オリジナル小説

無料小説 ボラ魂2ー19

「いや〜、参った〜」

 ゲーム終了後。すぐさま審判台下へと集まった三人。実は晴れ晴れした笑顔で、真子へと賞賛を送る。

「完敗だぜ真子。俺の負けだよ」

「あ……はい」

「んだよ〜。俺に勝ったんだから、もうちょい嬉しそうにしろよ〜」

「いや……でも」

 真子は戸惑っていた。美子の言葉。それがなければ真子は確実に試合に負けていた。そしてあれは試合中に許される行為ではない。それに美子を傷付けてしまった。だから真子は素直に喜べないのだ。そんな真子を励ますように、美子は少し微笑みながら、

「実さんの言う通りだよ真木。あれは私が勝手にやったこと。だからあんたは関係ない。気にしないで」

「美子……」

「そうそう。だから素直に喜べよ。な?」

「そうですね……ありがとうございます」

 真子は思う。きっと二人も悔しい思いをしているのに、と。だけどそれを言うのはすごく失礼な行為だ。だから真子は素直に喜ぶ事にした。

「あ〜。でもこれでボランティア部入部の話は無しかぁ〜。どうするかな〜」

「っ……」

 そう、真子は賭けに勝利した。だからボランティア部に入る必要はない。もう実に付き回される事もない。だが、真子の心は曇ったままだった。なぜなら、真子はまだ果たしていない事があったから。逃げていたものがあるから。でも、今なら少しだけ先へ進める気がする。

「実さん部員はもう諦めて、楠さんとイチャラブやってたら〜?」

「ん〜。俺はむしろそれでもいいんだけど、さすがに二人だとなぁ〜」

「あのっ、先輩」

 顔を真っ赤にして二人の会話に割り込む真子。その瞳には迷いと覚悟が宿っていた。実はそんな真子を不思議に思いながら、

「ん? どうした真子?」

 真子はラッケトのグリップを指でいじり、恥ずかしそうにモジモジする。そして自分でもわけが解らないまま、

「その、入部の事なんですけど……やっぱり、少し考えさせて下さい」

「えっ」

「なっ! マジかっ!? なして!? なして!?」

 真子の言葉に驚きを露あらわにする美子と実。実に至ってはよほど嬉しかったのだろう。あまりの興奮で何を言っているのかよく解らない。そんな様子の実にたじろぎながら、真子は手をブンブン振って、

「いやっ、あれですよっ。ただ考えるだけですからねっ。まだ入るとは言ってませんからっ」

「なんだ。そっか〜。まあ、別にそれでもいっか……でも急にどうしたんだよ。前はあんなに嫌がっていたのに」

「……そんな大した理由じゃないんですけど。ただ、」

「ただ?」

「……もうこれ以上逃げちゃいけないな。って感じて……」

「ん? どういう意味だ?」

「べっ、別になんでもありません。それじゃあ今日はもう失礼しますっ」

「あっ、おい真子」

 早口で告げた真子。顔はまだほんのり赤い。でもその声色は照れているものとは違う。まるで何かに怯えているよう。急ぎ足で施設の方へと帰っていく。ラケットを抱え走るその後ろ姿は、とてもか弱くみえた。

「ふう、なんなんだよ。あいつは〜?」

「……とか言って全部解ってるんじゃない?」

「なんのことだ?」

「別に〜。あ、そういえば実さん」

「ん?」

「さっきは……その、すみませんでした。試合中に大声出しちゃって……」

 照れながら試合での失態を詫びる美子。何気ない振りを装っているが、おそらくずっと気にしていたのだろう。実に迷惑をかけたことを。やっぱり律儀だな。気にすることなんてないのに。そう思い、実は思わず苦笑した。

「ああ、気にすんなよ。真子の事を思ってやったんだろ。だったら別にいいって」

「ありがとう。じゃあ、今度は実さんが謝る番だね」

「へ?」

 瞬間、美子は実の襟元を右腕でガッと掴んだ。そしてニッコリ笑顔で、

「どういう事なの? 休日に用件も伝えず人を呼び出しといて。しかもなぜか真木もいるし。さらになぜか賭試合なんてやってるし。ねえ、どういう事なの?」

 顔は満面の笑み。だが心は怒りで爆発寸前。いままで堪えていたものを全てぶつける美子。気のせいかその背中には黒いオーラが見える。実は珍しく笑顔を引きつらせながら、

「おっ、落ち着けって美子。クールなとこがお前の持ち味だろ?」

「じゃあ今日でやめます」

「そんなスッパリ!?」

「はあ。そういうのはもういいから。早く言って下さい」

「いや、だってしょうがないだろ〜」

 まるで恐喝されている状態の実。苦笑いでおどけたように、

「お前の望みを叶えるためなんだからさ」

         ★

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マーティー木下@web漫画家
web漫画家です。 両親が詐欺被害に遭い、全てのお金と職を失いました。 3億円分程の資産を失いました。 借金は800万円程あります。 漫画が好きです。コンビニも好きです。
マーティー木下

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マーティー木下の代表作 自称いけづらの浅間君が主人公の漫画です。
いけづらってなんだろ、いけづらってなに。 自称いけづらの浅間愁と周りが繰り広げるぐだぐたコメディ漫画です。 短いページ数ですので、是非気軽にお読みください。

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小説家になろうにも掲載されている、私が昔書いたライトノベルの紹介です。
オリジナル小説エンジェルゲートあらすじ

少年、増田 輝希(ますだ てるき)は天使に取り憑かれていた。
「ご主人〜」
そう可愛らしい声で彼を呼ぶのは天使のミカ。
薄桃色のショートボブの少女だった。
「増田のマスター」
その隣で不機嫌そうに呟くもうひとりの天使レミ。
小麦色の褐色肌、さらっした黒の長髪を風になびかせていた。
この二人はタイプは違えど共に整った容姿をしており、何も知らない人がみれば羨むような状況だろう。だが、当の本人輝希の顔は浮かない。彼は二人の天使を交互に見て思うのだ。
一体、なんでこんな事になってしまったのかと。

*少年と天使が織りなすラブコメディです。

2011年頃に書いた作品になります。拙い作品ですがよろしくお願い致します。


小説家になろうにも掲載されている、私が昔書いたライトノベルの紹介です。

オリジナル小説ボラ魂あらすじ

私、真木真子は努力が嫌いだ。
禄那(よしな)市立美咲(みさき)高等学校に通う一年生・真木真子(まきまこ)。
毎日をぼんやりと過ごしていた彼女の前に、
ある日突然現れた先輩・椎野実(しいのみのる)。そして彼は戸惑う真子にこう言い放つ。
「ボランティア部に入ってくれ!!」

*ボランティア部を舞台にしたラブコメ作品です。2010年頃に書いた作品になります。
データが残っていたので、せっかくなのでサイトに順次掲載していきたいと思います。
めちゃくちゃ拙いですがよろしくお願いします。

https://mkinoshita-home.com/?p=2446
https://mkinoshita-home.com/?p=2975
https://mkinoshita-home.com/?p=3088
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