テーブルにがくっと項垂れるレミ。どうやらその赤いなんとかが見れずに落ち込んでいるらしい。でもなんで今ここでそれを言うのだろう。輝希は戸惑いながら、
「で、さっきからその、レミさんは何の話をしているの?」
「まだわからないんですかっ」
ダン! とテーブルを叩いたのは意外にもミカだった。彼女は珍しく眉を寄せて怒った様子で、
「レミちゃんはね赤トラの大ファンなんですっ! だから初回は通常放送でリアルタイムでみないと気が済まないんですよ。でもプライドも高くて放送を逃した事を人のせいにも出来ないんですよ。だからこうしてやりきれない思いがうっすらと出てしまうんですよ!」
「いや、そんな事を僕に言われても……」
「増田さん、そこは素直に謝ってください。じゃないとレミちゃんはもっと面倒くさくなりますよ」
なぜか輝希に謝罪を求めるミカ。正直言うと君も面倒くさいよ。と心の中で愚痴る。というよりこのやりとりでミカという少女に対する印象が随分と変わった。初見はまるで天使みたいな女の子だな(まあ実際に天使だったのだが)と思ったのだが、なんというか、思いの外口が悪いのだ。そしてその自覚が本人にないという事が余計タチが悪い。レミとは違う意味でクセのある子だった。まあふたりとも残念美人な気がするというところは共通しているのだが。グイグイと言葉で輝気を責めるミカ。ちなみに彼女は気付いていないかもしれないがレミの事も割とボロクソに言っている。するとその荒ぶる肩にポンとレミは手を置いた。そして首をふるふると横に振り子供を宥なだめるように、
「いいんだ、いいんだよミカ。私は赤トラの視聴率さえ上がってくれれば……たとえこの少年が天へと上がらなくてもな」
「レ、レミちゃん。なんて赤トラ魂……でも社会人としては失格ですね」
「うん、上手い事は言えてないからね。あと仕事を放棄しないで。ちゃんとやってよ」
手を口元にもっていき感動しているミカ。レミはドヤ顔。そして呆れた様子のツッコミをする輝気。と三者三様のリアクションをとった後で、
「と、まあそういう事で気にするな。これは私の実力不足だ。断じて増田のせいではないのだ」
「いや目が怖い。目が怖い。こっちみないでよ。怖いから」
ギロッと彼を睨むレミ。その目には恨み満タンといった様子だった。どうやら輝気の魂を運ぶ過程で問題があったようで、そのせいで好きなドラマが見れなかったということらしい。レミはぷいっとそっぽを向きぼやくように、
「ふん。たまにいるのだ。中々天界へと持っていけない、魂の強い手こずるやつがな」
「魂が強い?」
「ああ。ちなみにこの強いというのは別に肉体とか権力という意味ではないからな……私達にしか分からない魂そのものの強さ、そうだな、精神力とでもいうのかな」
適切な言葉を探すレミ。精神力、その言葉で漠然とだが想像出来る気がした。きっと意思というか心の強さというか、とにかくそういった目に見えない何かを指しているのだろう。と輝希が考えていると、
「そのどちらもなさそうな増田さんには分かりやすいですよね」
増田さんは特出した身体能力でもない、ついでに社会的地位もない。だから魂の強いが意図するところがご自身を考えればわかりますよね? そう言った意味合いの事を笑顔で言うミカ。やっぱ彼女は天然毒舌だった。
「まあ言いたいことは分かるけど君はなんかさっきからうるさいね」
「辛辣なレミちゃんの言葉をソフトにウェットに包むのが私の役目ですので」
「いや、多分お前の方が増田に対して冷たいぞ」
「そうです?」