1 天使達と僕
人は死ぬと天国か地獄、俗に言うあの世と言われる場所へ行く。実際にあるのかもよくわからないのにずっと言われ続けてきた一説。
オレンジ色に染まる空。畠山(はたけやま)高校から市街地へと向かうバスはガタガタと小刻みに揺れながら4月の爽やかな風を受けそれなりに発展した畠山市の街並を進んでいく。車内には畠山高校のブレザーを身を包んだ男女数人に子連れのおばさん、腰の曲がったお爺さんが個々に座っていた。そしてそのブレザーを着た内の一人、一番後ろの横に長い席の真ん中に座っている少年は中性的な顔立ちを『ふぁあ』と歪ませて欠伸を一つ。このゆる髪の少年ーー増田輝希ますだてるきもそんな世界があると思っていた内の一人だった。少なくともサンタが実際にいると信じていた歳ぐらいまでは悪魔、天使、ついでに宇宙人といった類いの可能性を根拠もなく考えていた。特に夢見がちな少年時代でもなかったが変に否定や馬鹿にするような事もなかった。だって輝希にはその方が素敵に思えたからだ。まあサンタの正体は近所のおっさん、鼻の曲がりそうな匂いの外国タバコが特徴の中年、だったのだが今の彼のとってそれは些細な問題だ。そう、問題は未確認のそれらの現存、記憶の中の太った無精髭のおっさんでもない。この現実に両隣にいる二人の少女ー天使達の事だ。
「ねーねご主人様帰ったら何します? 私はーー」
輝希の右隣からキャッキャッとはしゃいだ可愛らしい声。輝希は少し嫌な顔をしてチラっとそちらに視線をやる。そこにいたのは声のイメージ通りの美少女だった。品の中に無邪気さの残る奇麗な顔立ち、そしてそれを彩るようなしっとりとした潤いのあるショートボブ。コンビニで買った雑誌に載っていた、モデルが着ていた衣装を真似て輝希がチョイスした春服もバッチリと似合ってしまうルックス。まるで人工物のような完成度の少女がそこにいる。でもそれもこの美少女の正体を知ればある意味納得出来る事だった。そう、現実にはあり得ない天然の薄桃色の髪が物語っているように彼女は人間ではなく、
その少女は天使だったのだ。
輝希は自分から一番近い二席前にいる同じ高校の女子に聞こえないようにボソッと、
「しー黙ってろってミカ。周りに人がいるから話ができないんだよ」
ミカと呼ばれた少女な天使(ちなみにミカは本名ではなくあだ名らしい)はぶうと頬を膨らませて普通の少年ならばドキッとしてしまうような上目使いで、
「むー。またそれですか。だから他の人にも見えるように下界状態になるといつも言っているのに」
「ばっ、ばか。今は絶対にやめてくれよ。同じ学校の奴がいるんだから」
下界状態。ミカの説明によると本来天使というのは人間には見る事を触る事も出来きず、声も聞く事は出来ないらしい。しかし下界状態といって天使として地位を落とす事により取り憑いている者ーー今回の場合は輝希の事になる、以外の人にも普通に見る事も話す事、そして触れることが出来るらしい。つまりこの天使な状態なミカと話してしまうと彼は“宙に向かって喋る中二病的なおかしな人”になってしまうのだ。たしかに周りにも見えるようにしてくれれば会話も出来るのだが。と輝希も考えはするが、
でも知らない奴とは言え同じ学校の人にこいつらと一緒にいるとこなんて見られたくないんだよな〜。