オリジナル小説

無料オリジナル小説 ボラ魂2ー18

「うぉ!?」

 急いでネットへと駆け出す実。だが間に合わない。球は実コートへと落ち、ネット付近で小さくバウンドした。

「はあはあ……」

 間一髪のネットイン。一応形だけみれば真子のポイント。だがコールはない。その代わりに美子自身がコートへと降り立つ。そして二人に告げる。

「大声出してすみません……少し、真木と話させて下さい」

「美子……」

 申し訳なさそうな顔の美子。きっと試合に水を差した事を気に病んでいるのだろう。真子は心が痛むのを感じる。また汚してしまったからだ。美子のテニスへの想いを。情熱を。一度ならず何回も。だから心が痛い。だが、美子は自分のために傷ついてくれた。叱ってくれた。だから聞かなければならないのだ。真子は戸惑いながらも、力強く、

「……うん」

「ああ。俺も構わないぜ。言いたい事があるなら言っちゃえよ」

 実は励ますような笑顔を美子へと向ける。きっと実は待っていたのだろう。美子のその言葉を。だから、いつもよりも余計に笑顔なんだろう。

「ありがとうございます……じゃあ真木。聞いて」

「うん……わかった」

「すぅ〜」

 真子をしっかりと見据えた美子。目を閉じて大きく息を吸い、

「アンタは弱気すぎなのよバカッ!!」

「へ!?」

 予想外の言葉。真子は思わず間抜けな声が出る。しかし美子は気にせず言葉を続けた。

「いい!? 前衛だったアンタが勢いを無くしてどうするのよ! ワンゲーム獲られた? だから何? すぐ取り返せばいいのよっ。難しく考えるなっ。気にせず自分の闘い方をすればいいのっ! それは今も同じ! わかった!?」

 続けざまに告げる美子。今までずっとえてきたもの。あの大会の日、真子を気遣い言わなかった言葉。それら全てを真子にぶつける。真子は圧倒されてしまい、

「えっ? ええとっ?」

「だから」

 美子は笑みを浮かべる。いつもの意地悪な笑みじゃない。だれかを応援するような優しい笑み。そして柔らかな声色で、

「とにかく、突っ走ればいいのよ。バカ」

 すうっ、と憑き物が取れていくのを真子は感じた。何だろう。身体が軽い。さっきまで動かなかったのに。いや違う。動けないと思い込んでいた。本当は動けたのに。それを美子が気付かせてくれた。だから、闘える。

 真子は美子の笑顔に応えるように、強い意志を込めて、

「うん。ありがと」

 ピィイィイ!!

「プレイ!」

 第8ゲーム再開。スコアは40・ラヴから。先のポイントは真子の同意の下ノーカウントとなった。だからポイントはそのまま。実の優勢は変わらない。しかし真子の心は大きく変わっていた。先程まであった迷い。それはもう消え失せていた。

「ふっ!」

 真子の闘い方はダブルス向けだ。理由は防御面に優れていないから。だから今回、自分のプレーを封じ込めた。そして無意識の内に防御に徹していた。真子は恐かったのだ。ペアがいない事が。守ってくれる人がいない事が。でも美子のおかげだ。今は真子自身の闘い方が出来ている。恐れずテニスをやれていた。

「40・15!」

 真子のテニスは速攻型の短期戦タイプ。それは実も同じ。だから恐れていた面もあるのだろう。同じ土俵に立てばどちらが優秀か明白になってしまうから。それ次第では自分を否定されることにもなるから。だから、真子は弱気になっていた。

「40・30!」

 でも、もうそんな事は気にせずに闘える。だって、短かったけれど、

「40・オール!」

 美子と頑張ってきた努力は、そう簡単には崩れないから。

「ゲームセット アンドマッチ ウォンバイ真子 シックスゲームtoスリーゲーム!」

 真子の勝利を告げる声がコート一面へと響いた。そしてコールする美子の声は、とても晴れやかなものだった。

ABOUT ME
マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 漫画が好きです。コンビニも好きです。
こちらもよろしくお願いします
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー17

2023年3月28日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
殺す。殺す。  こいつは増田の、増田の大切な人を奪ったんだ。  蛍を殺したんだ。  それに天使のルールを破り、こいつは地獄の果実に手をだした。  こいつを …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第2章ー14

2023年1月30日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「ううん変わらないよ」 「え?」 「この気持ちはずっと変わらないよ」  だから輝希は口にするのだ。言葉にしなくても彼女には伝わっているかもしれない。でも、その想 …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー18

2023年1月25日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「……」  まさかの同棲宣言に沈黙する蛍。僕達から一歩退きその表情も少し引きずっていた。かと思いきや、 「へえ〜、そんな深い関係なんだ〜。輝やる〜」  といつも …
エンジェルゲートサムネ オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第1章ー8

2023年1月24日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
 テーブルにがくっと項垂れるレミ。どうやらその赤いなんとかが見れずに落ち込んでいるらしい。でもなんで今ここでそれを言うのだろう。輝希は戸惑いながら、 「で、さっきからその、 …
オリジナル小説

オリジナル小説 ボラ魂3ー3

2024年5月19日
3億円詐欺られたweb漫画家・マーティー木下の部屋
「え〜と、じゃあ、ゴホン」  黒板前の教壇へと立った実。わざとらしく咳払いを一回。ちなみに柚菜はその隣の椅子にちょこん、と座っている。真子は黒板正面の席に着き待機。すると実 …

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です