「あー。これとかよくないですか? 増田さん」
マサシ電気店内、ミカと店内を物色し出してから20分経過。そして30回目の『あー。これとかよくないですか? 増田さん』が出た瞬間だった。初めて店内を訪れたミカは警戒した様子で辺りを見渡していた。だが下界の電気屋は鬼などいないし、とても安全な所だと分かり始めてからリラックス、を通り越して気だるさ全開になってしまった。さっきから適当な物を見つけては『あー。これとかよくないですか? 増田さん』を繰り返している気がする。
「君、さっきも同じような事言ってたよね」
「いやさっきの乾電池も捨てがたいですけど、このボタン電池もいいんじゃないかなと」
「……確かに似た様なもんだけどさ。でもプレゼントとして渡す物ではないだろ」
落ち込んでる女の子に電池あげてどうする気だよ。
「いやでも、」
屈んでケース下段の単一電池を見つめるミカ。彼女はそのままボソッと、
「電化製品自体女の子へのプレゼントではないでしょう。豆電球なんてプレゼントされて誰が喜ぶんですか? 包装する店員だってビックリですよ」
「いや君がレミの好きな物だっていうからだろ。そしてそんな物を渡すつもりはない」
ついに根底から覆しにかかったミカ。どうせ早く帰りたいだけだろう。とも思ったが、なんだかよく考えると一理あるような気がして来た。
「まあ、でも確かに色気というか、何か堅実すぎて面白みがないような」
「でしょ? 帰りにす◯家の牛カレーでも買っていった方が女の子は喜びますからね。あー、カレー食べたい」
「……それも女の子へのプレゼントじゃねえよ。ただ夕食買って来ただけじゃん」
お腹を押さえるミカへ素早い指摘。しかしまあ、
「でも君の場合はそれが一番喜びそうだな」
「わかってるじゃないですか。ならレミちゃんの喜ぶ物だって自分で分からないですか」
「いやレミの場合は色々な事が態度に出ないからさ。分かり辛いというか」
そう言われて気付く。確かにミカの喜ぶものならばすぐに分かる、レミに聞くまでない。だが、あまり感情の抑揚がないレミの方となると急に自身がなくなってしまう。彼女がコーヒー、それとドラマが好きなのは傍目で見ていてなんとなくは分かるのだが。しかしそれに対しても『ふむ』とか『うまいな』等と言った感じなので、仮にドラマDVDやコーヒーをプレゼントしたとしても喜んでくれるのだろうか。……不安だ。
でもどうなのだろうか。彼女達二人とは同時に出会ったのだ、なら接してきた時間も同じぐらいあるはずだ。よく考えればレミが絶対喜んでくれるものが、
「レミってさ、音楽をよく聴くよね?」
そういえば、と思いついたものがあった。
「え、ああ聴いてますね」
まだ二人がこちらに来て間もない頃、レミが下界の色々な文化に興味を持ち始めた時だった。ドラマもそうだが彼女は音楽にも感心を示したため、輝希は自分が昔使っていたウォークマンをあげた事がある。そしてそれ以来、彼女はそれを使い音楽を聴いている姿が度々見られた。
「あ、そういえば。そのウォークマン? ですがね」
ウォークマン。その事で思い出した事があったのだろう。ミカは立ち上がり、
「なんか右側から音がしなくなったって言ってましたよ」
「うそっ! 故障!? それともイヤホンが悪いのかなっ」
結構昔の物を渡したからな。どこかしら壊れてもおかしくはないか。と思ったのだが、
「はい。付着した増田さんの耳垢を掃除したら右側から音がしなくなったって」
「……すごい念入りにしたんだね。というか地味に傷付く話だな」
そんなのを女の子に渡してしまった事が恥ずかしくなってきた。ちゃんと掃除しておくんだったな。
「ちなみにこの話は小心者の増田が知ったら傷付くだろうからしないでくれ、って言われてますーーはっ! しまったー!」
ガバッと口元を押さえるミカ。その姿はわざとにしか見えない。だがまあ天然、というか馬鹿なんだろう。
「いや、いいよ。もう。まあそれを聞いて買うものは決まったな」
「よしきた。豆電球買って帰りましょう。周りから見ればイヤホン挿してるように見えなくもないし」
「だからどうした」
イヤホン売り場に行くのすら面倒なのか。近場にあった豆電球で済まそうとするミカ、そんな彼女を引きずりながら輝希はイヤホンコーナーへと向かう。