「……ですよね」
「何かいいました?」
「いや別に、ってか違うよ、レミにあげるのはこのイヤホンだけだよ」
「じゃあなんで買うんですか、素直に白状しないとこの後のお持ち帰り用ハンバーガーが増えますよ」
「どんな脅しだよ」
キッ、とした目で輝希を見上げるミカだがその姿は怖い、という事は全然なくむしろかなり可愛く見える。輝希はそれを見てるとなんとなく目を逸らしてしまった。
「えっと……蛍にもプレゼントを買っていこうかなと思ってさ。なんか迷惑かけちゃったみたいだし」
「次から次へと女の気をひこうとしますね。見境ないんですか」
そう言い放つミカの態度は酷く冷めたものだった。完全に女たらしを見る、侮蔑の視線ですね。はい。
「だからそう意味じゃないって……何が理由かは分からないけど、二人に嫌な思いをさせちゃったじゃん。だからさ」
本当は輝希がこんな事をするのはおかしいのかも知れない。あの日二人の間に何があったのか。レミ、蛍、果たしてどちらに非があるのか。それを知らない自分が。そしてその真実と言うのは二人のどちらかに聞けば分かる事だろう。でも、なぜかそうしようとは思えなかった。
だって、聞いたら何かが壊れてしまう気がしたから。
「なら私だって迷惑しましたよ。あんな大盛りのおかずを食べさせられて」
「そうかじゃあ今度から減らしてもらうよ」
「嘘ですっ、大感謝ですっ」
ビシッ、とした敬礼をするミカ。彼女の便乗作戦はあっさりと言葉負けした。とは言えあのときは輝希の母親も帰って来ると思い蛍は料理したのだ、だから普段からあんな量を蛍が作るわけではないのだが。まあわざわざ伝える事でもないか。そして、次に料理をごちそうになる時は何にせよ量が少なくなるという運命とも知らずに、ミカは逆に蛍をヨイショする作戦へと出る。
「そうですね、蛍さんの機嫌を取るのは大事ですよねっ! 渡しましょうプレゼント! ……へへへ、それが全て食に」
「……納得してくれたようで嬉しいよ」
欲望丸出しだけどね。
とは言え渋ると思っていたミカが案外素直だったので一安心した輝希。そして二人は飲食店の前に目的の装飾店へと向かった。
畠山駅北口、畠山市の中心街であるそこに交差点をまたいで存在するビル、地上5階地下2階からなるショッピングモール・畠山シエル。物販80店舗、飲食25店舗からなるその中の1階にあるのがイギリスのファッションブランド、バーリー・イースの畠山支店だ。蛍が昔からこよなく愛する、そしてその影響から輝希自身もお気に入りのブランドだった。
「いらっしゃいませ」
店舗の自動ドアをくぐる二人を迎えたのは大人びた女性のあいさつ。横を見ればスーツに身を包んだ歳は20半ばの女性がこちら見て会釈をしていた。少しキツいを受ける顔立ちだが育ちの良さ、礼儀正しさを感じさせる店員だ。
店内には輝希達を含めて数人の客の姿、しかしそこに特に会話や笑い声はなく、室内は静かで上品な空気に包まれていた。が、
「増田さん、このショーケースだけで肉3年分はありますよね」
空気にそぐわない女の子が一人いましたね。
「あまり変な事言わないでよ。さっきの電気屋と違ってここじゃ恥ずかしいし」
見た目は美少女。頭は肉の事しか考えていない。その答えは残念美笑女ミカだ。
「そうですね。豆電球の100倍のお値段はする物ばかり。これは大変な事になりそうですね。増田さんのお財布が」
「まあ、覚悟はしてたし……」
ミカの言う通り、さすが一流ファッションブランド。小物でも豆電球(150円)が腐る程買える価格だった。
「金に糸目はつけないとして……どれがいいかな」
バーリー・イース。一言でファッションブランドといってもその商品は服や時計等から始まり、傘やハンカチ等まである。一応漠然とした希望としては常に見につけれる物、やはりプレゼントするならいつも持っていて欲しいからだ。という事で財布から見始めてはいるがどうだろうか。だが財布はいまも別の財布を持っているだろうからあげても使ってもらえない可能性があるし、指輪等では正確なサイズが分からない。
ならばネックレスはどうだろうか。ネックレスならサイズは関係ないしいつでもつけてもらえる、それに財布と違い他の物を持っていても使いやすいだろう。と中央のショーケースを眺めていると、
「お」
一際目を惹く商品があった。それはバーリー・イースのロゴがネックレスになったシンプルな物。しかしその飾らない感じが蛍に似合う気がしたのだ。