昼休み。一年二組の教室。授業から解放されて騒ぐ生徒達。購買に行く学生。談笑する女子。エロ本を見始める岡崎達。等、やることは様々だった。
「真子〜、そろそろ行く〜?」
声の主は千佳子。ゆったりと真子の席に歩み寄る。手には弁当箱と水筒。
「う〜ん、もうちょい待ってっ」
真子は自席に座り白の鞄をガサガサ。
「おっ、あった、あった。ごめんち〜こっ。行こっか」
鞄から弁当箱と水筒を取り出した真子。自席を立ち千佳子と廊下の方へ歩いていく。すると、
「水澄待ってくれっ!!」
そこで呼び止められた。真子と千佳子は振り返る。そこには岡崎、それと後ろに、奈川ながわと松野まつのがいた。いわゆる下衆げす三人組だ。
「な〜に岡崎君?」
「おっ、お前達は、今からどこへ行くつもりなんだっ?」
「どこって……手芸部にご飯食べに行くんだけど?」
嫌な予感しかしない。真子はツンとした態度で答える。
「そうか、いやそのなんだ……。たまには教室で食べないか? 俺達と一緒に」
後ろで奈川と松野が、うんうん、と頷く。
「はぁ? なんでアンタ達と?」
「いやっ、たまにはいいだろっ。なっ? 水澄はいいよなっ?」
「う〜ん、どうしよ〜〜」
「ち〜こ、行こっ。多分ロクな事ないから」
千佳子の手を引き、無理矢理にでも廊下の方へ。早く行ってしまおう。
「あぁっ。真子早いよ〜。じゃあ岡崎君達、また後で〜」
にっこり笑顔で、岡崎達に手を振る千佳子。
「ちぃっ、逃がすか! 奈川っ、松野っ、やるぞっ!!」
『おうっ』
三人は息を合わせて、フォーメーションを形成。そして、
「水澄っ、真木っ、こっちを見ろぉ!!」
「たくっ、なんなのよぉ」
「「「ねぇ〜、ぼきゅたちといっちょに、ご飯食べるピョン!!」」」
岡崎の大声に、仕方なく振り向くと、そこには奇妙な光景があった。岡崎、奈川、松野(全員175cm越え)が、中腰の上目使いで、目を極限に開き、ウサギ(?)の真似をしていた。カワイイよりも恐怖を覚える姿だ。
「はあ〜〜、ね? 言ったでしょ? ロクな事ないって」
「う、う〜ん。そうだね〜〜」
呆れる真子、苦笑いの千佳子。岡崎達は驚愕の表情を浮かべ、
「なっ、なぜだっ。作戦は完璧だったのにっ」
真子はジト目で、
「作戦って何よ?」
「ふふふ、こうやってカワイイ仕草をとる。すると水澄が抱きついてくる。そして巨乳に自然にダイヴできるという、朝考えた俺のーー」
「あんた、前々からイラッときてたけど、私の親友を変な目で見んなよ」
岡崎が妄言を終える前に、真子は近付き襟元を掴みキレる。岡崎は完全に戦意喪失で、
「いやっ、ホント違うんですよっ。でもほら、やっぱり気になるじゃないですか。あれだけ立派だとっ」
「それがいやらしいって言ってんの」
「真子〜、もうそれぐらいにしてあげなよ〜〜」
千佳子が後ろから、救いの言葉を投げかける。岡崎は、歓喜の涙を流しながら、
「うぅ、水澄……ありがとう」
「ち〜こ。こういうのは一回シメないと駄目なんだよ」
だが無駄だった。さらに襟元を締められる。
「ひいぃいぃ!!」
絶対絶命。岡崎はそう考えたが、
『リーダー、弱すぎすわっ! 情けなくねぇのかよ!』
『そうだぜ! 今日こそ根性みせてくれよ!』
「お前等……」
後ろから仲間(奈川、松野)の声援。岡崎は勇気を取り戻し、
「へっ、そうだなっ。やってやるよ! 今日こそ俺はこの貧乳野郎をーー」
「はい、アウトーー」
ドスン!!
地雷を踏んだ岡崎は、股間を蹴られて一撃。地面に倒れ伏した。
「「リーダーぁあぁ!!」」
奈川、松野がリーダーの死を嘆いた。
真子は地面に転がる、岡崎を見下ろす。岡崎 漣弥。真子の中学からの知り合い。下品で、すごくうざったい存在。だが時には、真子を励ますムードメーカー的存在でもある。つまり、うざくも憎めない奴だった。
真子は千佳子の方を向き、
「ふぅ、無駄な時間過ごしちゃったね。早く行こっか」
「う〜ん、可哀想な気もするけど、そうだね〜」
そうして二人は教室を後にした。