オリジナル小説

オリジナル小説 エンジェルゲート第4章ー15

エンジェルゲートサムネ

当然だ。だってイワンは元の場所から一歩も動いてはいないのだから。ただその場で長い爪で自分を傷つけぬよう軽く拳を握っただけだ。ならばその痛みの正体は、

「ふん、私の怒りの感情を伝ったのか」

 天使はそれぞれ何かを媒体にして力を発揮する。イワンの場合それは対象の感情。そしてその力は相手の感情が大きい程に比例して力を増す。蛍に対して力を流したように、それは強い感情を秘めていればレミ達天使にも言える事だった。

「ああ。レミ、今君は普段と変わらないように見えて、その心はひどく荒れているようだな。オレはこの力のおかげで相手がどんな感情を秘めているのかがわかるんだ」

 微かにレミの心が揺れたのをイワンは感じた。やはり図星だったようだ、彼は黒く長い爪を弄りながら、

「悪魔になった今はなおさら手に取るように、ね」

 悪魔。そういえば彼は言っていた、力の加減が分からない、不安定になった、と。だがその力は以前となんら変わらないように感じる。レミは出来るだけ感情を抑えるようにしながら、

「イワン、お前、悪魔になって力が不安定になったのではなかったのか?」

「使えなくなったとは言ってないさ。あの時は悪魔に成りかけていたせいか、自分の思うように力を使えなくてね。しかし完全に悪魔となった今は非常に調子がいいんだ……天使だった時よりはるかにね。君もそれは感じているのだろう?」

「……確かに、な」

 まだ後頭部が酷く痛む、鈍器で思い切り殴られた類いの痛みだ。攻撃としての彼の力を受けたのはこれが初めてだが確かに以前を超える威力を有しているように感じる。蛍の時がそうだったようにイワンの力は傷の治癒等にも利用する事が出来る。だがいずれにせよ相手が相当の感情を秘めていなければここまでの力を振るう事は出来なかったはずだ。それがレミの押し殺した殺意にですらもここまでの力を流せるようになっているのだ。ならば、

「ふ、感情を抑えて距離を取ろうというのか」

「ああ、力は増そうと、その性質までは変わっていないだろうからな」

 飛ぶようにレミは後ろへと距離をとる。彼の言う通りだ、確かに能力は上がっているようだが元々は同じ力、ならば対策法はある。

 イワンの力は対象との距離+相手の感情の大小で効果が決まる。それにその能力の欠点は相手との距離、感情といい、つまりは相手に依存するしかないという事だ。イワンの力は自分の感情が高ぶったところで力の強さに影響されないのだ。ただ悪魔となった事で能力の質は上がったようだが本質が同じならおそらく弱点も変わらないはずだ。イワンはそれを間接的に認めたようで、

「冷静な判断だ。だがそれは時間稼ぎにしかならない」

 確かにこれはイワンの能力に対して有効な策。しかしだからといってこちらの優位が変わるわけではないのだ。

「君の力は知っているよ。確か練り物? というのかな。とにかくその食物を媒体にして発揮するのだろう」

 尊敬、そして愛情すら感じていたレミ。だがイワンはそんな彼女にも一つ気に入らないところがあった。

 それは、まるでハズレとしか言い様のないレミの能力だ。

 練り物、それは天界にも一般的に存在する物ではある。だがそれに力を伝えれたとして何になるのだ。レミは通信機として使用する事はよくあったが、闘いで力を使った事は一度もなかった。戦闘に向かない事は彼女自身認知しているという事だろう。それに通信に関しても感情、つまり天使から天使へ直接力を送れる能力を持つイワンの方が優れているといえる。加えて今のイワンは完全に悪魔となり以前より確実に力が増しているのだ、能力ではイワンは彼女を圧倒している。だからこんな距離をとろうと無駄な事、初めからレミに勝ち目などないのだ。

「ふふ、君の唯一の欠点だな。そんな力があったところで戦闘においては全く役にたたーー」

 瞬間、彼の左の小指から生える長く異様な爪は“白い何か”によって切り落とされた。

「ちっ! 何がーー」

「役にたたない。そう言いたかったのか」

 静かに呟くレミ、その右手には白いプラスチックの箱が握られていた。左手にはフタを持っておりどうやらその中身がイワンの爪を切り裂いたようだ。

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マーティー木下@web漫画家
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