オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第3章ー5

エンジェルゲートサムネ

「あー。これとかよくないですか? 増田さん」

 マサシ電気店内、ミカと店内を物色し出してから20分経過。そして30回目の『あー。これとかよくないですか? 増田さん』が出た瞬間だった。初めて店内を訪れたミカは警戒した様子で辺りを見渡していた。だが下界の電気屋は鬼などいないし、とても安全な所だと分かり始めてからリラックス、を通り越して気だるさ全開になってしまった。さっきから適当な物を見つけては『あー。これとかよくないですか? 増田さん』を繰り返している気がする。

「君、さっきも同じような事言ってたよね」

「いやさっきの乾電池も捨てがたいですけど、このボタン電池もいいんじゃないかなと」

「……確かに似た様なもんだけどさ。でもプレゼントとして渡す物ではないだろ」

 落ち込んでる女の子に電池あげてどうする気だよ。

「いやでも、」

 屈んでケース下段の単一電池を見つめるミカ。彼女はそのままボソッと、

「電化製品自体女の子へのプレゼントではないでしょう。豆電球なんてプレゼントされて誰が喜ぶんですか? 包装する店員だってビックリですよ」

「いや君がレミの好きな物だっていうからだろ。そしてそんな物を渡すつもりはない」

 ついに根底から覆しにかかったミカ。どうせ早く帰りたいだけだろう。とも思ったが、なんだかよく考えると一理あるような気がして来た。

「まあ、でも確かに色気というか、何か堅実すぎて面白みがないような」

「でしょ? 帰りにす◯家の牛カレーでも買っていった方が女の子は喜びますからね。あー、カレー食べたい」

「……それも女の子へのプレゼントじゃねえよ。ただ夕食買って来ただけじゃん」

 お腹を押さえるミカへ素早い指摘。しかしまあ、

「でも君の場合はそれが一番喜びそうだな」

「わかってるじゃないですか。ならレミちゃんの喜ぶ物だって自分で分からないですか」

「いやレミの場合は色々な事が態度に出ないからさ。分かり辛いというか」 

 そう言われて気付く。確かにミカの喜ぶものならばすぐに分かる、レミに聞くまでない。だが、あまり感情の抑揚がないレミの方となると急に自身がなくなってしまう。彼女がコーヒー、それとドラマが好きなのは傍目で見ていてなんとなくは分かるのだが。しかしそれに対しても『ふむ』とか『うまいな』等と言った感じなので、仮にドラマDVDやコーヒーをプレゼントしたとしても喜んでくれるのだろうか。……不安だ。

 でもどうなのだろうか。彼女達二人とは同時に出会ったのだ、なら接してきた時間も同じぐらいあるはずだ。よく考えればレミが絶対喜んでくれるものが、

「レミってさ、音楽をよく聴くよね?」

 そういえば、と思いついたものがあった。

「え、ああ聴いてますね」

 まだ二人がこちらに来て間もない頃、レミが下界の色々な文化に興味を持ち始めた時だった。ドラマもそうだが彼女は音楽にも感心を示したため、輝希は自分が昔使っていたウォークマンをあげた事がある。そしてそれ以来、彼女はそれを使い音楽を聴いている姿が度々見られた。

「あ、そういえば。そのウォークマン? ですがね」

 ウォークマン。その事で思い出した事があったのだろう。ミカは立ち上がり、

「なんか右側から音がしなくなったって言ってましたよ」

「うそっ! 故障!? それともイヤホンが悪いのかなっ」

 結構昔の物を渡したからな。どこかしら壊れてもおかしくはないか。と思ったのだが、

「はい。付着した増田さんの耳垢を掃除したら右側から音がしなくなったって」

「……すごい念入りにしたんだね。というか地味に傷付く話だな」

 そんなのを女の子に渡してしまった事が恥ずかしくなってきた。ちゃんと掃除しておくんだったな。

「ちなみにこの話は小心者の増田が知ったら傷付くだろうからしないでくれ、って言われてますーーはっ! しまったー!」

 ガバッと口元を押さえるミカ。その姿はわざとにしか見えない。だがまあ天然、というか馬鹿なんだろう。

「いや、いいよ。もう。まあそれを聞いて買うものは決まったな」

「よしきた。豆電球買って帰りましょう。周りから見ればイヤホン挿してるように見えなくもないし」

「だからどうした」

 イヤホン売り場に行くのすら面倒なのか。近場にあった豆電球で済まそうとするミカ、そんな彼女を引きずりながら輝希はイヤホンコーナーへと向かう。

ABOUT ME
マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 漫画が好きです。コンビニも好きです。
こちらもよろしくお願いします
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー21

2023年4月1日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
 そしてその媒体が自分自身だとしたら。  その力は他の天使とは比べ物にならないものとなるだろう。 「はい。私はイワンさんやレミちゃんのような力の使い方は出来ません」  …
オリジナル小説

オリジナル小説 ボラ魂4−16 10億円詐欺被害者の書いた小説

2024年10月13日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
そう言ってガッツポーズ。そして立ち上がり真子をビシッ! と右手で指差しながら、 「ふっ。真木っ! お前の暴虐もこれまでだぜっ! 今日 …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第2章ー4

2023年1月26日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
ツッコミ癖が完全に仇となった。レミは珍しく本気で怒った様子だった。そして再びチクワというか鈴木に向けて、 「ええ、常に下界の死を探索している機械で、活動の停止した生物、場合 …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー12

2023年1月25日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「え? それ、どういう事なの?」  輝希を見下ろし奇妙な事を言い出すレミ。すると彼女の代わりにレミが輝希を見つめて、 「ふむ、昨日の事は緊急事態だったからな。だから後 …
オリジナル小説

オリジナル小説 ボラ魂4−7

2024年8月11日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「なっ!!」  聞こえて来た声に衝撃を受ける真子。どうやら岡崎的には真子は二人に比べて明らかに可愛さで劣るらしい。真子は恨めしさと恥ずかしさの混じった顔で、 「あのク …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー4

2023年1月23日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
それは彼の記憶に曖昧に残る3月6日の出来事。  輝希はその日ある少女と遊ぶ(デートと呼んでもいいのかも知れない)約束をしていた。午後0時50分待ち合わせより10分早く待ち合 …

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です