「ねえミカ、レミって何か好きな物とかないの?」
「好きな物ですか、なぜそれを?」
ピクッと反応を示すミカ。首から上だけを動かして輝希を振り向く。
「いや、最近元気ないからさ、プレゼントでもして励ましてあげようかと」
「そうですか、えっと、そうですね」
顎に指をあてて、んーと唸り出すミカ。まさか知らないって事はないよね? としばし見つめていると、
「レミちゃんはかでんが好きですね。天界のレミちゃんの部屋にはいっぱいありますよ」
「家電? 電化製品の事?」
となんとも予想外の答えが返ってきたのだった。
「なんか意外だな。ていうか天界に家電があるってのもビックリした」
レミに家電。まあ知的なイメージが強いので似合わなくもない。と輝希は思う。しかし家電て。天界から来たというが本当は日本に住んでたんじゃ、と疑わしくもあった。
「ありますよ〜。レミちゃんなんて加湿鬼を何人も飼っていますし」
かしつき? 確かにそう聞こえたが。なんかミカの言い方、そしてなんかその後に奇妙な事を言った気がした。
「ミカ、今なんて? 加湿機?」
確認の意味を込めてもう一度聞き直す。すると、
「はい加湿鬼。鬼ですよ。天界の生物です」
と補足するミカ。どうやら輝希の予感は当たったらしくなんとも奇妙な事を言い出した。鬼、鬼とはあの昔話とかに出て来るものを指しているのだろうか。
「え? 天界ではそれを家電と呼ぶの? ってかそれどんな生き物?」
「はい、天界では下伝、かでんと言って下の者がやる掃除などの雑用を手伝ってくれる、鬼の事をそう呼ぶんです。鬼の見た目ですか? えっと」
ペラペラと彼女はページを捲り、
「こんな感じです」
丁度読んでいる漫画から適切な例を見つけたのだろう。彼女はその絵を指差す、そこにはグレムリンのような小さいながら完全な化物が写っていた。僕は若干ひいた。
「つまりレミの部屋にはこんなのが沢山いるわけか。怖いな」
「はい。他にもいっぱいいます。掃除鬼、食器乾燥鬼(洗浄鬼とのコンビ型)、洗濯鬼、そして冷蔵小」
「いや冷蔵小って何? 鬼じゃないじゃん」
おそらく小さいの小だろう。と輝希が考えていると、
「はい。小林です。小林の小です」
「誰だよ小林!?」
まさかの桁違いの回答が来たので輝希は声を荒げる。ミカはあれ? 前言いませんでしたっけと言った様子で、
「小林ですよ。前に会話に出てきたレミちゃんの幼なじみの」
「幼なじみで物を冷蔵してんの!? どんな関係だよ」
さらに驚愕の事実だった。僕もいずれそんな目に合うのでないか。そう考えてしまい不安を感じた。ミカはその誤解を解くように、
「いや小林ってのは生物の呼称ですよ。身体の温度を自在に操れる天界の生物です。だから下界では人にその名前が用いられるらしいですが、全くの別物です。誤解しないでくださいね」
「そうなんだ、いやここまできたら、もう何でもいいけどさ」
とまあ少なくとも自分が小林のように使われる可能性はなさそうなので輝希はホッと胸を撫で下ろす。しかし、天界ではそんな奇妙な生き物達を下伝、いや家電のように使っているのか。
「イメージと違うな……これじゃあ下界の家電をもらっても喜ばないかな?」
その鬼やら小林に慣れているレミに下界の物を渡しても、正直パッとしないのでは、と輝希は思ったが、
「そんな事ないですよ、レミちゃん下界の家電とやらにも興味津々でした。きっと喜びますよ」
とミカは強く後押しをしてくれた。レミとの付き合いが長そうな彼女が言うのならば、間違いないかしれない。しかし僕だけでは何を選べばいいのか分からない。それならばここは彼女を信頼して、
「じゃあ、ミカも一緒に来てくれないかな? 僕だけじゃ不安だし」
それを聞いて少しの間輝希を見上げていたが、彼女はすぐに、
「はい? まあいいですよ」
と、僕とミカは二人で出かける事となった。