「お〜〜、ち〜こ。おはよ〜」
身体を起こし、真子は笑顔で手を振る。
「おはよ〜、真子〜」
少女ーー水澄千佳子は真子に笑みを返す。茶色のふわっとしたロングヘアー。おっとりとした口調。非常に印象の良い少女で真子の高校時代からの親友である。ちなみにかなりの巨乳だ。Fカップ越えは間違いない程の核兵器の持ち主でもある。
「いや〜、ま〜さしの占い一位だったのに朝から不幸でさ〜」
「呼び出し大変だったね〜」
「う〜ん。幸運から逃れられないって言ってたのにな〜」
「あは〜。真子はホントにま〜さ〜し〜好きだねぇ〜〜」
真子の正面に座り込む千佳子。机に腕を乗せておっとり話し出す。すごく和む光景だった。
ちなみに千佳子は “ま〜さし”がそこまで好きではない。彼女は生粋のジャ煮ーズファンでカワイイもの好き。あと、おっとりしすぎで、 “ま〜さ〜し”となぜか伸びてしまうのだ。
「いやっ、ほんとっいい歌なんだよっ、卍とか取り上げババアっ、それに亜人サディガン家前の駄菓子屋に、ジャ煮ーズ羨望歌!! どれも最高だよっ」
ヒートアップする真子。千佳子は苦笑いで、
「う〜ん。私はいいかな〜。ほとんどなに言ってるか解らなかったから〜〜」
真子は以前、千佳子に“ま〜さし”のCD(1stアルバム、終焉)を貸した事がある。そして、『え? 真子はどこに魅力を感じたの?』と素で言われた。その時は『こんな千佳子の顔は初めて見た』と、当時の真子は思いながら貸したCDを受け取った事があった。真子はその事を思い出しながら苦笑い気味に、
「まあ、ち〜こには合わないかな〜〜」
「う〜ん、ちょっとね〜」
というか千佳子にデスメタルとか聴いて欲しくないな。と真子は心底思う。まあ、勧めたのは真子自身だが。
「ち〜こはやっぱりジャ煮ーズがピッタシだよね」
「うん〜。ジャ煮ーズはカワイイし歌も好きだよ〜」
そう言ってにっこり笑顔。それだげで昨日今日の苦労が消し飛ぶかのよう。真子は千佳子の頭を撫でながら、
「ホント和むな〜〜」
「むふ〜〜」
キンコ〜ン、カンコ〜ン
そこで鐘が鳴った。授業5分前を告げる音。朝にだけ鳴る真子の幸せ終了の合図だ。
「やばっ、準備しなきゃっ、ち〜こ一時間目ってなんだっけ?」
「うん〜国語だよ〜」
『あはは、ちんこに、うんこってっ! お前はホント下品だなっ』
「なっ!? 先輩!?」
気付くと実がいた。窓際に寄りかかり話しに加わってくる。
「どうしてここに!?」
「いや〜これ以上は授業に遅れるから、先生が教室戻っていいよって言ってさ〜〜」
「じゃあ自分の教室戻ってくださいよ!?」
「え? いやお前を勧誘しに来たんだよ」
「はぁ〜〜」
頭痛い。ホント七時間ぐらい説教してくれればいいのに。真子は頭を抱えながら思う。
「ねぇ真子〜この人は〜?」
「あ、そうか。ち〜こは初めてか。なんか私に絡んで来る二年の人〜」
うんざりするように真子が言う。すると、千佳子は目をキラキラさせ、
「ほぉ〜〜、なんかカワイイ人だね〜〜」
「ほう、野蛮なお前と違って、見所のある子だな。っていうか、お前って友達いたんだな……」
「野蛮は先輩でしょ! あと、千佳子は手芸部だから一緒に帰れないの! 普通に友達いますっ!」
どうやら友達のいない一人カラオケ女。と、思われてたらしい。なんかショックだ。
「ってか、ち〜こ、別に関わらなくていいからね。ロクな事ないし。席戻りなよっ」
千佳子の背中を押し、席に戻るよう促す。
「え〜そう? 優しそうな人にみえるよ〜?」
「誰かさんと違っていい子だな! 君なんて名前?」
千佳子は立ち上がり、実の方を向き、
「水澄 千佳子で〜す。先輩は〜?」
「二年の椎名 実だ! よろしく!」
手を差し出す実。千佳子はそれを握り返して、
「わぁ〜、手もちっちゃ〜い。カワイ〜」
そして、モギュ。実を抱きしめた。
「ち〜こ!! 何してんの!?」
「え〜? だってカワイイんだもん」
と言いさらにハグ。身長差があるため、実の顔はスッポリと千佳子の巨乳に収まっていた。
その光景を見て、
「おっ、おい! あいつ水澄の秘境を探ってやがるぜ!!」
「ヤッベーー!! ハンパねぇすわっ!!」
「なんてラッキースケベ野郎なんだっ!!」
岡崎蓮弥率いるスケベ男子七人ほど(真子曰くクズ共)は、発狂に近い奇声を上げた。
「もうっ、いい加減にしなさいっ!!」
真子は無理矢理に実を引き剥がす。すると放心状態みたいな実が胸から現れた。千佳子はおもちゃを取られた子供のように、
「えぇ〜〜 もうちょっと〜〜」
「だめっ!! カワイイもの好きはいいけど、相手と場所を選んでよね!! 恥ずかしいでしょ!!」
「うぅ〜、はぁ〜い」
真子に叱られて反省する千佳子。落ち込んだ様子で返事。すると、復活した実は神妙な顔で腕組みをして、
「すごい策略だ……ここに孔明がいるぜ」
「は?」
「無害を装い、近付いたらパクリ。とんでもない作戦だぜ。おかげで勧誘って気分じゃなくなっちまった。ずらかるぜ」
実は廊下に向けて歩き出す。そして真子達に背を向けたまま、左腕を伸ばし親指を立てて、
「千佳子……ありがとう。真子、また勧誘に来るぜ」
「また来てね〜〜」「いや、意味解んないし、もう来なくていいから」
千佳子の活躍(?)により真子は勧誘を一時免れた。実は教室を出ていく。背後から岡崎達の、
「ハンパねぇぜ! 何者なんだっ、あいつは!!」
「よ〜し! みんなで、あいつの賞賛を讃えようぜぇ!!〜〜」
『まっかしとけぇ〜〜!!』
『お〜ぱっい! お〜ぱっい! お〜ぱっい! お〜ぱっい! お〜ぱっい! お〜ぱっい! お〜ぱっい!!』
等の言葉を受けながら、自室へと優雅に駆けていった。
「なんか……もうやだ」
真子は小さく呟いた。
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