「はい……何ですか?」
すうっ、と柚菜は息を吸い、
「あなたは“すごいV・ま〜さし”が好きで月刊VーLIFEの質問コーナーに投稿して、意味の解らないファン魂を見せて珍質問をしたと言うのは本当ですか?」
「長っ!! しかもさっきの話と全然関係なかった!」
「柚菜〜、それ何の話?」
「ええ。実はねーー」
「わっーー!! だからその事はもう忘れて下さい!!」
慌てて柚菜を制止させようとする真子。柚菜はくすくすと笑い、
「あら、なんで止めるの? せっかく私が質問したのに」
「う〜。質問ていうか脅迫じゃないですか……はあ、心配して損しましたよ……」
「ふふ。一体何を心配したのかしら?」
イジワルな笑みで問い掛ける柚菜。それに対して真子は俯いてモジモジしながら、
「何って、その、あの……臆病者とか、そう言う風に思われたんじゃないかって……」
「馬鹿ね。私はそんなこと思わないわよ」
「……本当ですか?」
「ええ。だって、」
そこで柚菜は微笑んだ。それはさっきまでの意地悪な笑みではない。人を励ませる彼女本来の笑顔。あの日、真子に見せたものだ。彼女はその笑顔でしっかりと真子を見つめて、
「私は逃げているような人を入部なんてさせないわよ」
そうはっきりと言い切ったのだ。きっとそれは不器用な彼女なりの励まし方なのだろう。そう考えると自然と笑みが溢れた。真子は少し照れて顔を赤くしながら、
「柚菜先輩……ありがとうございますっ」
「ふふ。まあ私も応援しているから、せいぜい頑張りなさい」
「はいっ」
「ふふ。そう。じゃあ……そうね。次は連絡先を交換しましょうか」
「はい? 連絡先ですか?」
「お嬢さん。これでよろしいですか?」
急にズイっと柚菜の目前に移動した実。その手にはいつの間にか携帯電話。キザな笑みで柚菜へと話しかける。それに対して柚菜は無感情に、
「ええ。てめぇのは知っているから黙ってろ」
「……はい。すみませんでした」
そして実はすごく落ち込んだ。
「ふう。この馬鹿は放っときましょう。さて、あなた携帯は持っているのかしら?」
「あ、はいっ。ありますよ」
「そう。じゃあ番号を教えてもらえる? あなたは学年も違うし、連絡先をしらないと不便だから」
「まあ確かにそうですね。ちょっと待って下さい」
そう言い机の横に掛けてあった鞄を上に置く真子。立ったまま鞄のサイドポケットをガサガサ。ピンク色のdomomoの携帯を探す。すると実が少し驚いたように、
「へ〜、真子って携帯持ってんだな。意外だ」
「ありますよ。高一なら普通だと思いますけど。先輩は持ってないんですか?」
「いや、あるけど」
「じゃあ、なんで聞いたんですか?」
「だって友達いない奴って割と持ってないだろ」
「なっ!?」
絶句する真子。携帯捜索中止。真子はその場に立ったまま大声を上げて、
「いきなり心外なこと言わないで下さい! ちゃんといますから!」
「え〜。う〜そだ〜。だって友達いる奴があんな笑顔でヒトカラできるわけがねえもん」
「だからしつこいですって! 他の人は部活なんですよ! それで仕方なく一人で行ったんですっ!」
「仕方なくってなんだよ! まず一人でカラオケに行く必要がないだろ! 休みの日にみんなで行けよっ!」
「いやっ、まあ、それはそうですけど……」
「だろ〜? そ〜れ! そ〜れ! 化けの皮が剥がれたぜ!」
「むっか〜!!」
我慢の限界。真子は机を叩き、顔を赤くして、
「いいですか先輩! 恥ずかしいので黙ってましたが、あれは私が月一でやっている “ま〜さしへの信仰を深める儀式(ていうか会)”なんですっ。よって私が認めた人しか入れません! だから一人でやってたんですよっ! 勘違いしなで下さい!」
「何その会!? 逆に勘違いするだろ! 怖いな、お前……」
「そんなに引かないでくださいっ! だから言いたくなかったんですよ!!」
「二人ともうるせえ。黙れ」
再び無感情で呟いた柚菜。柄も知れぬ威圧感。真子と実は圧倒され、
「う……すみませんでした」
「はい……私めが調子をこきました」
「はあ……あなたもこの馬鹿に振り回されるとロクな事ないわよ。あまり関わらないようにしなさい」
「そうですね。このしつこいバカの事はシカトします」
「あれ? 今さらっと付け加えなかった?」
笑顔で問い掛ける実。でも真子は華麗にシカト。再びサイドポケットに手を入れて、
「あっ、ありましたよ。柚菜先輩」
「ええ。じゃあ赤外線通信で送りましょうか」
「はいっ。わかりました」
そう言い黒板の方へ進む真子。座っている柚菜と携帯同士を近づける。そしてメニューから赤外線送信の画面を開いて、
「えっと、じゃあ私から送らせてもらいますね」
「ええ、どうぞ」
ポチッと決定ボタンを押す。送信開始。しばらくして画面表示が切り替わる。送信完了だ。柚菜は携帯画面を見ながら、
「ありがとう。これで登録完了ね。真木真子……改めて見ると略語みたいね。いったいなんの略称なのかしら?」