「というかさ、仮に死んでたらその状態でもこうやって身体が普通に動いてるなんて事があるの?」
「ふむ、まあ割と簡単に可能な事だぞ。例えば死んだ肉体に一度離れた魂をいれたとする。そうすればその身体は再び活動を始める」
とそこでレミは一呼吸入れて、
「だが一度死んでるから何かしらの問題は起きてしまうのだろうがな……まあ詳しくは分からん。これは下界の秩序を乱すから禁止されていることだからな」
「諸説あると思いますけど、ゾンビってやつですよ。ゾンビ」
ニコッと笑い補足するミカ。問題が解決したからだろうか、彼女はとてもスッキリとした顔をしていた。しかしゾンビか。まあ噂とか伝説だけで実物が発見された例はない、と言う事は天使達はちゃんとルールを守っているのだろうな。と輝希は考える。そこでふとレミをみると彼女は未だ不機嫌な顔をしていた。彼女は腑に落ちない様子で、
「いやしかしおかしいな」
「何がです?」
「昨日私が事故現場に行った時にな、増田の手首を持って魂を抜こうとしたんだ」
昨日の事故直後を思い浮かべながら話すレミ。どうやらあの時輝希の身体を持ち上げていたのは、彼を天界へと送るというより輝希の魂を抜くためだったらしい。
「その時にも脈に触れていたがな……確かに停止していたぞ。それに、」
「昨日はこんなに元気だったか? もっと負傷してたし、それにもっとなかったろ」
言われて自分の身体を見渡す輝希。服が昨日と変わっているのはおそらく彼女達のおかげだろう。だがそれ以外は二人の仕業ではないらしい。確かに彼の身体には一切の傷がなかった。事故が現実のものだったのだとするならばそれは明らかに異常な状態だった。それにもっとなかったって一体なんの事なのだろう。輝希は不気味に思いながら、
「え、ないって何が?」
「いや鼻とか目、身体のパーツがさ」
「こわっ! やめてよ思い出させないで!」
さらっとゾッとする事を言い出すレミ。なんとなくその状況を覚えているだけに余計怖い。するとその空気をいい意味で壊すように間の抜けた声で、
「でも確かに不可思議ですよね。死亡報告装置もなりましたもんね。あれが鳴ったって事は増田さんは死んだって事ですもんね〜」
「ああ、そうだろう。それにミカの言ってる事が本当ならば、装置は二回なった事になるんだぞ」
「そうですね、その事がまだ解決してませんし」
とりあえず輝希が実は生きている事は判明した。しかしその理由は未だ解らず。彼女達は再び俯き、
「ふむ」
「うーん」
と低く唸りあれこれと思考する。が、しばらくそうしていたかと思うと突然スッと立ち上がって、
「帰るか天界に」
「そうですね。一応解決はしましたし、帰りますか」
なんて事を急に言い出すのだ。輝希は手をバッと出しながら、
「えっ、ちょ問題を放置したまま帰るのっ」
さすがにいい加減すぎるだろう。そう思い止めたのだが、
「だってこれ以上ここにいても解決などしないしな」
「ええ。とりあえず一番重要な事は解決しました。後はその手に詳しい人や上司に相談しないといけませんので」
確かにこのままではいくら時間が経っても事態は解明されないだろう。彼女達の言い分はごもっともかも知れない。だが待ってくれ。まだ僕にとって重要な事を聞いていない。
「いや待ってよ。というかこれから僕はどうすればいいの?」
君は生きていました。だから私達は帰ります。果たしてそんな簡単な事でいいのか。そう思い呼び止めたのだが、どうやら本当にそれでいいらしく、
「別にどうする事もないさ。君は助かったんだ。今まで通り生きればいい」
「そうですよ。ちなみに昨日の事故は無かった事になってますので、面倒なトラブルもなく日常に戻れますよ」