3 天使達と様々な思い
「だって私も、もっと輝希のそばにいたいからさ」
あの日、あの夜に蛍からそう告げられてから1週間が経った。
だが彼女、赤土蛍と増田輝希の関係に大した変化はなかった。
彼女はいつもみたく彼へとイジワルな笑顔を向けて、いつもみたく彼の隣にいてくれた。
ただ、やはりレミとは何かがあったのだろうか。あれ以来、蛍は輝希の家に来る事はなかったし、ミカとレミの事について聞いてくる事もなかった。だから、輝希もあえてそれらの話題には触れないようにした。あの夜、蛍はレミと話してから明らかに様子がおかしかった。もしかしたら蛍がレミに対して何かしたのかもしれないし、その逆かも知れない。だが彼は怖かったのだ。
それを聞いてしまうと、大切な彼女とのいつもが壊れてしまう気がして。そして、
だって私も、もっと輝希のそばにいたいからさ
あの日、彼女が確かに言った言葉についても彼は言及せず、彼はいつもと変わらぬ日常を続けようとしていた。
だが、レミとの関係には少しの変化があった。レミも蛍同様、あの日の事について一切口を閉ざしたままだった。それに気のせいかもしれないが、まるで僕を避けるように自分の部屋にこもってしまう事が多くなってしまった。
ムシャ。ムシャ。
ミカ曰く鈴木と連絡をとっているらしいがその内容は彼女も知らないらしく、輝希はそれどころか、ここ一週間レミとあまり会話した記憶さえない。
一体、こんな調子で彼女と一生をともにする事が出来るのだろうか。輝希は心の中で大きく溜め息を吐く。
パリ。ポリ。
といった感じで、ここ最近の出来事を振り返る輝希の耳にパリ、ポリ、と小気味良い音が届く。場所は増田家のリビング。ソファーに座って、寝起きの身体をコーヒーで覚ます彼のすぐ横でその音はしていた。
この子だけは全くいつも通りだな。
「ミカ、君は悩みなんてなさそうだな」
床に寝そべりポテチをつまみながら漫画を読みダラダラとしている彼女。格好は上下セットの少女様のピンクのパジャマ、機嫌がいいのか足を終始プラプラと動かしている。とミカは絶賛平常運転中でした。
「はい? まあ確かに悩み? なんてありませんけど」
ちょっと皮肉も含まれていたが彼女は気付かない。けろっした態度で輝希を見上げてそう応える。
「ねえミカ」
「なんです?」
視線は漫画に向けたまま、どうやら今いいところらしい。
「レミの様子が最近変だよね。何か知ってる?」
彼女は右手でポテチをまた口に運ぶ。ちなみにこの質問はこの一週間の内に何回かした事があった。そして案の定、
「さあ〜、レミちゃん私にも言ってくれませんからね〜」
「そうなんだ……悩んでるなら言ってくれてもいいのに」
と輝希はミカと対極の反応。するとミカはチラッと輝希を見ながら、
「まあストレートなレミちゃんですから言いたい事があれば言うし、あまり詮索しない方がいいと思いますよ。レミちゃんは増田さんに迷惑をかけるような事をしませんから」
とその答えはかなり真面目なものであった、ポテチを食ってはいるが。
「そうか、それもそうかな」
確かにそうかも知れない。だからこの件も、もしかして僕に心配をかけないようにあえて隠してるのかも。ならば彼女が自然と話す時までもう少し様子を見よう。彼女の意思を尊重しよう、彼はそう思う。
「まあ好きなもの食べて、好きな事してれば、悩みなんて無くなるとおもいますけどね〜」
「ミカが言うとすごい説得力だな」
「でしょう?」
漫画のページを捲り彼女はそんな事を言う。だが、ミカはもう少し悩んだ方がいいのでは。そう輝希は考える。レミとは違い僕と魂が結合しているわけでもないのに、なぜか天界へと帰れないミカ。しかし彼女に悲壮感は一切ない。そして天界に帰る気もないのか、毎日どっかに遊びにいったり、こうしてダラダラを繰り返している。もうこれは完全なニート、うん、ニートだな。
好きなものか。でもそれは一理あるな。