いしてやがる」
「松野。アンタはちゃんとやるんでしょうね?」
「当たり前だ。見ていろ」
そう言い奈川と入れ替わりで立ち上がる。そして堂々と、
「美咲高校一年! 松野凉也っ! アソコのサイズは別にモテと関係ないと思っている!」
「根本から間違ってるってそういう意味!? アンタ等もう死ねよ!!」
「うん。さすがにちょっと酷いよね」
キレ全開の真子と苦笑いを浮かべる美子。松野はガタン! と椅子に腰を落として、
「くっ! なぜだ……俺の自己紹介のどこに問題が……」
「ちくしょう。一体何がいけないって言うんだ……」
「ああ、皆目検討もつかねえっすわ」
「ならモテるのやめた方がいいよ」
ジト目で割と的確な事を言う真子。すると、
「ブラボー!! 素晴らしかったぞっ! そんなに落ち込むなよっ君達っ!」
「「「師匠!?」」」
急に立ち上がった実。大声と拍手で岡崎達に賞賛を送る。そして顔を渋くして、
「うむ。初めてにしては上等な下ネタだったぞ」
「それは下ネタっていうんですか?」
矛盾が気になりなんとなくツッコむ真子。実は顔の掘をさらに深くして、
「もちろんだ。あまり下成分を強調していないところが素晴らしかったよ」
「「「はいっ! ありがとうございますっ!」」」
「ただ、欲を言えば露出が足りなかったな」
「「「な〜るほどっ! 今度は全裸で自己紹介しますねっ!」」」
「ふ。それでは犯罪になってしまうだろう。せめてネクタイと靴下は着けておくべきだな」
「「「さすがっ(す!)(すわ!)(しょ!)」」」
「よし。それが解ったら次に活かしていきたまえ」
「「「はいっ!」」」
「はあ……なんかさらにメンドくなりそうだな」
俯き深い溜め息を吐く真子。不安から頭を抱える。すると右隣から、
「お客様ご注文はお決まりですか?」
「……柚菜先輩。何のつもりです?」
そこにはいつの間にか柚菜が立っていた。視線は手に持つ本に向けたままだ。真子は不審に思いジト目で問い掛ける。すると柚菜はさらっと、
「ええ。ウェイトレスのつもりです。ファミレスには普通いるでしょ」
「いや小説をガン見してるウェイトレスなんて普通いませんよ」
「いえ、違うわよ。これはハンディターミナルの代わりよ」
「はあ……そうなんですか」
「ええ。それで注文は決まったのかしら?」
「いや注文って、メニューがなければ分かりませんよ。ってかこれやる必要あるんですか?」
「大丈夫よ。普段一人でしかファミレスに行かなくてぼうっとメニューを眺めまくっているあなたなら無くてもオーダーぐらい決めれるはずよ」
「なんでそんなの知ってるんですか!?」
衝撃を受ける真子。柚菜は微笑みながら、
「ふふ。まあなんだっていいじゃない。さあ、早く決めなさい」
「むう……釈然としませんけど分かりましたよ」
不満に思いながらも押し黙る真子。確かモンジョリアのメニューはこんな感じだったな。と真子は行きつけのファミレスのメニューを想定する。そして、
「えーと、じゃあこの右上のチキンステーキセットを下さい」
「わかったわ。この右上の“へへへ。マサオの母ちゃんもセットで肉便器にしてやるぜ”を一つね」
「それは小説の右上に書いてある文ですよね!? っていうか何てモン読んでるんですかっ!?」
「え? 何って文庫サイズのエロ本よ」
「如何わしい小説ですら無かった!」
「ふふ。冗談よ」
そう言いイタズラな微笑みを浮かべる柚菜。だが岡崎達は本性むき出しで、
「何ぃー!! エロ本だってー!!」
「うぉおお見せてくださぁあい!!」
「俺も俺もぉおーー!!!」
見を乗り出し騒ぎ出す三人。その姿はまるで獣。ブチン! と真子の中で何かが切れる音がした。真子は凄まじい勢いで右腕を突き出しながら、
「静かにしろぉおーー!!」
ドスッ!!! と岡崎の腹部に拳を放つ真子。渾身の右ストレートだ。岡崎は堪らず床に吹っ飛ばされる。そして腹部を抑えて転げ回りながら、
「ぐぉおお!! 俺の未来がぁあ!! あの娘とみるはずの明日がぁあ!!ーーガクッ」
「「リーダーー!!!」」
そして岡崎はピクリともしなくなった。奈川と松野の絶叫が教室中に響いた。