「あはは、輝希、相変わらずドジだなあ」
クスリ、と微笑む蛍。その顔はどこか嬉しそうに見えた。
「ふむ、二人とも同じ物買っちゃったんですよね」
なんて偉そうな態度をとるミカを見て輝希は思う。ああ。お前のせいでな。と。
「じゃあ二人とも着ければいいじゃないですか。おそろい、ペアルック? ですよ」
ミカの上からの物言いにムカついていると、急にそんな事を言い出したのだ。
「えっ」「えっ」
動揺して顔を見合わせる二人。そして同時に顔がほんのり赤へと染まるのだ。まあ確かに蛍にプレゼントできない以上、輝希の方は自分が使った方が無駄にならない、輝希自身お気に入りのブランドではあるわけだし。しかしそうすると……、
「おそろい……か」
静かに呟いたのは蛍。別に一緒に着けなければいいだけかもしれない、でも、それでも蛍と 同じ物を持っているという事に変わりはないわけで……。それにせっかく同じ物を持ってるならと……。とにかくなんだか恥ずかしい気持ちになるのは間違いないのだ。すると蛍は意を決した様子で、
「じゃあ輝希、これ交換しない?」
「え? 同じやつなのに?」
彼女にしては珍しく照れているような表情だった。はにかんでいて、顔は輝希よりも赤くなっている。
「うん、だって輝希は私にプレゼントしたかったんでしょ……それに、これなら私も、輝希にプレゼント出来るし」
言葉の最後に行くにつれて徐々にその声量は弱くなっていった。蛍にしては珍しく女の子らしい発想だったからだろうか。言い終わる頃には彼女の顔はまたほんの少し赤くなっていた。
「蛍……」
普段とは違う女の子の表情、それに、私も輝希にプレゼント出来る、そんな風に蛍が思ってくれた事。その全てが、とても愛おしくみえた。
「うん……そうしよっか」
優しく呟いた輝希。静かに輝希は蛍に、蛍は輝希に、彼等は互いにネックレスの入った箱を手渡す。そして数秒の間、二人は見つめ合った。
「ありがとう、大事にするよ」
「うん、僕もするよ……絶対に」
この時、彼女に貰ったネックレスは今も僕の机、二番目の引き出しの中に閉まってある。
もし、彼女より好きな人……ありえないけど、もしそんな人があらわれたとしよう。
でも、それでも彼女は僕にとって大事な人に変わりはない……だから彼女にもらったこの宝物は、一生大事にするよ……絶対に。
「ところで輝希さっき、この前のお詫びって言ったけど、もしかして……レミちゃんに私が怒鳴っちゃった時の事を言ってるの?」
「え、うん……なんだかレミが失礼な事をしちゃったのかなって……ほらこの二人ってあんまり日本にいなかったから非常識な所があるからさ」
「む」
日本というよりこっちの世界にあまりいた事がないのだが、そこは言うわけにもいかなかったので嘘をついた。しかし非常識だというのは本当だ。その言葉にミカがピクリと反応したが今は放っておこう。
なんでなの。なんであなたが謝る必要があるの。それに、どうして彼女が私に失礼な事をしたと思うのだろう。あの状況で、どうして私の方を信じてくれるのだろう。
「バカだな、ホントバカ……アンタは」
私はそんな人間じゃないのに。もっと卑怯な人間なのに。
「蛍? 何か言った?」
「ううん、別に」
心配そうに蛍を見上げる輝希。そんな彼が愛おしくて、彼女はうっすらと微笑むのだ。
大事にする。私は今言った。でもいつまでだろう。いつまで私は大事に出来るのだろうか。このネックレスを。この日々を。
ううん、それはそんな長い話ではない。きっと、もう少しで、
「とっ」
急にグラリ、と蛍の身体が傾いた。その動きはあの日の光景によく似ていて、やはりあの時、彼女は何かに躓いた訳ではないという事がハッキリとわかった。
「蛍っ!?」
すかさず彼女の身体を抱きとめる。その身体は輝希が想像していたよりも軽くて、そして彼が想像していたよりも、ずっとーー
「っ」