実の物言いが癪しゃくに障り、思わず声を荒げる真子。教室には、少し気まずい空気が流れる。
「真子……」
千佳子の心配する声。彼女には、前に少し話した事があった。ガラの悪いボランティア部に所属していた事を。それを思い出したのだろう。いつもより声色が低い。
「っ、ごめんっち〜こっ。気にしないでっ」
慌てて平然を装う真子。
「……実、とりあえずもう行こう」
そこで声を発したのは、以外にも柚菜だった。
「え? なんで」
「おっぱいばっか見てる実がムカつくから」
「俺そんなみてないよ!?」
「む〜」
千佳子は頬を膨らませ、手でブレザーの胸部分を隠す。
「いやホント全然あんまり少しだけしか見てないよ!」
「いいから、早く帰るよ」
「ちぇっ、わかったよ〜。 んじゃまたな」
柚菜は場の空気を読んだのだろう。二人は荷物を持ち、席を立つ。全く場を理解していない実を急かしながら、共に教室を後にした。
「……真子〜、このワケノ〜シンノ〜スっての、めっちゃデロンデロンしてるよ〜」
千佳子が箸でイソギンチャクを左右に振る。その度にプルプルと不気味に震えた。
「……うん」
千佳子の優しさに和み、真子は微笑んだ。
★
昼食後。二人は荷物を置きに教室へ。そこで用事のある千佳子と別れ、真子は図書室へ向かう。静かな所で落ち着きたい。そう考えたからだ。
校舎のB棟二階。図書室。真子は扉を開け、中へ。静かな室内。教室二個分の空間。数々の本棚。勉強や読書をする学生。だが、机は半分以上空いている。楽に座れそうだ。
「げ……」
真子は受付を見る。そこには柚菜がいた。椅子に座り、本を読んでいる。題名は“猫の習性”。
「なんで、ここにいるんですか?」
無視するのもアレなので、とりあえず話しかける。柚菜は一瞬だけ本から目を離し、真子を見上げる。
「? ああ、あなたか。私、図書委員だから」
そう言って視線をまた本へ。まあ、確かに様になっているな。と真子は思った。
「そうなんですか……てかっ、ええと」
「何?」
「さっきはありがとうございました」
「別に、なんか実が巨乳ばっか見ててムカついたから」
「はあ」
「それに、強引でイラっともしたし」
「ああ〜、はい……」
「ったく、いつも無理矢理に巻き込んで、もうっ」
何かを思い出したのか、柚菜は一人言のように呟く。ほんのり顔が赤い。ちなみに相変わらず、視線は本に向けたままだ。
「何か言いました?」
「なんでもない。まあ……悪い奴じゃないから、出来れば嫌いにならないでね」
「それは、なんとなく解りますけど……」
「それにあいつ、あれぐらいじゃ諦めないから」
「え?」
直後、ガラっと扉が開く。
「よ〜う。真子ここに居たのか」
「な、椎野先輩……」
てっきり部の勧誘かと思いきや、
「次の時間の科学、場所が変わって第二実験室だってよ」
「なんで先輩経由でクラスの情報がくるんですか!?」
「いや〜千佳子に頼まれてさ。あっ、あと放課後のボランティアは第四準備室だぜ」
「ドヤ顔うざっ。興味ないんで、早く行って下さいよ」
「なんかキツくない? ハッ!? さては次の時間に科学の実験でハブにされるかも。って焦ってんのか!? 俺と同じだな!!」
「なっ! ハブになんてされません! 普通にいっぱい友達いますっ!!(まあ、誇るほどはいないけど)」
「嘘付け! 千佳子以外みたことないぞ! それに友達いる奴がヒトカラ行くわけないだろ!!」
「だからっ、みんな放課後は部活なんですよ!」
ダンッ!!
「二人とも、黙れ」
机を叩く音と声に振り向くと、室内の生徒&柚菜が、真子達を睨みつけていた。
「はっ、すみません」「や〜い、怒られてやんの〜」
「(イラッ)実、もう図書室出禁ね。あと、ついでに死刑」
「俺、出禁のついでに死ぬの!?」
「いいから、外行きなさいっ」
「ちぇ〜、わかったよ。じゃあな真子、大事なのはチームワークだぞ」
「だから〜……」
さすがに場所を弁わきまえたのか、大人しく廊下へと去って行く。真子も友達がいる事を証明したかったが、堪えた。柚菜は大きく溜め息をして、
「ったく、あいつは」
「なんかすみません……」
「別に気にしなくていいわよ。あいつがしつこくてウザイのはいつもの事だし。まあ、あなたもスゴくうるさかったけど」
「うぅ〜はい……」
落ち込む真子。柚菜は薄く微笑みながら、
「まあ、でも」
「はい?」
「否定ばかりしないでちゃんと見てみると、新しい事に気付けるかもね」
「……考えてみます」
「そう。ま、私には関係ないけどね」
そう言って柚菜は、再び本に視線を戻した。 真子は適当な席に腰を下ろし、適当な本に目を通す。
案外、柚菜はいい人なのかもしれない。
そんな事をなんとなく思いながら、真子は残りの休み時間を過ごした。
★